本誌でも、産経新聞の主張「習氏の台湾演説 一国二制度を誰が信じる」、ピーター・アプリ氏(「ロイター」コラムニスト)、有本香氏(ジャーナリスト)、小笠原欣幸氏(東京外語大学准教授)、福島香織氏(ジャーナリスト)、読売新聞の社説「空約束に過ぎぬ『一国二制度』」などの反論を紹介してきた。
今度は、台北駐日経済文化代表処札幌分処処長の周学佑氏が産経新聞に反論を寄稿した。習演説には、中国国内問題から目をそらさせるなど4つの背景があると分析し、「中国が武力による台湾統一を放棄せずにいることはアジア太平洋の平和と安定に危険をもたらし、地域の利益を損うことに他ならならない」と指摘している。
駐日台湾大使に相当する台北駐日経済文化代表処代表が台湾の立場や考え方について新聞などを通じて公にすることはよくあるが、台湾の一官僚がこのような反論を公にすることは珍しい。下記に勇気ある反論の全文をご紹介したい。
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周学佑1966年6月12日、台湾・雲林生まれ。輔仁大学法律学部を経て淡江大学大学院修了後の1994年に外交官試験合格。外交部条約法律局担当事務官を振り出しに、サンフランシスコ弁事処領事、台北駐日経済文化代表処政務部部長、台湾日本関係協会副秘書長などを歴任。この間、オックスフォード大学やロンドン・スクール・オブ・エコノミクスにて研修。2017年6月、台北駐日経済文化代表処札幌分処処長に就任。
—————————————————————————————–なぜ台湾は「一国二制度」を受け入れられないか周学佑・台北駐日経済文化代表処札幌分処処長【産経新聞:2019年3月15日】https://www.sankei.com/world/news/190315/wor1903150030-n1.html
1月、習近平中国国家主席がいわゆる「台湾同胞に告げる書」発表40周年記念式典で談話を発表し、「一国二制度」による台湾統一の具体案を模索する考えを示した。
この事態を受け、台湾は早急に声明を発表し、断固として「一国二制度」を受け入れない立場を強調した。
今回、北京の談話発表には4つの背景があると考えられる。まず1つ目は、中国は経済成長が鈍化し、かつ米中関係が不仲という難局、また国内では香港、チベットやウイグルの問題がある。そのため内部の圧力から目をそらさせ、台湾に目がいくようにしている。
2つ目は、中国が近年、パワーをもって世界の民主主義陣営、特に台湾の各分野において浸透を図ろうとしている。その目的は台湾の民主主義を破壊し、最終的に台湾を併合することである。
3つ目は、習氏が就任して以来、中国の海洋進出が次第に南シナ海や東シナ海に拡大し、軍機や艦艇を台湾の空海域に出没させるなど、インド太平洋地域の現状を変えようとしている。
4つ目は、台湾の民主主義的なライフスタイルは、大陸の住民が憧れる見本であり、そのため、北京は民主、人権といった普遍的な価値が全土に広まることを妨害しようとしている、というものである。
21世紀の台湾は、中国に対抗する民主陣営の最前線に位置しており、もし台湾が陥落したら、誰が次を担えるのだろうか。従って、われわれは国際社会に次のことを呼びかけたいと考える。
まず、台湾の民主主義制度を守るため、ともに協力してほしい。台湾の生存と発展はアジア太平洋地域の平和と安定の力となり、そして世界民主陣営の安定的な発展に関わるものだ。
また、中国の台湾に対する武力威嚇に断固として反対する。中国が武力による台湾統一を放棄せずにいることはアジア太平洋の平和と安定に危険をもたらし、地域の利益を損うことに他ならならない。
そして、台湾が国際社会において自立した存在であることは客観的な事実であり、国際社会は自分の将来を決める権限が台湾住民自身にあることを支持してほしい。
最後に、台湾との実質関係の強化と台湾の国際機関への参与への支持に協力してほしい。国際社会の多くの問題はあらゆるメンバーが共同で参与し、解決に取り組んでいかなければならない。
台湾は国際的な義務を果たす意欲と能力があり、国際社会に対して積極的に貢献していきたいと考えている。