【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2021年3月10日】*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付したことをお断りします。
◆台湾人作家による作品が2020年「国際日本漫画賞」で金・銀・銅賞に入賞
台湾ドラマ「歩道橋の魔術師」(原題:天橋上的魔術師)」は、同名の小説がドラマ化されたものです。この作品は、放送開始前から何かと話題を呼びました。
まず、原作の作者は台湾の最も旬な作家である呉明益氏だということ。この作品は、日本でも翻訳、出版されています。そのほか、日本で翻訳、出版されている彼の作品に「自転車泥棒(原題:単車失竊記)」があります。
ここで呉明益氏について、ちょっと解説しましょう。以下、台湾文化部のホームページから一部引用します。
<呉明益は、現代台湾の中心的な作家の一人です。アーティストや作家、学術、環境活動家など、分野を超えて活躍しています。呉明益の創作は、小説とエッセーが中心。 長編小説『複眼人』は、十数カ国で出版されており、海外の大手文学出版社が台湾の小説の版権を取得する先例となりました。また、長編小説『単車失竊記(The Stolen Bicycle)』は2018年、台湾の作家としては初めて、国際的な文学賞であるブッカー国際賞にノミネートされました。この作品は、英国、米国、フランス、チェコ、トルコ、日本、韓国、インドネシアなど多くの国でも出版されています。 呉明益は1971年6月20日、台湾北部の桃園生まれ。輔仁大学マスコミュニケーション学科を卒業し、国立中央大学中国文学科で博士号を取得。現在は、国立東華大学華文文学科教授、生態関懐者協会常務理事、黒潮海洋文教基金会董事(理事)を務めています。 呉明益は1990年代初頭から創作を開始。その作品は近年、広く注目を集めています。当初の作品は、郷土文学のスタイルを帯びた小説でしたが、ネーチャーライティングでブレークスルー。『迷蝶誌』や『蝶道』、『家離水辺那麼近』、『浮光』といったエッセー集は、現代の環境意識に呼応する作品というだけでなく、作品からあふれる強烈な知性と実証精神は、まさしく、読者の視界を広げるものでしょう。>
つまり、台湾の今をときめく売れっ子作家なのです。今回、公視でドラマ化された「歩道橋の魔術師」は、マンガ化もされています。そして、そのマンガは、2020年12月「日本国際漫画賞」で銀賞を受賞しました。
ちなみに、2020年の「国際日本漫画賞」は金賞、銀賞、銅賞の上位3位に、台湾人作家による作品が入賞しました。
「歩道橋の魔術師」のマンガ化を実現したマンガ家は、阮光民さん。こちらもまた、台湾マンガ界の最前線で活躍する売れっ子マンガ家です。台湾でドラマ化された阮光民さんのマンガには、「東華春理髮廳」「用九柑仔店」があります。
マンガ版「歩道橋の魔術師」は、売れっ子作家と売れっ子マンガ家の共同作品というわけです。
◆直木賞受賞の東山彰良さんに続き李琴峰さんが文部科学大臣新人賞を受賞
日本で話題になった台湾人作家といえば、2015年に直木賞を受賞した東山彰良さんを思いだします。この当時、民進党主席だった蔡英文が、以下のような受賞の祝辞を寄せています。
<台湾最大野党の民進党の蔡英文主席(党首)は王孝廉さんの見方に強く感銘したとして、戦争を経験した世代の癒えない傷を知ることは、「平和こそがわれわれの世代が追及すべき時代の精神と、目を開かせてくれる」と述べ、過去を知ることは、「(かつて敵対した人が)互いに包容し、互いに許す」ためとの考えを示した。>
直木賞を受賞した彼の小説は『流』というタイトルで、戦争に翻弄される一家を描いた物語です。呉明益さんの『自転車泥棒』という作品も、戦争がテーマでした。
台湾人による芸術作品は、近年様々な分野で認められています。ちょうど今開催中の「大阪アジアン映画祭」では、特集企画「台湾:電影クラシックス、そして現在」と名付けられた特集が組まれ、日本ではなかなか見られない作品群が映画祭開催中に見られます。オンライン座と題するオンライン上映もあるので、ぜひご覧ください。
また、令和2年度の芸術選奨で文学部門の文部科学大臣新人賞を、台湾人作家の李琴峰さんが小説「ポラリスが降り注ぐ夜」で受賞しました。以下、このニュースについての報道を一部引用します。
<李さんは1989年台湾生まれ。大学卒業後の2013年に訪日。2017年、日本語で書いた初の小説「独り舞」(原題:独舞)で第60回群像新人文学賞優秀作を受賞しデビューした。2019年には小説「五つ数えれば三日月が」で第161回芥川賞候補に選ばれた。日本語、中国語の2言語で執筆活動を行う傍ら、翻訳者や通訳者としても活躍している。(中略) 「ポラリス〜」は新宿二丁目のバーを訪れる女たちの7つの物語を編んだ作品。芸術選奨の贈賞理由では「そこに集う人々の姿を通して、李琴峰氏は鮮烈な愛のかたちを「複数形」で描き出した」と評価。「台湾からやってきた作者は力強い筆遣いで、内向しがちな現代日本の小説に清新(せいしん)な風を吹きこんだ」とし、「氏の受賞にふさわしい珠玉作である」と称賛した。>
◆文化をリードする者こそが国家をリード
話を「歩道橋の魔術師」に戻しましょう。このドラマは、ドラマ史上最大のオープンセットを組んで撮影されています。ドラマの舞台は、台北にかつて存在した中華商城という、小さな商店が集まったマーケット。それをそっくりそのまま、台湾北部・新北市汐止区の敷地面積2ヘクタールの用地に再現しました。「セットの建設費は8000万台湾元(約2億9400万円)、製作費は2億元(約7億3600万円)。公共テレビが製作した」とのことです。
人気アイドル宋柏緯(エディソン・ソン)も出演し、話題性は抜群です。すでに数話は放送されています。詳しくは番組のフェイスブックをご覧ください。 https://m.facebook.com/login.php?next=https%3A%2F%2Fm.facebook.com%2FMagicianOnTheSkywalk%2F%3Fref%3Dpage_internal&refsrc=https%3A%2F%2Fm.facebook.com%2FMagicianOnTheSkywalk%2F%3Fref%3Dpage_internal&ref=page_internal&_rdr
台湾の政治的変化は、文化的変化ももたらしたのでしょう。台湾の若い才能が、どんどんと花開き世界へと羽ばたいています。
李登輝元総統と司馬遼太郎さんとの初めての対談で出た内容を思い出します。彼らは次のような話をしました。
大国は、懸命に軍事力を増強し、強さを誇示します。マスメディアもGDPの数字を強調します。しかし、EUのミニ国家とアジアの都市国家は、GDPだけでなく、あらゆる国家の魅力を示す数字を示します。例えば、国民の平均寿命などです。こうしたミニ国家や都市国家の魅力が、大国に勝る時代が徐々にやって来るのが世界の趨勢です。
これからの台湾の若者に期待します。かつて、踊り子や俳優は卑しい職業でしたが、今は違います。今は、文化をリードする者こそが、国家をリードします。台湾の若い世代は、これからもっともっと国際舞台で活躍するでしょう。
──────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。