およそ2年ぶりに訪れた台北の秋空には、台湾の旗となる「青天白日満地紅旗」がはた
めいていた。清朝の崩壊を導いて「中華民国」を建国した辛亥革命から100周年。この記念
すべき節目に台湾の馬英九政権は、中国との経済協力関係を強め、東アジアに新たな“自
由貿易圏”を構築するという。政治対立する中台両岸の歴史を振り返れば、その光景には
感慨深いものがあった。
「起来! 不願做奴隷的人們!(立ち上がれ! 奴隷になることを望まぬ人々よ!)」。
馬政権の対中接近を警戒する台湾の最大野党・民主進歩党(民進党)の本部近くを歩いて
いたときだ。大音響で流れるその曲は紛れもなく中国国歌「義勇軍進行曲」。巨大な中国
国旗「五星紅旗」を掲げた街宣車が走り抜けていった。親中派の市民グループによる街宣
活動だ。
3カ月後に総統選挙を控えた台湾は今、大きな分岐点にさしかかっている。対中融和政
策が生んだ「成果」を誇示して再選を目指す馬英九総統に対し、独立志向が強い民進党か
ら出馬する蔡英文主席は4年ぶりの政権奪還に挑む。台湾の世論調査によれば、支持率は
実質的に五分と五分。対中戦略の新機軸を打ち出せない民進党に対し、中国国民党と共闘
関係にあるはずの親民党の宋楚瑜主席が出馬する動きをみせており、分裂選挙となる可能
性もある。
2004年の総統選では、投票前日に銃撃された陳水扁総統(当時)が得票率0・22ポイント
という僅差で再選されたが、やはり台湾の選挙は最後の一瞬まで目が離せない。最大の争
点は中台関係で、それは日本経済の行方とも無関係ではない。日本と台湾は9月に投資環
境を整える投資協定を結んで新たな法的枠組みができたが、関係の前進を促した背景には、
中台間の経済連携協定(EPA)に相当する「経済協力枠組み協定(ECFA)」がある
からだ。
元日からECFAに基づく関税引き下げが始まっており、今後は台湾企業の対中輸出競
争力が強まりそうだ。しかも馬政権は政局や世論の動向を見据えながら、優遇対象を拡大
させるだろう。円高にも後押しされ、ECFA効果を狙った日本企業の台湾投資が増える
ことも予想される。親日的な感情が今なお根強い台湾がどこに向かうのか。台湾選挙民の
選択を見守るとともに、9月に1周年を迎えた僚紙フジサンケイビジネスアイの中国面で