集英社『アジア人物史』(総監修:姜尚中)が李登輝元総統を「中国」に分類

 集英社が創業95周年記念企画として全12巻からなる『アジア人物史』を刊行中だ。総監修は元東大教授で鎮西学院大学学長の姜尚中氏。作家の浅田次郎氏や前法政大学学長の田中優子氏らが「刊行に寄せて」に執筆している。四六判の上製本で、平均800ページ前後だという。

 第1回配本は、第7巻『近世の帝国の繁栄とヨーロッパ』と第8巻『アジアのかたちの完成』で、これまで、1巻、2巻、10巻、11巻、4巻、3巻、5巻まで発行し、第6巻は12月15日、第9巻が2024年2月26日、最後の第12巻は2024年4月26日に刊行予定だという。この12巻で李登輝元総統が取り上げられるという。

 11月2日、台湾の中央通信社などが「李登輝元総統が『中国』の欄に記載されていることを受け、李氏の次女で李登輝基金会の李安[女尼]董事長(会長)は2日、『深く残念に思う』とする声明を発表した」と報じた。

 集英社の『アジア人物史』のウェッブサイトで確認すると、李登輝元総統は第12巻で●小平、ブルース・リー、ダライ・ラマ14世とともに取り上げられ、確かに7つの地域区分(日本、朝鮮半島、中国、東南アジア、南アジア、中央アジア、西アジア)の中の「中国」に分類されている。第10巻では、日本統治時代の台湾の民族運動指導者で「台湾議会の父」と称される林献堂が作家の魯迅や張愛玲と「中国」に分類されていた。(●=都の者が登)

 台湾の台湾国際放送も李安[女尼]氏の声明を詳しく報じている。

<李登輝・元総統は生まれた時から、または戦後から現在に至るまで、「中国」に分類されるべきではない。なぜなら、現在、世界が認知する「中国」は、「中華人民共和国」のことだ。しかし、李登輝・元総統は「台湾人」だからと指摘しました。>

<李・董事長はまた、父は生前、台湾の民主化に尽していた。心の中には台湾と日本両国の関係しかなく、日本が再びアジアをリードする自信を取り戻すよう、日本にも大きな期待を寄せていたと述べ、このような「李登輝」は「中国」の歴史上の人物だろうかと反論しました。>

 李安[女尼]・李登輝基金会董事長の指摘を待つまでもなく、李登輝元総統は日本統治時代の1923年に台湾に生まれている。1999年7月9日には、ドイツ公共放送局「ドイチェ・ウェレ」によるインタビューに答え「中国と台湾の関係は特殊な国と国との関係」と表明したこともよく知られたことで、李登輝元総統を「中国」に分類するとは正気の沙汰とは思えない。

 集英社といえば、かつて孤蓬万里こと呉建堂氏(台湾歌壇創始者)の『台湾万葉集』を出版し、台湾の人々が日本語で詠む和歌に惹きつけられた。本書で呉建堂氏は1996年に菊池寛賞を受賞し、台湾人として日本の文学賞を受賞した嚆矢となった。

 『アジア人物史』の分類からすれば、呉建堂氏も「中国」に分類されることになる。正気の沙汰でないことはこの一事からもよくわかる。

 日本は、法務省管轄の在留カードや統計でも、総務省管轄の外国人住民基本台帳でも中国と台湾を分け、台湾出身者を「台湾」と表記するようになっている。

 さらに言えば、これまで中国が台湾を統治した事実はなく、台湾を自国領と主張するのは台湾統一を正当化するための中国の一方的な主張にすぎない。事実、これまで日本は中国の主張を認めたことは一度もない。

 それにもかかわらず、集英社が李登輝元総統を「中国」に分類するということは、中国が主張する「一つの中国」を承認している証と見做されかねない。

 集英社は、即刻、日本ばかりでなく中国や台湾へ誤ったメッセージを発するこのような分類を訂正すべきだ。

◆集英社『アジア人物史』(総監修:姜尚中) https://lp.shueisha.co.jp/great-figures_in-the-history-of-asia/

◆日本の集英社が李登輝・元総統を中国と分類、李登輝基金會の李安[女尼]・董事長:極めて遺憾 【台湾国際放送:2023年11月2日】 https://jp.rti.org.tw/news/view/id/98089

—————————————————————————————–集英社が李登輝元総統を「中国」に分類 李氏次女「深く残念」【中央通信社:2023年11月2日】https://japan.focustaiwan.tw/society/202311020009

(台北中央社)集英社が出版する「アジア人物史」シリーズのウェブサイトで、李登輝(りとうき)元総統が「中国」の欄に記載されていることを受け、李氏の次女で李登輝基金会の李安[女尼](りあんじ)董事長(会長)は2日、「深く残念に思う」とする声明を発表した。

 李安[女尼]氏は現在世界が認知する「中国」は「中華人民共和国」のことだとした上で、「李登輝は『台湾人』である」と強調。「中国人」として分類されるべきではないと訴えた。また集英社に対しては同シリーズで李登輝氏を中国の人物とすることの妥当性の再考と、より事実に沿った歴史の記述を求めた。

 同シリーズは古代から21世紀までのアジアの人物について解説する全12巻のシリーズで、集英社の創業95周年記念企画として刊行されている。特設サイト上に掲載された人物を時代や地域ごとに紹介する表で、李登輝氏や、日本統治時代に台湾人の地位向上を目指して活動した林献堂氏が「中国」の欄に分類された。特設サイトの情報によれば、李登輝氏は来年4月刊行予定の第12巻で取り上げられる。

(編集:田中宏樹)

──────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


投稿日

カテゴリー:

投稿者: