東アジア和平に日米台の連携不可欠  謝 長廷(台北駐日経済文化代表処代表)

 産経新聞が連載する「話の肖像画」は、9月1日から論説委員で元台北支局長の河崎真澄氏を聞き手に、代表就任5年目を迎えた駐日台湾大使に相当する謝長廷・台北駐日経済文化代表処代表を取り上げました。そこで、本誌では第1回の東京オリンピックがテーマの「東京五輪開会式『台湾です!』に歓声」をご紹介しました。また、9月14日の第13回「『日台交流基本法』制定に期待」もご紹介しました。

 この連載は昨日(9月30日)で終わりました。1ヵ月はアッという間でしたが、謝長廷代表の来し方もまた、李登輝元総統と同じように台湾の民主化と軌を一にしていることを知る1ヵ月でした。

 折しも、台湾は「環太平洋経済連携協定(TPP)」への加入を申請したばかりで、最終回では、議長国・日本の駐日代表という重要な立ち位置にいる謝長廷代表の見解を紹介しています。

—————————————————————————————–東アジア和平に日米台の連携不可欠台北駐日経済文化代表処代表・謝長廷(75)【産経新聞「話の肖像画(29)」:2021年9月30日】

《中国と台湾はそれぞれ環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)加入を正式申請した》

 台湾によるTPP加入への申請で、日本の数多くの閣僚や国会議員、各界から「歓迎」「支持」との反応をいただけたことに感謝しています。台湾にとって対日関係がいかに重要か、改めて証明されたといえます。

 台湾はすでに正式加盟している世界貿易機関(WTO)と同じく、ひとつの独立した関税地域としてTPPにも加入を求めています。過去2年間、日本を含むTPP加盟国にある台湾の在外公館は、TPP加入のための情報収集を綿密に行ってきました。その上で関連法の整備など準備を進めました。時期は重なりましたが、中国の申請とは直接的な関係はありません。

 2021年のTPP議長国が台湾に友好的な日本であることも、今回の正式申請の背景のひとつです。TPPを代表する先進国として日本に台湾のTPP加入のための作業部会設置を主導していただき、今年末までに道筋をつけてもらえることに期待しています。来年以降もその道筋に沿い、台湾は日本に協力しながら努力を続けます。

《中国が反発している》

 TPP加入は加盟国の全会一致が条件です。万一、中国が先にTPPに加入すれば台湾は苦しい立場になります。一方、自由貿易の度合いなど、中国はTPPが求めるレベルとは距離がありますね。注目すべき中国の動きで2点を考えています。

 まず中国は日米やオーストラリアなどとの外交、貿易での対立解消や、国有企業への優遇撤廃といった歩み寄りの姿勢をみせ、TPP加入基準を満たす政策改善の意思があるかどうかという点。次に中国の真の狙いがTPPの求める自由貿易の実現にあるのか、あるいは単に台湾の加入妨害という政治目的なのか、という見極めです。

《国際社会では「台湾」の存在感が一段と増してきた》

 台湾は民主主義の制度、完全な市場経済で日本や米国、欧州などと価値観を共有しています。TPPに限らず、台湾は国際社会に対し、さらに貢献していきたいのです。一方、存在感が高まれば高まるほど、台湾海峡や周辺で何らかの「有事」を懸念する声が強まりそうです。

 武力攻撃など不測の事態が発生した場合、米軍の介入を阻止しようとする勢力が、台湾に近い沖縄にある米軍基地への攻撃を行わないとも限りません。九州や本州に何カ所も米軍基地があり、日本にとっても台湾有事は人ごとではないはずです。

 米中対立と「新冷戦」の状況下、台湾も日本も安全保障上の最前線となる「第一列島線」に位置しています。日米は安全保障条約を結ぶ立場で、台湾はここにも貢献できるはずです。

 まず防災や災害救助で日米台が共同訓練を行うグローバル協力訓練枠組み(GCTF)などで連携体制を整え、将来的に日本の自衛隊も含む安全保障で共同訓練や演習に道を開くことができたらと願っています。

《日米台の連携が東アジア和平のカギになっていると》

 この数十年、東アジアで経済発展が続いたのは戦争なき和平が続いたからです。台湾が米国から武器を調達するのは自主防衛の決意を示すためです。

 国際対話で武力衝突を回避するためにも、日米台の協力と連携は欠かせませんね。とりわけ地政学上、「運命共同体」である隣人の台湾と日本の信頼関係をいかに深めていくか。命ある限り、私の奮闘は続きます。

(聞き手 河崎真澄)

──────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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