区の「こうとう区報」7月号および「な〜るほど・ザ・台湾」7月号掲載のレポートをご
紹介しましたが、本日は警察官向けに発行されている月刊誌「BAN」8月号に掲載され
ましたので、ここにご紹介します。 (編集部)
李登輝前台湾総統来日、講演で日本に期待感
【月刊BAN 8月号】
5月30日〜6月9日まで、台湾前総統である李登輝氏(84歳)が、曾文恵夫人とともに訪
日した。今回は、学術・文化交流と松尾芭蕉の歩いた奥の細道をたどることが目的。途
中、秋田県の国際教養大学や東京都などで、3回の講演を行った。日本での講演は初めて。
亡兄が祀られている靖国神社を参拝した6月7日、東京で行われた講演の内容をレポート
する。
台湾前総統の李登輝氏が来日し、6月7日夜、東京都内のホテルで講演を行った。李登
輝氏は、1988〜2000年まで台湾総統。台湾の民主化を実現した。「22歳まで日本人であ
った」前総統は、終始、力強い日本語で日本を励ました。
「2007年とその後の世界情勢」と題した講演では、07年は米国が、イラク戦争やブッ
シユ政権の弱体化という状況にある中で、この機に乗じて、ロシアと中国が大胆になり、
より侵略的な行動に出る、とした。その上で、増大する中国の影響力を多方面から分析、
東アジアにおける日本の指導力に強い期待感を示した。07年の主な東アジア情勢の分析
は、次の通り。
「ロシアは、旧ソ連の中心的位置に立ち返ろうともくろんでいる。したがって、06年
にウクライナの天然ガスの危機が引き起こされているが、さらにこの傾向は顕著になる
だろう。そして、自ずと米国とその他の強権国家、特に中国の利益と直接衝突すること
になる。
中国は、国内の経済問題が深刻であるため、内部問題に翻弄(ほんろう)されるだろ
う。中国の国有銀行の不良債権は莫大(ばくだい)で、国内総生産の約6割にも達して
いる可能性がある。国際メデイアには取り上げられないが、外国からの直接投資を見て
も、欧米とアジア各国からの投資が減少している状況だ。しかし、依然として多くの人
々が現在の中国の高度成長に惑わされ、経済危機を否定している。重要なことは、世界
が中国の金融危機をいつ認識するのか、中国は問題を処理する能力があるのか、だ。
実際、中国は、日増しに深刻化する都市と農村の経済格差を縮小させることにすべて
の注意力を注いでいるが、効果的な方法が見つからず、経済問題の衝撃を緩和する政策
に転じている。この中には、中国の宇宙計画や北京五輪、日本との歴史問題など、大衆
の注意力をそらすことも含まれている。中国政府は、経済問題に手を打つために、中央
政府役人の免職によって政治力を強化するだろう。
北朝鮮は、米国が中東問題に縛られている間に、中国との関係を顕著に改善させてき
た。このため、今年、新たな経済改革政策を打ち出す可能性がある」
日本については、「安倍首相が、教育基本法を改正し、憲法改正を果たすべく取り組
み、日本を“普通の国家”に転換しようとしている。日本は世界第2位の経済体にふさ
わしい政治的地位と影響力を追求するのだ。また、日本は、NSC(National Security
Council)機構の成立を発表したが、この重要性を強調し、実態的に推進することが必
要である」とした。
これらを踏まえて、08年われわれはどうすべきかについて、次のように述べた。
「中国は専ら東アジアの政治の主導を狙っている。米国が中東地域に縛りつけられ、
弱体化したままの状態でいれば、東アジアで、権力競争の主軸となるのは中国と日本だ。
安倍首相は、靖国神社参拝問題で、中国に白旗を上げたようにも見えるが、彼の本当の
答えはNone of your business(よけいなお世話)であり、中国の内政干渉の要求を実質
に受け入れたわけではない。こうした内政を考慮した外交手段から見ると、日本は少な
くとも短期間に中国と対等に張り合う力を持てるよう努力しなければならない。これに
より、日本は初めて08年以後の東アジア政治を主導する国となり得る」と日本への期待
感を表した。日本が強くなることが台湾の安全保障上、必要だからだ。
質疑応答の時間には、同日、靖国神社に参拝したことにも触れた。「兄が日本人とし
て戦死した時、父は一切信じなかったため家には位牌もない。亡兄の跡があるのは靖国
神社だけ。だから靖国神社には本当に感謝している。62年ぶりに兄に会えて感激してい
る」と語った。
「余った時間は台湾にささげて奮闘する」という84歳の李氏の決意に、会場からは拍
手が鳴り止まない講演となった。
写真:講演する李登輝前総統
写真:李登輝ご夫妻