まず、10月3日付「読売新聞」に掲載された偽造旅券による不法入国を阻止する
狙いで導入されるという「プレクリアランス(事前審査)」制度にかんする該当
記事の全文を紹介してみたい。
【読売新聞 10月3日】出国地での入国審査、来年度から韓国・台湾で実施
政府は2日、地方空港に到着する航空機の乗客を出国地で審査する「プレクリ
アランス(事前審査)」制度を2005年度から導入する方針を決めた。
審査体制が手薄な地方空港で多発する偽造旅券による不法入国を阻止する狙い
がある。地方空港への入国者が多い韓国、台湾でまず実施する。
法務省の計画では、入国審査官を韓国、台湾に各3人ずつ派遣し、現地の空港
に設けた専用ブースで、〈1〉偽造旅券の識別〈2〉国際テロリストらを記載し
た「ブラックリスト」との照合――などを行う。問題がないと判断された乗客の
旅券には審査済みの印をつけたカードを添付し、到着後は簡単な本人確認だけで
済むようにする。成田、関西の両国際空港はプレクリアランス制度の対象外で、
通常の入国手続きを行う。
政府がプレクリアランス制度を導入することにしたのは、入国審査官が少ない
地方空港を狙った不法入国が増加傾向にあるためだ。全国の自治体が観光振興を
目的にした海外客誘致の動きを強め、チャーター機で日本の地方空港に入国する
便が増えている。しかし、その“副産物”とも言える不法入国も急増しており、
昨年の偽造旅券などの発見件数は前年比41%増の3660件で、このうち57
件が地方空港で押収したものだった。
◆プレクリアランス=1970年代に米国とカナダの間で始まった入国審査の方
法。陸続きの欧州諸国でも一般的に行われている。日本では2002年、日韓共
催のサッカー・ワールドカップ(W杯)の期間中、フーリガンや不法入国者の水
際対策として、韓国との間で限定的に実施されたことがある。
この読売新聞の報道は、誤解を与えかねない一面的な報道内容となっている。
というのも、記事では「審査体制が手薄な地方空港で多発する偽造旅券による不
法入国を阻止する狙いがある。地方空港への入国者が多い韓国、台湾でまず実施
する」とある。
しかし、『平成14年版警察白書』に明らかなように、平成13年中の不法入国者
及び不法上陸者2,499人のうち?中国:1,462人(58・5%)、?イラン:243人(9
・7%)、?タイ:189人(7・6%)で76%を占め、韓国人と台湾人のケースは記載
されていない。
では、約22万人(224,067人)にのぼる不法残留者の点からはどうかというと、
韓国は55,164人(24・6%)でもっとも多い。次いで?フィリピン:29,649人(13
・2%)、?中国:27,582人(12・3%)、?タイ:16,925人(7・5%)、?マレー
シア:10,097人(4・5%)となっていて、台湾は6番目で8,990人(4%)となって
いて、台湾はもっとも多い韓国に比較したら6分の1しかいないのである。
さらに、来日外国人犯罪の国籍・地域別検挙状況に至っては、その検挙件数を
見てみれば、総数18,199件に対して中国が圧倒的で8,945件(49・2%)を占め、次
いでブラジルが3,457件(19%)、そして韓国が1,134件(6・2%)と続いている。
アジアのみ見れば、?ベトナム、?香港、?トルコ、?フィリピン、?イラン、
?マレーシア、?パキスタンと続き、台湾はようやく10番目で117件(0・64%)し
かない。この検挙数はロシアの241件やアメリカの183件よりも低いのである。
ましてや、来日外国人総数に占める割合を見てみれば、平成13年の来日外国人
総数約521万人のうちアジアからは351万人が来日しており、その内訳は韓国がも
っとも多く1,459,333人(41・6%)、次いで台湾の785,379人(22・4%)、そして
中国の448,782人(12・8%)、香港:26万人、フィリピン:約14万人と続いてい
る。
つまり、来日者数の割合に比して中国の犯罪者数は圧倒的に多く、韓国も不法
残留者の点からは来日者数に比例している。しかし、台湾はその来日者数に比較
してみれば、不法残留者も検挙数も極端なほどに少ないのである。それ故に「不
法入国を阻止する狙いがある」として「韓国、台湾でまず実施する」という記述
は、韓国には当てはまっても、遵法精神に富んでいる台湾には当てはまらず、誤
解を与えると指摘したいのである。
なお、『平成14年版警察白書』は、下記アドレスへ。
http://www.pdc.npa.go.jp/hakusyo/h14/h140901.pdf (編集部)