安倍首相の対中抑止外交[本会常務理事 伊藤哲夫]

機関誌『日台共栄』6月号 巻頭言

安倍首相の対中抑止外交

                                   伊藤 哲夫

 先日の温家宝首相の来日について、安倍首相は彼の「微笑外交」にしてやられてしま
ったのではないか、といった危惧の念が語られている。果たしてそうなのだろうか。マ
スコミの一面的な報道に惑わされることなく、もっと広い視野から、トータルに問題を
眺めてみることが必要なのではないか。

 現在の中国にとって、今どうしてもやってほしくないのは、日米が一体となって「対
中抑止」の体制を築くことであろう。ということは、安倍首相が「してやられた」かど
うかは、まずこちら側からのこの仕掛けがどうなったかがポイントであり、温首相が日
本のあちこちで何をしたかではない筈だと思われるのである。

 それでは、この点で日本はどうだったか。安倍首相は新年早々欧州各国を歴訪、自由
・民主主義を基調にした戦略的関係の強化と、対中武器禁輸の解除反対を訴えた。一方、
豪州とは「日豪安保宣言」を締結し、更にその安保関係の輪をインドにも広げることを
広言している。また、麻生外相は「自由と繁栄の弧」という「対中包囲網」を推進して
もいる。そして、先日の日米首脳会談では、台湾有事も当然念頭におく集団的自衛権に
関する政府見解の見直しに安倍首相はあえて言及し、同盟関係の更なる深化が語り合わ
れた。

 つまり、ここでいいたいのは、そうした一連の構図の中で、今回の温首相訪日を捉え
るべきだということだ。個々のやりとりも重要だが、その裏でこちらが繰り出す攻め手
にも眼を向けなければ真相は見えないからだ。

 と同時に、「台湾独立を支持しない」との首相発言についても触れておきたい。これ
は日本政府の従来からの姿勢であり、最善ではないにしても、落胆の対象でもないこと
を指摘したい。ブッシュ大統領はむしろ「独立反対」を言明しており、日本はそうでは
ないことが逆に指摘されても良いからだ。中国は安倍首相にもそう言わせたかったのだ
ろうが、そこは賢明に押し返したのが真相だと理解したい。

 ただ、国民が首相に期待するのはその程度の対応ではない。首相にはさらなる進一歩
も求められよう。

                   (本会常務理事・日本政策研究センター所長)



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