蘇啓誠処長を自死に追い込んだフェイクニュースはなぜ生まれたのか

9月14日、台湾の領事館に相当する台北駐大阪経済文化弁事処の蘇啓誠・処長が自死したというニュースを知って心底驚いた。

 2016年に李登輝元総統が石垣島を訪問されたときも、今年6月に慰霊碑除幕式に臨席されたときも、台北駐日経済文化代表処那覇分処処長だった蘇処長には陰ながら大変お世話になった。李登輝元総統の沖縄ご訪問が成功した陰には多くの関係者の尽力があり、蘇処長もその一人で、台北駐日経済文化代表処や沖縄県警との連絡や車輛などの手配でとてもお世話になった。本会会長の渡辺利夫はその死を悼み弔電を打っている。

 その後の報道を詳しくみていると、自死の背景に、メディアのフェイクニュースに追い込まれていったことがだんだん判ってきた。また、蔡英文政権を追い落とそうとする台湾の国民党議員が批判のネタとしてこの偽ニュースを利用し、台湾に圧力をかけ続ける中国側もこの偽ニュースを巧みに利用していたことも判明した。

 一連のニュースの中で、自死に至った真相を地道に追いかけていたのが、台湾出身で東洋経済新報記者の劉彦甫氏の記事だった。9月19日の「大阪駐在の台湾外交官はなぜ死を選んだのか」に続き、21日に総括検証記事「『中国人優遇』の偽ニュースはなぜ生まれたか」を発表している。

 関空からショッピングモールまで中国人を乗せたバスは、中国の駐大阪総領事館が手配したバスではなく、関西エアポートが手配したバスだったことを明らかにし、「中国人旅行者が優先的に早く出た事実はない」ことも明らかにしている。また、真偽不明の情報にもかかわらず、事実確認をせずに報道した台湾メディアの責任にも言及している。

 恐らくこの記事がフェイクニュースが生まれた状況をもっとも詳しく伝え、真相に迫っているのではないかと思われる。改めて蘇啓誠処長のご冥福を祈りつつ、下記にその記事を紹介したい。

◆東洋経済新報社:「大阪駐在の台湾外交官はなぜ死を選んだのか」【9月19日】 http://news.livedoor.com/article/detail/15325288/

             ◇     ◇     ◇

劉 彦甫(りゅう いぇんふ) Yenfu LIU 東洋経済 記者台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。専攻はアジア国際政治経済、東アジアジャーナリズム。現在は電子部品や精密機械、家電量販を担当しつつ、台湾や中国などアジアの動きも追いかけている。趣味はピアノや旅行。


「中国人優遇」の偽ニュースはなぜ生まれたか 関空の中国人避難問題、一連の事実を検証劉 彦甫 : 東洋経済記者【東洋経済ONLINE:2018年9月21日】

 9月19日に「東洋経済オンライン」に掲載した筆者の記事「大阪駐在の台湾外交官はなぜ死を選んだのか」では、台風21号によって一時閉鎖された関西国際空港での対応を巡り台湾で議論が巻き起こり、大阪に駐在していた台湾の外交官の自殺にまで至ってしまったことを伝えた。

 この発端となったのが、「中国の領事館が関空にバスを派遣して中国人を救出し、優先的に中国人を避難させた」というSNSでの発信や大手台湾メディアでの報道だった。それが台湾で「なぜ駐日代表処(大使館に相当)は動かないのか」との議論に発展した。記事中ではこの発端となった情報をフェイクニュースとして扱った。

 実際、記事を配信した19日には、東京にある台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表(大使に相当)が記者会見を開き、フェイクニュースを見極めるように呼びかけている。一方で、同日に中国の駐大阪総領事館は中国人旅行者の避難に協力したとして、バス会社など協力した会社や団体を表彰した。

