李登輝元総統 訪日終了 対中傾斜に危機感 [産経新聞前台北支局長 長谷川周人]

鳩山政権に注文も

【9月10日 産経新聞】

 台湾の李登輝元総統は10日、1週間の訪日を終え帰台した。今回の「日本旅行」で李氏
は、都内で国会議員らと交流し、講演で鳩山次期政権に“注文”をつけるなど、知日派と
しての存在感を示した。だが、86歳の李氏は体力の衰えも隠せなかった。中国の影響力が
増す中で「崩れつつある日台関係」の再構築や、「台湾の主体性」を訴えたその声は、残
された時間を意識した心の叫びにも聞こえる。

 「李登輝が生きている限り台日関係は心配ない。今の(馬英九)政権が台日の連携を打
ち破るなら、私がデモをやって盾になろうじゃないか。そのぐらいの覚悟はできている」。
李氏は熊本市内のホテルで産経新聞のインタビューに応じ、馬政権の対中傾斜が対日関係
に与える影響に危機感をにじませた。

 李氏は総統退任後の5回の訪日を通じ、初めて晩餐(ばんさん)会を主催し、民主、自
民両党の議員を含む関係者100人余りを集めた。その意図について李氏は「(馬)政権に
能力がないから、私が代わってお世話になった方々に堂々とごちそうしたかった」と、日
本との意思疎通を十分に図れない馬政権へのいらだちをあらわにした。

 李氏の危機感は日本にも向けられた。

 「戦後、経済的に発展したが、政治的には何も突破できなかった」と話す李氏は、鳩山
次期政権が掲げる「東アジア共同体」構想にも「早すぎる。日本が提唱して実現するほど
簡単ではない」と手厳しい。特に次期政権の対中接近を警戒し、東京公演では「君は君、
われはわれなり。されど仲よき」という武者小路実篤氏の名言を引き、日中間の「けじめ
ある関係」を求めた。

 また、「(中国)大陸は大陸。台湾は台湾だ」との持論を繰り返し、台湾の主体性堅持
は日本の安全保障の確保につながると主張。日台間に普遍的な「心の絆(きずな)」を培
う必要性を訴えた。

 日本はアジアでどう生き抜くか−。体調不良で日程変更をも余儀なくされた李氏は、政
権交代をとらえて日本人に多くを問いかけたようだ。         (長谷川周人)



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