李登輝前総統の故椎名素夫氏へのメッセージ

1996年の総統民選選挙を成功に導いた最大の功労者は椎名素夫先生

 去る6月20日、今年3月に亡くなった故椎名素夫・元参議院議員を偲ぶ「椎名素夫氏を
偲ぶ会」(発起人代表:岡崎久彦氏)が東京都内で開かれました。

 その折の模様は6月23日に発行した本誌第550号でもお伝えし、矢島誠司・産経新聞論
説副委員長がその来歴と台湾との関係を記した「椎名素夫氏と台湾の縁」を掲載しまし
た。

 李前総統は、安倍晋三首相、麻生太郎外相、扇千景参議院議長、リチャード・アーミ
テージ、ジェームス・アワー、マイケル・グリーンなどとともにこの偲ぶ会の発起人の
一人でした。

 当日、中学校時代の同級生でもある岡崎久彦氏が椎名氏の人柄がよく偲ばれる懇篤な
弔辞を読み上げられた後、ブラッドレイ元米国上院議員や李前総統などからメッセージ
が届いていることを紹介し、リチャード・アーミテージ氏からのメッセージを読み上げ
て紹介しました。

 後でいただいたメッセージ集を拝見すると、なんと李前総統からは自筆の中文メッセ
ージとそれを日本語に翻訳したものがひとつづりになっていて、ブラッドレイ氏らから
のものとは別になっていました。

 私どもは李前総統の几帳面な筆さばきを見慣れていますが、改めて9枚にわたってつづ
られたその文字を拝したとき、一文字一文字に込められた李前総統の椎名素夫氏への思
いがひしと伝わってくるようでした。

 先のメルマガで「李前総統からの長文のメッセージは近々ご紹介する」と記しました
ように、ここにそのメッセージをご紹介します。            (編集部)


 元参議院議員椎名素夫先生ご夫人をはじめご家族の皆様、並びにご臨席の方々に謹ん
で申し上げます。

 本日、日本各界による椎名先生を偲ぶ会が催され、先生の燦々たるご生涯を称え、そ
して哀悼の意を捧げることはこよなく意義深いことと存じます。私も出席するつもりで
おりましたが、残念ながら他の要務で念願が叶わず、椎名先生ご夫人及びご家族の皆様
に衷心よりお詫び申し上げます。

 椎名先生は私と懇意の間柄で、日本における多くの親友の一人でございます。今年3
月16日、突然の訃報に接し、どうしても信じられない気持ちでいっぱいになり、感極ま
って悲しみに堪えませんでした。

 先生は政治の名門のご出身で、自民党副総裁などの要職を歴任されたお父様・椎名悦
三郎先生によって、若いころから丹念に教えられ鍛えられることによって、遠大な理想
を抱き、真心を込めて真面目に行動するという人生観を形成されました。

 先生は参議院議員2期、無所属の会の代表、衆議院議員4期、自民党政調副会長、自
民党国際局長、政治論理委員会委員長、国際経済政策調査会理事長などの要職を歴任さ
れるとともにアジアの平和と安定のために取り組んで来られました。その優れたご功績
は日本国内各界の皆様から一斉に高く評価されておりまして、実に敬服に値すべき人物
でございます。

 椎名先生は節操も品格も高い立派な政治家でございます。先生はいつも台湾が重要な
時に手を差し伸べてくれました。熱い心を待った大切な友人でございます。

 椎名先生は国会議員懇談会の幹事を担っておられた間、台湾と日本との交流促進に輝
かしい成果を上げられたほか、1994年から2003年にかけて、延べ12回も台湾をご訪問くだ
さいました。そのつど違ったご貢献をなさり、台湾の人々に感動を与えた有数の国際友
人の一人でございます。殊に台湾の民主改革に対するご支持とご協力は誠にありがたく、
深く感謝しております。

 1996年、台湾では初めての全国国民の直接投票による総統選挙が行われました。選挙
の順調な進展とアジアの平和と安定を守るべく、選挙への妨害や可能な影響要素を防ぐ
ため、椎名先生はアメリカ、日本、台湾の間を奔走してくださいました。その結果、中
国のミサイル演習に脅かされながらも、米、日、台のアジアにおける安全の枠組みがタ
イムリーに出来上がり、台湾の総統選挙は無事成し遂げられました。椎名先生は最大の
功労者と言えるでしょう。

 この偲ぶ会開催にあたり、椎名先生と手を携えて歴史を作った楽しい時期を思い出す
と同時に、先生のご逝去を惜しんであまりあるものがあります。

 椎名先生のご逝去は日本の政界が一人の英才を失ったというのみでなく、台湾にとっ
ては、いつも陰で支えてくれた一人の真摯な国際友人を失ったことを意味します。椎名
先生の在りし日のお姿とお教えは我々の心の中で生きており、永遠に世界中の人々から
尊敬され続けるに違いありません。

 私は偲ぶ会の発起人の一人として、椎名先生に限りない哀悼の意を捧げ、椎名先生ご
夫人及びご家族の皆様にお見舞いを申し上げるとともにご臨席の皆様のご多幸とご健勝
をお祈りいたします。

   2007年6月20日

                                  李 登輝



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