 いったい真相はどうだったのか。経緯を振り返りながら、改めて検証してみたい。なお、一連の事実は関西エアポートやバス会社などへの取材に基づくもの。中国総領事館は「新華社通信」の報道が公式見解であるとして、取材には直接回答しなかった。新華社通信は「領事館が救出活動に協力した」と報じているが、その詳細に触れた記事は確認できなかった。

◆約700名の中国人旅行者が残された

 9月4日、関空では台風21号の影響で大規模浸水被害が発生し、数千人の旅行者が空港内に取り残された。取り残された旅行者には中国人や台湾人など外国人旅行者も含まれていた。関空を運営する関西エアポートは約700名の中国人旅行者がいたとしている。

 そこで中国領事館は関西エアポートに対して、関空にバスを派遣して中国人を救出したいと要請した。関西エアポートによると、自国民の救出を申し出たのは中国だけではなかったようだ。ただし、破損した連絡橋の通行を制限していることやさらなる混乱を招く恐れがあるとして、同社はこれらの申し出を辞退した。

 とはいえ、外国人旅行者のなかで中国人の人数は最多。団体客も多く、言語疎通に問題が生じたケースもあり、中国領事館のサポート提案の受け入れを検討した。そして、関西エアポートと航空各社、中国領事館の3者間で旅客を避難させる際は中国人旅行者をまとめて島外に出すよう調整が行われた。

 この調整を受け、中国領事館は関空の対岸にある泉佐野市内のショッピングモールに空港から避難した中国人旅行者を迎えるバスを派遣した。関西エアポートも旅行者を空港から避難させる際は中国人だけを別に振り分けて、領事館が手配したバスが待つショッピングモールにバスで輸送することにした。

 5日、中国人旅行者を含めて取り残されたすべての旅行者の避難が開始された。この時に、一部の旅行者の間で誤解が生じ始めた。中国人旅行者を振り分けるために、中国人はパスポートの確認を受けてからバスに搭乗。この対応を受けて、中国人旅行者や周囲の旅行者のなかには「中国人だから優遇を受けている」「領事館が尽力したから優先的に避難できる」といった誤解が生じ、SNS上で流布され始めたのだ。

 また、関空から避難する際に搭乗したバスがほかの旅行者が搭乗したバスと行き先が異なることや(ほかの旅行者は南海電鉄の泉佐野駅に送られた)、事前にSNSなどを通じ中国領事館の努力を知っていたことから、「中国人が乗ったバスは領事館が手配したもの」という誤解も発生した。

 しかし実際に関空からショッピングモールまで中国人を乗せたバスは、関西エアポートが手配したバスだった。関西エアポートは「避難に用いられたバスは自社が手配したもので、バスの手配も関空による決定。中国領事館が手配したバスは乗り入れていない」と話す。19日に中国領事館に表彰された南海バスの広報担当者も、「要請は関西エアポートからのもので、中国領事館からではない」と認める。

◆動画が誤解を「補強」

 なぜどちらが手配したバスか、詳細に書いたのには理由がある。今回、空港から中国人旅行者だけが優先的に避難できたかのような複数の動画がSNS上に出回ったからだ。

 動画は避難が開始された早い段階でバスに搭乗できた中国人旅行者が撮影したようだ。中には、中国領事館の職員とされる人物がバス車内で避難活動に参画している映像もあった。

 しかし、繰り返しになるが、空港からのバスは関空が手配したもの。空港へのアクセスが規制される中で、中国が手配したバスだけが特別に通行を許可されたわけではなかった。

 また動画が撮影された時点で、すでに中国人旅行客以外の旅行客も別のバスで避難を開始していたと見られる。実際、関西エアポートの広報担当者は「中国人旅行者が優先的に早く出た事実はない」とする。同社は「すべての旅行者の輸送は5日の23時をもって完了した」とのリリースを出しているが、広報は「中国人以外の旅行者の避難が完全に終了したのは5日の23時30分で、中国人旅行者は6日の0時近くだった」と話す。

