【10月21日付「台湾週報」】
米国を訪問中の李登輝・前総統は10月20日、ワシントンのナショナルプレス・クラブで
「台湾の民主主義への道」と題した講演をおこない、台湾人のアイデンティティーのさら
なる確立を強調するとともに「台湾の民主深化を今後も進め、最終目的として完全な民主
国家となることが肝要である」と述べた。
李前総統は講演のなかで、台湾は米国と同様、世界の普遍的価値観である民主主義の道
を着実に歩んできたことを挙げ「国民党政権下の1989年、台湾は正式に民主主義国家とな
り、2000年には民進党の陳水扁総統が当選し、初の民主的な政権交代も果たした」と述べ
た。しかしこの一方で、台湾は中国大陸から渡ってきた時期や省籍の異なる各種エスニッ
ク(群族)が共存した社会であり、最大野党の国民党が国会で民進党を上回る議席を占め
ているため、いまだに不要な対立が解消されていない状態であることを指摘し、「これに
加えて、中国が台湾の国内分裂を煽っており、台湾のアイデンティティーが危機に晒され
ている」と遺憾の意を表した。
李前総統は「こうした状況を受け、私は国内におけるエスニック間の矛盾を超えた民主
精神に基づく『新時代の台湾人』という概念を提言した。すなわち、400年前にせよ、50年
前にせよ、台湾に暮らし根を張るすべての人が『新時代の台湾人』であるということだ」
と指摘した。
李前総統は、中国の軍拡が世界と地域の脅威となっていることを挙げ、「一部の政治家
が自分の利益のため、やたらに対立に走り、国内の平和を乱していることは、国民の利益
に反しており、それは中国の軍事威嚇と台湾併呑を後押しするも同然の行動だ。これは台
湾の民主深化にとって障害となっている」と述べた。さらに「現在台湾国内の急務は国家
アイデンティティーの強化であり、この分裂が最大の危惧である」と警告を発した。
李前総統はこのうえで「台湾のアイデンティティーを強化するためには、民主的なプロ
セスを通すことが有効であり、これこそ台湾国民にとってもっとも効果的な保障となる。
台湾のさらなる民主堅持があってこそ、アジア太平洋地域の民主の防衛線を維持すること
ができ、一旦この防衛線が突破されれば、世界の民主の輪が破壊されてしまうことになる
。台湾が民主の歩みを強め、『正常な国家』となり、最終的に『完全な民主国家』となる
ことが肝要である」と強調した。
演説後の取材において、李前総統は初めて「憲法制定」と「正名」について自らの意見
を表明し「中華民国という名称は中国と混乱しやすく、世界で承認されることはありえな
い。台湾はふさわしい国称に変更すべきだ。また、中華民国憲法は制定当時、台湾人の権
利を盛り込んでおらず、台湾人のニーズに合致した新憲法の制定は必須である」と述べた
。また、台湾の独立に関し「私はこれまで台湾独立を唱えたことはない。台湾はとうに独
立した一国家だからだ」とコメントした。
李前総統はこの日、米国会議員との懇親会に招かれ、その後ホテルで現地の僑胞団体主
催の晩餐会に出席し、3日間のワシントン訪問を終え、同日午後ロサンゼルスに出発した
。