規定により、議会への毎年の報告を義務付けている「2017年版 中国の軍事力に関する年次報告
書」(Annual Report to Congress Military and Security Development involving the
People’s of Republic China 2017)を発表した。
その概要について、中央通信社が伝えているので下記に紹介するとともに、すでにこの年次報告
書は公開されているので併せてご紹介したい。
この年次報告では米国の対台湾政策についても言及しているとして「米国の対台湾政策について
は『米中間の三つの共同コミュニケ』と『台湾関係法』に基づく『一つの中国政策』を維持する立
場を改めて強調した」と報じている。
それで思い出されるのが、2月9日に行われたトランプ大統領と習近平との電話会談だ。多くのメ
ディアが、トランプ大統領は習主席の要請を受け入れて「一つの中国」政策を尊重することを約束
したと報じた。4月6日と7日のフロリダにおけるトランプと習近平の直接会談の際には「トランプ
大統領は2月に習国家主席と電話会談し、発言を修正した」と報じている。日本の識者も、トラン
プ大統領はそれまでの発言を「撤回」したとか「前言を翻した」と述べている。
しかし、本誌で何度も指摘しているように、トランプ大統領は発言を修正していないし、前言も
翻していない。このことは、日台ともに影響が大きいトランプ政権を見てゆく上でとても重要なポ
イントなので、改めて強調しておきたい。
すでにフロリダ会談直前の4月5日、トランプ政権が外国人記者者を対象とした記者会見で米国の
「一つの中国」政策について説明し、それは「中国との3つの共同コミュニケと台湾関係法」
(マット・ポティンガー:国家安全保障会議アジア上級部長)だと明言している。そして、この年
次報告でもまったく同じことを述べている。
トランプ大統領は電話会談で「米国の『一つの中国』政策を尊重する」(honor our “one
China” policy)と述べたのであり、米国の「一つの中国」政策とは、「米中間の三つの共同コ
ミュニケ」と「台湾関係法」のことだから、トランプ大統領は米国の元々の立場に戻っただけなの
だ。トランプ大統領は就任前の「中国の『一つの中国』原則に縛られない」という立場を未だに維
持している。
ちなみに、国防授権法とも称される国防権限法は、会計年度(2017年度は2016年10月〜2017年9
月)における米国の国防プログラムの承認と予算上限額を定めるもっとも重要な法律の一つで、毎
年成立している。
2017年の国防権限法は、12月2日に米国連邦議会の下院で可決し、8日に上院で可決。12月23日に
オバマ大統領が署名して成立している。
2017年の国防権限法は、台湾との軍事関係改善や防衛協力強化を目的として制定され、米軍の高
官や国防関係幹部職員が台湾軍の高官や国防関係幹部職員との交流を初めて明文化したと報じられ
ている。
◆2017年版 中国の軍事力に関する年次報告書
http://www.globalsecurity.org/military/library/report/2017/2017-prc-military-security.pdf
米国防総省、台湾独立不支持を再度表明
【中央通信社:2017年6月7日】
(ワシントン 7日 中央社)米国防総省は6日、中国大陸の軍事動向に関する年次報告書を発表
し、米国は両岸(台湾と中国大陸)のどちらかが一方的に現状を変えることには反対で、「台湾独
立を支持しない」とする立場を昨年に引き続き、再度表明した。
民進党・陳水扁政権下の2007年と、同党・蔡英文政権発足直前だった昨年5月の報告でも同様の
声明が盛り込まれている。
同報告では、昨年1月の総統選挙で蔡氏が当選して以来両岸の関係が冷え込んでいることや中国
大陸が「一つの中国」原則の受け入れを台湾に求めていることなどに言及している。
米国の対台湾政策については「米中間の三つの共同コミュニケ」と「台湾関係法」に基づく「一
つの中国政策」を維持する立場を改めて強調した。また、台湾関係法にのっとり、台湾が自衛する
に足る防御的性格の武器とサービスを供与するとしている。
一方、中国大陸の軍事力については、過去10年間で年平均8.5%のペースで急増する国防予算が
すでに台湾の14倍近くになっていると指摘。台湾はこの現状を踏まえ、中国大陸に対抗できるよう
非対称的な軍事能力の強化を国防計画に取り込む努力をしていると説明している。
また、中国大陸には台湾への全面的な侵攻を遂行する力がまだないとしている。だが、台湾が実
効支配する南シナ海・太平島などへの攻撃を想定した演習を中国大陸が行った場合、台湾の独立意
識を高めるほか、国際社会の反発を招く可能性もあると分析している。
(鄭祟生/編集:塚越西穂)