 一部の旅行者に生じた誤解が動画によってさらに誤解が強調され、台湾メディアもそれを見て事実確認を行わず報道、広く流布されたと考えられる。

 以上、結論を言えば、中国領事館が同胞である中国人旅行者を救出するために尽力したのは事実だ。他方で、中国領事館が手配したバスは関空まで乗り入れておらず、中国人旅行者が優先的に避難した事実もない。結局、台湾メディアは事実を確認せずに、中国人旅行者が「優先的に避難した」と伝えてしまった。

◆ファクトチェック組織も「誤り」と指摘

 これらの誤解に基づくネット上の偽情報は関西エアポートなどの当事者に問い合わせ、事実確認を行えばフェイクニュースとして流れなかったはずである。しかし、多くの台湾メディアはそれを怠ってしまった可能性がある。台湾大手新聞社の記者は「人員も十分でなく、スピードで他社と競争する以上、ネット情報を事実確認せず流すしかない時は多々ある」と事実確認の取材が甘い現状を語る。

 9月15日には誤った情報が広がるのを防ぐためにファクトチェックを行う「台湾ファクトチェックセンター」が、「中国領事館が関西空港にバスを派遣し、優先的に中国人旅客を救った」ことは「誤り」だと指摘した(https://tfc-taiwan.org.tw/articles/150)。

 台湾ファクトチェックセンターには日本でファクトチェックの普及を目指すファクトチェックイニシアティブジャパン(FIJ)も協力。FIJで理事長を務める早稲田大学政治経済学術院の瀬川至朗教授は「旅行者の誤解や思い込みが積み重なって、ネット上で広がった真偽不明の情報をしっかり事実確認せずに報道してしまった台湾の報道機関の責任は重い」と話す。

 関西エアポートへの取材や台湾ファクトチェックセンターの発表を基に、19日に配信した筆者の記事では一連の情報を「フェイクニュース」と断言した。ただ、中国領事館が中国人の救出に尽力したことは事実であり、その点で表現に曖昧さが出てしまったことも否めない。

 今回はメディアがいかにネット上の真偽不明の情報に向き合うか、改めて問われる一件だった。


【日本李登輝友の会:取扱い本・DVDなど】 内容紹介 ⇒ http://www.ritouki.jp/

*ご案内の詳細は本会ホームページをご覧ください。

● 台湾フルーツビール・台湾ビールお申し込みフォーム
  https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/rfdavoadkuze

*台湾ビール(缶)は在庫が少なく、お申し込みの受付は卸元に在庫を確認してからご連絡しますの
 で、お振り込みは確認後にお願いします。【2016年12月8日】

● 美味しい台湾産食品お申し込みフォーム【常時受付】
  https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/nbd1foecagex

*沖縄県や伊豆諸島を含む一部離島への送料は、宅配便の都合により、恐縮ですが1件につき
 1,000円(税込)を別途ご負担いただきます。【2014年11月14日】

*現在、お申し込みの増加でパイナップルケーキの在庫がなくなっています。入荷は11月末を予定
 しています。ご迷惑をおかけしますがご理解のほどお願いします。【2018年9月1日】

*マンゴーケーキを同一先へ一緒にお届けの場合、送料は10箱まで600円。

・奇美食品の「マンゴーケーキ(芒果酥)」2,900円+送料600円(共に税込、常温便)
 [同一先へお届けの場合、10箱まで600円]

・最高級珍味「台湾産天然カラスミ」4,160円+送料700円(共に税込、冷蔵便)
 [同一先へお届けの場合、10枚まで700円]

● 書籍お申し込みフォーム
  https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/uzypfmwvv2px

