国連「国際協調」のごまかし  内畠 嗣雅(産経新聞論説委員)

 本誌ではこれまで何度か、台湾の中華民国が国際連合(国連)から脱退した経緯を述べ、未だに国連の常任理事国の名称として「中華民国」が残っていることを紹介してきた。併せて、常任理事国の名称として、ソ連こと「ソヴィエト社会主義共和国連邦」もそのまま残っていて、ロシアが議席を引き継いだことを記すことが少なくない。この台湾と国連の関係について、このところ話題になっている。

 9月12日に米国の国連大使といて着任したばかりのケリー・クラフト米国連大使は9月16日、台北駐ニューヨーク経済文化弁事処の李光章処長の招きに応じ、ニューヨーク・マンハッタンのレストランで昼食をとりながら「国連及び国連体系における組織的業務に対する台湾の参与を深めていくための方法などについて話し合った」(Taiwan Today)という。

 米国連大使と台湾高官の会談は初めてだったそうだが、クラフト米国連大使はこの会談後の9月29日、米国、台湾、日本が共同で開催したオンライン会合に参加した際に「台湾の民主主義を称賛し、『世界のための良い力だ』と指摘。その上で『特に公衆衛生と経済発展に影響を与える問題に関して、世界は、国連システムへの台湾の完全な参加を必要としている』と述べ、台湾が参加しない国連は『世界を欺いている』とも訴えた」(産経新聞)そうで、台湾の国連復帰を支持する考えを表明している。

 台湾(中華民国)の国連復帰を求める声はけっして小さくはないものの、難しい問題だ。陳水扁政権のときに毎年、国連復帰を申請し、政権最後の年には台湾名での加盟も申請したことがある。しかし、国連にはいまだに「中華民国」の名称が残り、その中華民国を継承したのが中華人民共和国という国連側の認識や中華人民共和国の主張があるため、中華民国名による復帰は不可能と言ってよいだろう。

 また、中華人民共和国は「一つの中国」原則を掲げて「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部」と主張している。その根拠を国連の議席を継承したことに求めているが、中華人民共和国が台湾の中華民国を統治した事実はない。

 その上、2350万人の国民を擁し、施政権を確立して軍隊も持つ台湾だ。クラフト米国連大使の「台湾が参加しない国連は『世界を欺いている』」という指摘は確かに一面を衝いている。共感する人々も多いのではないかと思われる。

 下記に紹介する産経新聞論説委員で元ニューヨーク支局長の内畠嗣雅(うちはた・つぐまさ)氏もその一人で「地球温暖化対策や貧困の撲滅、疫病の蔓延(まんえん)防止、女性の地位向上など、地球規模のさまざまな課題に取り組むにあたり、国連が台湾抜きを承知で、『国際協調』を声高に叫ぶことにはたしかに、ごまかしを感じる」と述べ、「国連総会は今年、創設75年記念の共同宣言を採択した。……だが、宣言の『多国間主義』にも台湾は含まれないのだろう」と疑問を投げかけている。

 恐らく問題は、台湾の現在の国名である「中華民国」にある。中華民国を名乗っている限り、中国は「一つの中国」原則を振りかざし、「台湾は主権国家ではない」として、台湾の国際機関への加盟や国名表示に関わることで圧力をかけ続けるだろう。

 一方、台湾がいかに蒋介石時代の中華民国体制を克服したとて、中華民国の残滓を色濃く残す中華民国憲法をかかえたままでは根底的な克服とは言い難い。台湾自身が国名問題と憲法問題を乗り越えなければ、真の解決には至らないと思われる。

—————————————————————————————–国連「国際協調」のごまかし 内畠嗣雅(論説委員)【産経新聞「一筆多論」:2020年10月13日】

 国連憲章は「中華民国、フランス、ソヴィエト社会主義共和国連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国及びアメリカ合衆国は、安全保障理事会の常任理事国となる」と定めている。だが、中国の代表権は共産党が支配する中華人民共和国にあり、ソ連は崩壊し、ロシア連邦が後継国家として権益を引き継いでおり、この記述は現実を反映していない。

 国連は1945年10月24日の創設から75年を迎える。憲章には、第二次大戦で「連合国」の敵国だった日本やドイツを対象とした旧敵国条項が残るが、国連の最重要機関である安保理の常任理事国の構成に関する部分も、大国をめぐる激動にもかかわらず、手つかずのままなのである。

 問題の中国、ロシアのうち、中国の代表権については、71年10月25日の国連総会決議が、中国唯一の正統な代表は中華人民共和国であり、(台湾の)蒋介石政権は追放すると決定した。これによって中華人民共和国は国連加盟国となり、拒否権という強大な権限を持つ安保理常任理事国の一角を占めることとなった。世界最大の人口を擁し、核保有国でもある共産党政権の中国を国連の体系外に置くのは現実的でないとの判断だった。

 国連総会決議を受け、世界保健機関(WHO)や国連教育科学文化機関(ユネスコ)などの国連専門機関の代表権も次々と共産党政権側に移り、中華民国(台湾)は国連の体系から排除された。

 だが、今日、民主化を成し遂げ、経済発展した人口2370万人の台湾を国連の体系の外に置いたままにしておくのは、果たして現実的といえるだろうか。

 米国のクラフト国連大使が先ごろ、台湾の国連加盟を支持する発言をし、注目を集めた。クラフト氏は「世界は台湾の国連への全面的な参加を必要としている。特に公衆衛生と経済発展にかかわる問題ではそうだ」と述べた。中国は「中国の主権と領土保全を損なう発言で、強い憤りと反対を表明する」との国連代表部声明でこれに応じた。

 クラフト氏は「台湾が全面的に加盟していない国連は世界へのごまかしだ」とも述べている。ここでは、台湾の国連加盟について議論をするつもりはないが、地球温暖化対策や貧困の撲滅、疫病の蔓延(まんえん)防止、女性の地位向上など、地球規模のさまざまな課題に取り組むにあたり、国連が台湾抜きを承知で、「国際協調」を声高に叫ぶことにはたしかに、ごまかしを感じる。

 国連総会は今年、創設75年記念の共同宣言を採択した。宣言は、新型コロナウイルスの流行を「国連史上最大の課題」と位置づけ、「流行を終わらせ、種々の悪影響から立ち直るには、結束し、ともに働かなければならない。多国間主義は選択肢でなく必須だ」と強調した。だが、宣言の「多国間主義」にも台湾は含まれないのだろう。

 新型コロナウイルス対策では、台湾は、発生源の中国に近く、人的往来が活発であるにもかかわらず、重症急性呼吸器症候群(SARS)の経験に基づく事前の法整備や迅速な初動対応で、感染を押さえ込んだことはよく知られている。その台湾の貢献が得られないなら、世界にとって極めて大きな損失だ。「国際協調」も「多国間主義」もごまかしということになる。(論説委員)

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