*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部で付したことをお断りします。
◆野党の「モリカケ攻撃」で停滞した国政を早く進めてほしかったのが「民意」
衆議院選挙が終わり、自民が284議席で単独過半数、自公で313議席と、与党で3分の2を超える大勝を収めました。各種メディアは、希望の党による野党分裂がその原因だという分析がもっぱらです。
ただ、あれほどメディアも、希望の党を含めたすべての野党も、こぞって今回の解散総選挙を「モリカケ隠し」「大義がない」などと批判していたわりには、自民党だけで、国会の各委員会の委員長職を独占し、過半数の委員を送り込める絶対安定多数(261議席)を獲得したのですから、民意としてはモリカケ問題はもはや「どうでもいい」話だということなのだと思います。
いくらやっても首相が関与したという証拠も証言も出てこないのですから、国民は飽々しているのでしょう。野党の「モリカケ攻撃」で停滞した国政を早く進めてほしいというのが、自民党単独で絶対安定数を与えた「民意」だと思いますが、どうでしょうか。
そもそも、いくらモリカケ問題を批判しても党勢回復は望めないことがわかって、民進党の前原氏は希望の党への合流という決断をしたのです。
朝日新聞などは、昨日の社説で、自社の世論調査数字をあげて、「安倍さんに今後も首相を続けてほしい」は34%、「そうは思わない」は51%だった、自民党一強を「よくない」73%、「よい」15%だったから選挙結果は世論と違う、その原因は野党自滅の敵失だ、だからモリカケ問題の真相究明をもっとやれなどと書いていました。
しかし、メディアの世論調査が当たらないというのは、イギリスのブレグジットをめぐる国民投票や、アメリカのトランプ大統領誕生のときにも言われたように、世界的な潮流です。インターネットの登場によって、旧メディアの調査能力や影響力が低下していることは明らかです。
つまり、明らかになったのは、世論と選挙結果が乖離していたのではなく、民意とマスメディアが乖離していたということだったでしょう。旧来の大手メディアの言論は、むしろ民意を探るうえでの反面教師となっています。
私の友人にも、メディアをまったく信用せず、新聞購読どころかテレビさえない人も多くいます。若いネット世代はなおさらでしょう。
◆蔡英文総統は自民大勝の夜、安倍首相に祝意
今回の総選挙では、野党はモリカケ問題を「お友だち利権」などと揶揄していましたが、政権側の利権についてはよく語られる一方で、あまり表に出ないのが「反日利権」です。沖縄の反基地運動やデモに中国や韓国の反日マネーが流れ込んでいるという話は、それこそ非常に多くあります。
そして野党側や日本のメディアの一部も、こうした反日利権とつながっている可能性はつねに指摘されています。
それはともかく、いつものことではありますが、今回の衆議院選挙も、アジアでは大きく報じられました。
中国の新華網は専門家の意見を紹介しつつ、「安倍は台風と野党分裂によって漁夫の利を得た。自民党以上の右派である希望の党などと協力すれば、憲法改正という悪夢が現実の元就、戦後の平和体制は大きな脅威に直面する」「日本国民は憲法改正を必ずしも支持しておらず、国民生活よりも優先させたら民衆の反感が高まる」などと、批判・警告していました。
韓国でも、各メディアは安倍政権の圧勝について、「安倍首相が改憲を進めれば、朝鮮半島と北東アジア情勢を不安定にするおそれがある」(京郷新聞)、「安倍首相の暴走を防ぎながらも韓日米安保協力を強化することが政府の宿題」(東亜日報)などと憂慮の声をあげ、その多くが「日本が改憲を通じて戦争可能な国に向かうことに対して韓国が対応策を準備する必要がある」と主張しているそうです。
