ントン候補に関して焦点を当てる内容が多く、いったい共和党候補はどうしたのかと気
になっていた。また、米国の政策が日本や台湾には大きく影響してくるというのに、候
補者たちが日本や台湾に関してどういう見方をしているのかもあまり伝わってこないよ
うで、これも気になっていた。
そう思っていたところ、本会副会長で杏林大学客員教授の田久保忠衛氏が産経新聞の
「正論」欄で、外交・防衛はレーガン主義の継承者で、麻生前外相の「自由と繁栄の弧」
を歓迎し「中国や北朝鮮には距離を置き、台湾を重視する」という共和党のマケイン候
補の考え方や姿勢について紹介していた。
日本にとって、米国の大統領戦も台湾の総統選もけっして他所事ではない。田久保副
会長の「正論」をご紹介したい。 (編集部)
【2月15日 産経新聞「正論」】
米大統領選挙─レーガンの遺産を受け継ぐ 対日、東アジア外交不安な民主候補
杏林大学客員教授・田久保 忠衛
■マケインのバックボーン
米大統領選挙の候補者選びは、4年ごとのお祭り騒ぎの中でも今回はとりわけ熱気を
孕んで展開され、どうやら共和党のマケイン候補と民主党のオバマ、クリントン両候補
のいずれかが11月に一騎打ちを演じる様相を呈してきた。日本に限ったことではないが、
何となく次期米政権は民主党で、米国史上初の黒人あるいは女性大統領を期待するよう
な雰囲気が漂い始めているように見受ける。
ただ、冷戦を崩壊させるうえで偉大な役を演じたのは共和党のレーガン大統領であり、
1981年の彼の政権発足以後、民主党政権はクリントンの8年だけで、あとは共和党が政
権を維持する。それを貫く「レーガン保守主義」を見逃してはいささか均衡を欠く見方
になると思う。共和党の指名獲得を確実なものにしたマケイン候補は党内保守派グルー
プの保守政治行動会議(CPAC)で、党を一本にまとめるのはイラク戦争と国際テロ
リストによる脅威だと述べた。
その際、自身が尊敬するレーガンの「政党は基本となる信条を代表するもので、議席
の増とか政治的な便宜のための妥協はいけない」との言葉を引用した。カンザス州でマ
ケイン候補に圧勝したハッカビー候補は自らを1976年の大統領予備選でフォード大統領
に敗れたときのレーガンになぞらえ、「当時の彼は党の異端だったが、いま人々はロナ
ルド・レーガンを敬愛している」と述べて大きな拍手を得ている。
■麻生プランに理解示す
クリントン政権下の1996年に『フォーリン・アフェアーズ』誌が、当時新保守主義の
論者として鳴らしたウィリアム・クリストル、ロバート・ケーガン両氏による「新レー
ガン型外交政策に向けて」と題する一文を巻頭論文扱いで掲載した。冷戦後の新しい国
際秩序の形成に米国が果たすべき指導的役割を曖昧(あいまい)にしたクリントン政権
に痛棒を加える一方で、キッシンジャー氏流の力の均衡を基にした現実主義外交論から
一歩も抜け出られない保守派を嘲(あざけ)ったこの文章からは知的衝撃を受けたのを
思いだす。
両氏は、フォードとの争いに敗れたレーガンが「外交政策に道義性を」を看板に4年
後の大統領選に勝利を収め、ソ連を「悪の帝国」と決めつけて、ついに冷戦に勝利を収
めた偉業を讃(たた)え、レーガン外交をいま一度、と訴えたのである。米外交政策は
国防を強化し、同盟関係を強め、道徳的な原則を貫徹することによって指導性を強めな
ければならない、との主張である。この論文はブッシュ政権を生む原動力的役割を果た
した。ブッシュ政権は9・11テロに直面し、従来の通常戦争のほか国際テロリストとの
戦いという新しい使命を帯びて大きな潮流に乗ってきたと考える。
マケイン候補は国内政策ではリベラルだとの批判を受けているが、外交・防衛に関し
てはレーガン主義の継承者である。同候補は昨年5月にフーバー研究所で演説し、世界
的な規模で「民主主義国連盟」をつくりたいと提唱した。ソマリアなどで事実上無力化
した国連を補うのだ、と説明している。
外交に道義性やイデオロギーを込めているのはレーガンだけでなく、ブッシュ外交の
系譜でもある。安倍前政権で麻生前外相は「自由と繁栄の弧」を唱えたが、当然ながら
マケイン候補は歓迎の拍手を送っている。中国や北朝鮮には距離を置き、台湾を重視す
る姿勢は最近のブッシュ政権と違う。
■国際秩序転換の可能性
クリントン、オバマ両候補のこれまでの言動から外交・防衛の新しい哲学は伝わって
こない。イラク戦争に対するマケイン候補の態度は不変だが、オバマ候補は最初の攻撃
から反対だ。クリントン候補は最初は賛成、あとは撤兵論に変わっている。「世界的大
国」としての日本に期待するマケイン候補と対照的に、クリントン候補は中国を「今世
紀における最も重要な二国間関係だ」と断言し、オバマ候補は「力をつけつつある大国
(中国)として責任を果たせるよう勇気づける」とエールを送った。自分の署名入りの
文章に関するかぎりは両者とも日本に無関心といっていい。
米中関係のわずかな変化でも、日本、韓国、台湾その他に及ぶ影響は小さくはなく、
国際秩序は変わると思う。民主党政権が登場したときに日本はどう対応したらいいのか。
レーガン保守主義の潮の流れが変わるかどうかの瞬間が夏に迫っているというのに、こ
の国の政治家たちは政局がらみの争いに没頭している。競馬の観客のつもりで大統領選
を楽しんでいるのだろうか。 (たくぼ ただえ)