馬英九・台湾新政権の支持率が急低下している。中国との交流拡大を通じた経済浮揚
を唱え3月の総統選に大勝したが株価・は低迷、日本との関係は陰り、対米関係の修復
も進んでいない。弱体政権の急速な中国傾斜に台湾の将来を危ぶむ声が内外で強まりだ
した。流動化する台湾海峡情勢を注視し、日本の対応を再検討する必要がある。
台湾紙、聯合晩報の世論調査(7月17 日実施)によると、馬英九総統の施政に「満足」
する選挙民は就任日(5月20日)の66%から40%に低下した。「不満足」は10%から43%
に上がり、「満足」を上回った。
ケーブルテレビ局TVBSの「主要政治家に対する満足度調査」(同17日)では、「満
足30%」に対し「不満足49%」とさらに厳しい結果が出た。
いずれも馬総統と同じ外雀人(日本の敗戦後、中国から渡来した漢族とその子弟)系
メディアで、かねて国民党寄りで本省人(日本の植民地時代から台湾に住む漢族)主体
の民主進歩(民進)党には厳しかった。
ところがTVBS調査で満足度が最も高かったのは、5月に民進党初の女性主席に就
任したばかりの蔡英文氏(49%)という、意外な結果が出た。
満足度が19ポイントも開いた大きな要因は対中政策のきわだった違いにある。中国と
の関係改善を最優先する馬総統に対し、蔡英文主席は馬政権が「中国との直行チャータ
ー便開設などで不確かな経済的利益を追求するあまり、台湾の主権を犠牲にしている」
と厳しく批判した。
確かに馬英九総統は就任演説でも「中華民国」や「中華民族」という言葉を多用、中
台の深いつながりを強調した。陳水扁前総統が「台湾人意識」を鼓吹して中国との違い
をアピールしたのとは正反対だ。
対外政策では米国との協力強化に最初に言及したが、次に取り上げた対中関係にその
数倍の時間をさき、日本にはひと言も触れなかった。外交の優先順位はおのずと明らか
だ。
新政権発足直後に訪中した与党、国民党の呉伯雄主席と胡錦濤共産党総書記による国
共トップ会談は、この流れをさらに加速させた。1時間の会談で「中華民族」という言
葉が十数回も行き交う「同胞愛あふれる」会談となった。
その2週間後に起きた台湾遊漁船と日本の海上保安庁の巡視船の衝突事故では、劉兆
玄行政院長(首相)が日本との「戦争の可能性も排除しない」と述べて内外を驚かせた。
馬政権の発足を歓迎した米国も、次第にその真意に「疑いを持ち出した」(訪米した
王金平・立法院長=国会議長)。
米台間では陳政権期にF16戦闘機や戦闘ヘリコプターなどの台湾売却が決まっていた。
議会多数派の国民党の反対で延期を繰り返したが、馬政権の発足を機に実現するはずだ
った。
ところが今度は米国が二の足を踏み出した。「馬政権下での軍事力強化が米国の国益
にかなうか再吟味する必要に迫られたため」(米台関係筋)だ。
台湾が中国と対等の交流、交渉をするためには、日米との緊密な関係を維持すること
が不可欠だ。目先の経済利益に前のめりになっては、中国の思うつぼとなりかねない。
台湾の民意も心配を強めている。日米は連携して台湾への関与を再強化する必要があ
る。馬政権には対外政策の再検討を望みたい。
【参考資料】
馬英九氏の総統当選直後、1ヵ月後、2ヵ月後の世論調査の結果を比較してみた。こ
の間、6月10日に尖閣問題が起こり、7月初旬には中国との週末直行チャーター便が就航
して中国人観光客が押し寄せた。 (編集部)
1)総統就任直後の馬英九氏の評価(「聯合報」:5月21日)
*5月20日夜に調査、947人が有効回答。
高く評価 66%
不満 10%
分からない 23%
2)馬英九総統就任1か月の施政満足度世論調査(「遠見」:6月26日)
*6月16日〜18日に調査、20歳以上の台湾住民1008人が有効回答。
*カッコ内は6月10日の世論調査。
満足 37.8%(58.3%)
不満 46.2%(11.9%)
*国民党所属立法委員の総体的な出来映え(「遠見」:6月26日)
満足 27.2% 不満 49.4%
3)声望の高い国内10大政治家に対する国民の満足度調査(TVBS:7月16日)
*カッコ内は不満度
1.蔡英文・民進党主席 49%(19%)
2.王金平・立法院長 45%(25%)
3.呉伯雄・国民党主席 43%(33%)
4.蘇貞昌・元行政院長 42%(20%)
5.李登輝・元総統 32%(34%)
6.蕭万長・副総統 31%(35%)
7.馬英九・総統 30%(49%)
7.謝長廷・元行政院長 30%(42%)
9.劉兆玄・行政院長 28%(50%)
10.陳水扁・前総統 18%(47%)