米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」が年次報告書を発表

 11月17日、米国連邦議会の諮問機関である「米中経済安全保障問題検討委員会(USCC)」は議会への年次報告書を発表した。

 ロイター通信は「中国による台湾への攻撃に対する米国の軍事的抑止力の信頼性強化に向けた『緊急措置』を講じるよう勧告した」と報じている。産経新聞はその背景について「特に侵攻の初期段階で2万5千人以上の部隊を上陸させる能力、民間船を軍事作戦に動員する能力があるとの見方を示し、軍事侵攻は中国指導層に依然として高リスクの選択肢としつつ『米国の通常戦力だけで台湾への攻撃を思いとどまらせることが不確かになってきた』とした」と報じている。

 ちなみに、米中経済安全保障調査委員会(USCC:U.S.-China Economic and Security Review Commission)は2000年10月、上下両院の共和、民主両党議員が指名する12人の専門家の委員を中心に、米中経済関係が米国の安全保障に及ぼす影響を精査して政府と議会に政策勧告することを目的に設立されている。共和党と民主党がメンバーを選出するため、その年次報告書は米の与野党の共通認識を反映すると言われ、議会への影響力は大きい。

 「2017年度年次報告書」では、台湾を海軍のリムパック(環太平洋合同演習)や空軍の「レッドフラッグ」演習やサイバー攻撃に対する国際演習「サイバーストーム」に招待すべきと提言。また、「2018年度年次報告書」では、中国の一帯一路経済圏構想、南シナ海での軍事化、ハイテク分野での政策、北朝鮮情勢への関与、香港・台湾などに言及し、中国当局による米国国家安全への脅威に強い懸念を示す内容を発表していた。2018年5月には、キャロリン・バーソロミュー副委員長一行が訪台して蔡英文総統と意見交換している。

 今回の「2021年度報告書」では「台湾による米国からの防衛物資購入やインド太平洋での巡航・弾丸ミサイルの配備、監視などに関する財政的支援を米議会が承認し予算を割り当てるべきだと指摘」(ロイター)している。

 米国ではすでに11月4日に上院の共和党有力議員6人により、台湾の防衛力向上を支援する2023会計年度(22年10月〜23年9月)から10年間、年20億ドル(約2200億円)を台湾に提供することを求める「台湾抑止力法案」を提出されており、米議会ではこれらの予算措置について審議される可能性が高い。

—————————————————————————————–中国、台湾侵攻能力を確保 「最小限核抑止」から離脱 米報告書【産経新聞:2021年11月18日】

 【ワシントン=渡辺浩生】米議会の超党派諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は17日、中国の軍事経済情勢をめぐる年次報告書を発表した。中国軍が台湾侵攻の初期能力を確保した可能性を示し、米通常戦力による抑止が困難と警告。また、中国が「限定的な核兵器先制使用」という新戦略を進めていく可能性にも言及した。

 報告書は台湾情勢をめぐり、「中台間の紛争抑止が危うい不確実性の時期にある」と初めて指摘。2020年を人民解放軍が台湾侵攻の能力を確保する重要な節目と指導層が位置づけてきたとし、同軍は台湾に対する空中・海上の封鎖、サイバー攻撃、ミサイル攻撃に必要な能力をすでに獲得したと分析した。特に侵攻の初期段階で2万5千人以上の部隊を上陸させる能力、民間船を軍事作戦に動員する能力があるとの見方を示し、軍事侵攻は中国指導層に依然として高リスクの選択肢としつつ「米国の通常戦力だけで台湾への攻撃を思いとどまらせることが不確かになってきた」とした。

 米国に軍事介入の能力や政治的な意思がないと中国指導層が確信すれば、米国の「抑止策は破綻する」と警告。台湾も過去数十年の軍事への過小投資のつけで重大な課題に直面しているとし、封鎖に耐えられる重要物資の備蓄が不足していると分析した。台湾関係法上の義務を果たすため軍事的抑止力の信頼性を強化する緊急措置も提言した。

 報告書は一方、中国の核戦力に関する項を新設。「1960年代に最初に核兵器を保有して以来、核戦力の拡大・近代化・多様化のため最大級の取り組みを実行している」と強調した。

 大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機の「3本柱」の進展、機動的かつ精密な核兵器システムの配備、著しい核弾頭備蓄の拡大に言及し、2030年までに中国が配備する地上発射型の戦略ミサイルの数が量的に米国と「対等」になる可能性があると警鐘を鳴らした。

 中国は従来、敵国の核攻撃に対する報復に最小限必要な核戦力を維持する戦略をとってきたが、報告書はこの「最小限核抑止」からの脱却を指摘。「限定的な核兵器の先制使用という新戦略を支持しようとしている」可能性も示した。

 また、中国指導層は台湾侵攻の際、米国の介入を阻止するなど政治的な目的達成のために核戦力を活用でき、介入を阻止できると確信した場合には米国の同盟国との通常紛争を誘発しかねないと警告した。

 国防総省が今月発表した年次報告書でも、中国が約10年後の30年までに少なくとも千発の核弾頭を保有する可能性を指摘しており、中国の核戦略の行方に対する米国政府・議会の危機感は高まりそうだ。

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