李登輝前総統の真意とは何か
本会常務理事 林 建良
香港資本の週刊誌「壱週刊」が掲載した李登輝前総統インタビュー記事が日本でも大き
な反響を呼んだ。多くの日本人には、李前総統が何故「台湾独立を放棄」するのか不可解
であった。
だが、「独立放棄」とは「壱週刊」が意図的に付けた扇情的なタイトルであって、李前
総統の言葉ではない。台湾はすでに主権独立国家だから今さら独立を追求する必要はない
し、現在の急務とは国名を変えることと現状に則した憲法を制定することなのだと、李前
総統自ら「自由時報」と「産経新聞」のインタビューで語った。
台湾の独立というと「中国からの分離独立だ」と誤解されやすい。筆者もよく「独立と
は、台湾に居座っている中華民国体制からの独立だ」と説明せざるを得ない場面に遭遇す
る。しかし、説明の要ること自体「分かりやすく共鳴を呼ぶ」との政治運動の原則に反し
ており、運動を難しくしている。また、「一つの中国」政策が国際社会で横行している現
在、台湾が独立を叫べば叫ぶほど「一つの中国」に正当性を与えかねない。なぜなら、国
際社会では台湾に説明の機会を与えられていないからだ。
一方、李前総統の発言を台湾団結連盟の生き残り作戦だと解釈する向きもあるが、その
程度のものであれば、これほどの反響はなかったはずだ。発言の背後に、台湾そのものの
存在をもう一度直視してもらおうとの狙いがある。日米は、台湾人の意向をいつまで無視
する気なのか、現実を無視した裸の王様と同様の「一つの中国」政策をいつまで続けるつ
もりなのかと。
台湾の独立を支持しないと公言している日米両国にとって、李前総統の「転向」発言は
この上ない喜ばしいことのはずだ。だが、激震が走るほどの衝撃を与えた。国際社会で孤
立化している台湾は、内政面でも行き詰まっている。このままでは台湾はいつまで保(も)
つのか分からないと、老将軍が警鐘を鳴らしているのだ。