中国・韓国はいつもどおりの反応ですが、台湾はもちろん違います。蔡英文総統は日台の窓口を通して、安倍首相にすぐに祝意を伝えました。一方、文在寅大統領が祝意を伝えたという話は伝わってきません。文在寅氏が大統領選挙に勝利したさい、安倍首相はすぐに祝意を伝えたのですから、ずいぶんケツの穴の小さな対応です。
*編集部註:10月24日、韓国の文在寅大統領からの要請により、安倍首相は文大統領と電話会談 し、文大統領は「安倍首相の政策ビジョン、リーダーシップへの国民の強固な支持を示すもの だ」と衆院選大勝を祝福した。(産経新聞)
台湾でもこの衆院選は大きく報じられましたが、もちろん中国や韓国のような批判や警告めいた報じ方はしていません。日本メディアの論調などを紹介しつつ、情勢を伝えていました。
そのなかで話題となったのは、日本でベストセラーとなった『中国嫁日記』の作者、井上純一氏が、「天安門事件は中国共産党に公正な選挙を求める運動だった」「戦車に潰されたり、機関銃でなぎ倒された多くの学生たちが求めていたものが、我々の手にあるわけです」とツイッターで書いたところ、「自称ファン」を名乗る中国人から批判されたというニュースでした。
井上氏の上記のつぶやきに対して、その中国人は「あなたは民主主義も天安門事件のことも理解していない」「天安門事件は外国勢力が扇動して中共を転覆し、中国を乗っ取る企てだった」「天安門事件は、民主主義弾圧ではなく、外国勢力による無政府主義暴動を鎮圧するもので、もしこれを放置していたら、中国は今頃、インド同様に白人に搾取される家畜になっていた」と反論したそうです。
この反論は瞬く間に拡散し、台湾からは「中国人が他国の人間に『民主主義がわかっていない』などと言うのは不思議な話だ」といった批判的なコメントが寄せられたそうです。
◆独裁国家と民主国家のあり方の違いを世界に再確認させた安倍首相の決断
その中国では、今日、共産党大会が閉幕しましたが、党規約に「習近平思想」が記載され、毛沢東に並ぶほどの権威を獲得したと見られています。
しかし、5年の成果としては政敵追い落としの反腐敗運動を展開したくらいで、経済は失速し、一帯一路やAIIBもうまくいかず、台湾では独立派の民進党政権が誕生、南シナ海をめぐってはオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所から中国の主張は「根拠なし」と断定され、アメリカによる「航行の自由」作戦を招いてしまいました。
北朝鮮問題もまったくコントロールできず、結果的に日本の「安倍一強」を招いてしまいました。
しかし、中国では今夏以降、官製メディアによる習近平礼賛の記事が相次いで掲載されてきました。あの鳩山由紀夫元首相も、10月11日に掲載された新華社通信傘下の日刊紙のロングインタビューで、習近平の一帯一路を絶賛し、習近平の演説に「非常に感動した」と述べる一方で、日本の安倍外交や安全保障を批判し、習近平の礼賛に一役買ったそうです。
日本ではまったく相手にされない鳩山氏まで引っ張り出して自らを持ち上げさせている習近平政権ですが、何も成果がないのに、ひたすら言論弾圧で批判を封じ込め、自らを神格化させて、権威・権力を一手に握っても、それが中国人の民意だと言えるはずもありません。
メディアや政敵からの嵐のような批判にも負けず、民意によって大きな信任を得た安倍首相と、政敵を失脚に追い込む恐怖政治と言論弾圧で批判を押さえ込み、メディアに提灯記事を書かせて自らの権力・権威拡大に努めた習近平主席。皮肉なコントラストだといえます。どちらが民衆の支持や国を率いるリーダーとしての「強靭さ」を備えているかは、言うまでもありません。
偶然に時期が重なったのかもしれませんが、結果的に独裁国家と民主国家のあり方の違いを世界に再確認させたという点で、安倍首相がこのタイミングで解散・総選挙を行ったことには、やはり「大きな意味」があったと感じざるをえません。