・劉嘉雨著『僕たちが零戦をつくった─台湾少年工の手記』*new
・渡辺利夫著『決定版・脱亜論─今こそ明治維新のリアリズムに学べ』
・呉密察(國史館館長)監修『台湾史小事典』(第三版)
・李登輝・浜田宏一著『日台IoT同盟』 *在庫僅少
・王育徳著『台湾─苦悶するその歴史』(英訳版) *在庫僅少
・浅野和生編著『1895-1945 日本統治下の台湾
・王明理著『詩集・故郷のひまわり』
・李登輝著『李登輝より日本へ 贈る言葉』 *在庫僅少
・宗像隆幸・趙天徳編訳『台湾独立建国運動の指導者 黄昭堂
・林建良著『中国ガン─台湾人医師の処方箋』 *在庫僅少
・盧千恵著『フォルモサ便り』(日文・漢文併載)
・黄文雄著『哲人政治家 李登輝の原点
・李筱峰著・蕭錦文訳『二二八事件の真相』

● 台湾・友愛グループ『友愛』お申し込みフォーム
https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/hevw09gfk1vr

*第1号〜第15号(最新刊)まですべてそろいました。【2017年6月8日】

● 映画DVDお申し込みフォーム
https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/0uhrwefal5za

・『海の彼方』*new
・『台湾萬歳』*new
・『湾生回家』
・『KANO 1931海の向こうの甲子園
・『台湾アイデンティティー
・『台湾アイデンティティー』+『台湾人生』ツインパック
・『セデック・バレ』(豪華版)
・『セデック・バレ』(通常版)
・『海角七号 君想う、国境の南
・『台湾人生

● 講演会DVDお申し込みフォーム
https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/fmj997u85wa3

・2014年 李登輝元総統ご来日(2014年9月19日〜25日)
・片倉佳史先生講演録「今こそ考えたい、日本と台湾の絆」(2013年12月23日)
・渡部昇一先生講演録「集団的自衛権の確立と台湾」(2013年3月24日)
・野口健先生講演録「台湾からの再出発」(2010年12月23日)
・許世楷駐日代表ご夫妻送別会(2008年6月1日)
・2007年 李登輝前総統来日特集「奥の細道」探訪の旅(2007年5月30日〜6月10日)
・2004年 李登輝前総統来日特集(2004年12月27日〜2005年1月2日)
・許世楷先生講演録「台湾の現状と日台関係の展望」(2005年4月3日)
・盧千恵先生講演録「私と世界人権宣言─深い日本との関わり」(2004年12月23日)
・許世楷新駐日代表歓迎会(2004年7月18日)
・平成15年 日台共栄の夕べ(2003年11月30日)
・中嶋嶺雄先生講演録「台湾の将来と日本」(2003年6月1日)
・日本李登輝友の会設立総会(2002年12月15日)


◆日本李登輝友の会「入会のご案内」

・入会案内:http://www.ritouki.jp/index.php/guidance/
・入会申し込みフォーム:https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/4pew5sg3br46


◆メールマガジン日台共栄

日本の「生命線」台湾との交流活動や他では知りえない台湾情報を、日本李登輝友の会の活動情報
とともに配信する、日本李登輝友の会の公式メルマガ。

●発 行:
日本李登輝友の会(渡辺利夫会長)
〒113-0033 東京都文京区本郷2-36-9 西ビル2A
TEL:03-3868-2111 FAX:03-3868-2101
E-mail:info@ritouki.jp
ホームページ:http://www.ritouki.jp/
Facebook:http://goo.gl/qQUX1
 Twitter:https://twitter.com/jritouki

●事務局:
午前10時〜午後6時(土・日・祝日は休み)

●振込先:

銀行口座
みずほ銀行 本郷支店 普通 2750564
日本李登輝友の会 事務局長 柚原正敬
(ニホンリトウキトモノカイ ジムキョクチョウ ユハラマサタカ)

郵便振替口座
加入者名:日本李登輝友の会(ニホンリトウキトモノカイ)
口座番号:00110−4−609117

郵便貯金口座
記号−番号:10180−95214171
加入者名:日本李登輝友の会(ニホンリトウキトモノカイ)

ゆうちょ銀行
加入者名:日本李登輝友の会 (ニホンリトウキトモノカイ)
店名:〇一八 店番:018 普通預金:9521417
*他の銀行やインターネットからのお振り込みもできます。