その指摘は、習氏がこの演説で「われわれは、武力の使用を放棄することを約束せず、あらゆる必要な措置を取る選択肢を保有する」と述べているからだが、台湾へは強圧的な対応が効果的と考えているからでもあろう。
この習演説に輪をかけた強圧的な発言が人民解放軍の中将から発せられた。AFPが伝えるところによると、1月9日に記者会見した人民解放軍軍事科学院の元副院長で、同軍中将の何雷氏は「好戦的な口調で『台湾問題の解決のため武力行使を余儀なくされた場合、責任を問われるのは分離主義者たちだ。つまり、必然的に戦争犯罪人と見なされる』と述べた」という。
中国が主張する「分離主義者」とは、台湾に限らずチベット、東トルキスタン(新疆ウイグル)・内モンゴル自治区などで、中国の意に沿わずに独立を志向する人々を指す。
武力行使は分離主義者が引き起こすものなので、自分たちは仕方なく武力を行使するのだという。武力行使を行う戦争を招いたのは分離主義者に責任があるから戦争犯罪人だという言い分である。なんとも身勝手な言い草だ。これを普通は「詭弁」という。
実は、昨年6月にシンガポールで開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)でも何雷氏は同様の詭弁を弄している。
この会議で、米国のマティス国防長官が「中国による南シナ海の軍事拠点整備や兵器の配備は、近隣諸国への威嚇を目的としていると批判」した。これに対して、出席していた何雷氏は「中国による南シナ海の軍事拠点化は国防のためであり、他国による侵略を防ぐ目的で行われている」と発言している。つまり、領土・領海の帰属先が定まっていない南シナ海にもかかわらず、米国など他国が侵略者だと言い放ったのだった。
何雷氏の今回の「戦争犯罪人」発言の背景には習近平氏の演説があり、勇を得たりと発言したのだろう。
何雷氏も習近平氏も、非は台湾の独立支持者にあり、だから中国は武力行使という方法を放棄できないという、責任転嫁もはなはだしい言い草で、日本の固有の領土である尖閣諸島でさえ自国領と法律に書き込んで「核心的利益」と言い張る中国だ。これが中華思想であり、中国共産党政権の本質を的確に現しているのではないだろうか。
本日の産経新聞の「主張」が習近平氏の演説について「このような『一国二制度』の約束を誰が信じるだろうか」と痛烈に批判している。日本人や台湾人に限らず、共感を覚える人は少なくないだろう。日本は、米国の台湾防衛に寄与する具体策を明示する時期に来ている。
————————————————————————————-習氏の台湾演説 一国二制度を誰が信じる【産経新聞「主張」:2018年1月12日】
中国の主権下で、社会主義とは異なる制度の存続と高度な自治を保障する。このような「一国二制度」の約束を誰が信じるだろうか。
中国の習近平国家主席が年頭に当たり、初めて台湾政策について演説した。香港、マカオで実施した一国二制度を、「平和統一」と併せて台湾に迫る方針を強調した。
台湾の蔡英文総統は海外メディアとの会見で、「台湾の絶対多数の民意」を理由に受け入れを拒絶した。民主政治の指導者として自然な反応である。
一国二制度の下でも、香港の言論の自由は中国の圧力により踏みにじられてきた。若者らが民主化を求めた2014年の「雨傘運動」後、中国支配を示す「一国」だけが強調されている。
香港の若者の51%が海外移住を望んでいる。こうした惨状を目の当たりにして、台湾の人々が習氏の要求を自ら受け入れることは考えられない。
中国が掲げる「一つの中国」の原則に沿わない事象は香港で徹底排除された。この姿勢は、民主進歩党(民進党)政権下の台湾との対話拒絶に通じる。
蔡氏は会見で、「中国の民主体制の欠落」を批判した。自由や民主主義という普遍的価値観を中国共産党政権と共有することは土台無理な話である。
台湾では約1年後に総統選挙がある。昨年11月の統一地方選で民進党は大敗し、蔡氏は兼務していた同党主席を辞任した。中国が両岸関係で歩調の合う台湾党派の政権返り咲きを狙い、圧力と介入を強めることは確実だろう。
習氏は演説で、台湾への武力行使を放棄しない方針を表明した。4日の中央軍事委員会における演説では、着実な「軍事闘争の準備」を軍首脳部に命じた。
意に沿わない相手を力ずくでねじ伏せる意図があからさまだ。
台湾海峡の現状を力で変更する試みは絶対に許されない。中国の動向を警戒する必要がある。
台湾関係法により台湾防衛の意志を示す米国は、台湾への兵器売却促進などを盛り込んだ新法を成立させた。自民党の河井克行総裁外交特別補佐は8日、ワシントンでの講演でトランプ政権の台湾政策支持を表明した。安倍晋三政権の方針を伝えたもので妥当だ。日米同盟は台湾海峡の平和にも寄与しなければならない。