【産経正論】感染症の「有志情報同盟」構築を

【産経正論】感染症の「有志情報同盟」構築を
【産経正論】感染症の「有志情報同盟」構築を

2020.5.15産経新聞

                  福井県立大学教授・島田洋一

 中国共産党政権(以下中共)が武漢での感染症発生にいち早く警鐘を鳴らした医師らを弾圧せずに情報を開示し、世界保健機関(WHO)が専門家集団としての責務を果たしていれば、ここまでのパンデミック(世界的大流行)となることは防げたはずである。

≪国連機関の構造的弱点≫

 では中共やWHOに強く反省を迫ることで事態は改善するか。事はそう簡単ではない。中国については、現在のファシズム体制を倒し自由民主化を実現する以外、根本的な解決策はない。WHOは国連全般に通ずる構造的問題を抱えている。この点、示唆に富むのは台湾の対応である。

 台湾は、中国と地理的に近く経済的結びつきが深いにもかかわらず、ほとんど死者を出さぬまま収束に成功しつつある。中共とWHOを信用せず、独自の情報収集と分析に基づき速やかな行動に出たおかげである。

 台湾当局がヒト・ヒト感染の可能性をWHOに通告したのが昨年12月31日。しかしWHO指導部から反応がないため、自主的に往来停止などの措置を取った。WHOがようやく緊急事態宣言を発したのが1月30日。この間の対応が各国の被害状況を大きく分けた。

 WHOを含む国連機関は、寄り合い所帯という組織の性質上、米CIA、英MI6のような独自の情報機関を持たない。役所の窓口同様、各国から寄せられるデータを待つだけで、自ら踏み込んだ情報活動をする体制も能力もない。

 この構造的弱点に輪をかける事情がある。脅威に直面する度合いが大きい国ほど情報戦の意識が高い。併合意図を隠さない中共と向き合う台湾、各種テロ勢力に囲まれたイスラエルが典型である。

 ところが国連はその台湾とイスラエルを継子扱いしてきた。台湾は中共の圧力で加盟すら認められず、イスラエルはアラブ諸国や国際左翼勢力の圧力で一度も安保理非常任理事国に選ばれていない。

 近年国際的に被害をもたらした感染症では、SARSと武漢肺炎が中国、MERSが中東を発生地とする。中国と中東は今後も要警戒地域だろう。感染情報を素早く得、自衛措置を講じるには、台湾とイスラエルを含んだ情報ネットワークづくりが肝要となる。それは国連機関には期待できない。

≪拡散防止構想PSI参考に≫

 といって新たに有志による「第2WHO」をつくるといった発想も誤りだろう。鈍重な国際官僚機構をもう一つ生み出すだけで、かえって機動力を損ないかねない。
 正解は、有志諸国が、それぞれの情報機関に感染症部門を設け、本格的な情報収集活動に当たるとともに連携を密にしていくことにあるのではないか。

 この点で参考になるのが、ブッシュ(子)政権時代に立ち上げられた拡散防止構想(PSI)である。核関連物資の密輸阻止が主目的で、本部ビルや新たな官僚組織などはつくらず、有志諸国間の情報網構築や共同訓練など現場レベルの取り組みが重視された。「PSIは組織ではない、行動だ」が構想の中心人物、ボルトン国務次官(当時。のちトランプ政権で大統領安保補佐官)が強調した言葉である(逆に「国連は行動ではない、組織だ」と揶揄(やゆ)している)。

 NATO(北大西洋条約機構)やEU(欧州連合)も参加させるという話が出たが、ボルトン氏は拒否した。それら巨大官僚機構を関与させると会議が増えるばかりで即応性を失うからである。

 このPSIの成果の一つが、核物質を積んでリビアに向かう密輸船の拘束だった。突破口を開いたのはイスラエル対外特務機関(モサド)で、秘密取引の仕切り役、カーン博士がジュネーブのホテルに滞在中、部屋に潜入した情報部員が、カバンの書類を多数写真に収めた。その中に核運搬船の情報が含まれていたわけである。

≪熾烈な情報戦の一面認識を≫

 感染症についても、場合によってはこのレベルの諜報活動も必要となろう。しかし、情報を他国と共有した時点で、収集方法についてもある程度の推測がつく。信頼できる国しか中核メンバーに入れられないゆえんである。
 感染症の「情報同盟」も中国抜きのものになるだろう。そもそも中共が正直に情報を出すなら特別の情報同盟など必要ない。中共も情報の共有先なら、中国人の誰も機微な情報を提供しなくなろう。

 また中国の情報通信企業ファーウェイのシステムを採用するような政府も中核メンバーにふさわしくない。アメリカのクルーズ上院議員に「4つの目は6つの目に勝る」という名言がある。クルーズ氏を含む米国の保守派は、英国政府が「中国のスパイ機関」ファーウェイの製品を通信システムに組み込むなら、米英豪加ニュージーランドによる情報同盟「ファイブ・アイズ(5つの目)」から外さざるを得ないと主張してきた。

 目が4つに減っても、英国を通じて中国という6つ目の目が覗(のぞ)き込む状況よりはるかによいという意味である。今後の感染症との戦いは熾烈(しれつ)な情報戦の一面も持つことを意識しておかねばならない。(しまだ よういち)


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