憂いを帯びた笑顔 [産経新聞台北支局長 長谷川周人]

憂いを帯びた笑顔
【8月14日 産経新聞「台湾有情」】

 ある週末の朝、ふと海が見たくなり、バスに乗って北部の基隆に向かった。所要時間
は約40分と近いが、プライベートでのひとり旅は初めてだ。冒険気分でバスを乗り継ぎ、
沖合の基隆嶼へのクルーズを楽しんだり、暖かな人々の心に触れ、充実した一日を過ご
した。

 そこで、台湾風空揚げの屋台に立ち寄ったときのことだ。売り子は「日本ドラマの大
ファン」と言う20歳前後の女性で、商売そっちのけで日本人アイドルにあこがれる思い
の丈を話してくれた。別れ際、「日本人も台湾が好き?」と問われて、一瞬、返答に窮
した。

 台湾観光を楽しむ日本人は今や、100万人を超す。その彼らがどれだけ台湾を知り、台
湾の人々の心を理解しているのだろうか。自らも正直、心許ないものがある。

 いささか憂鬱な思いを引きずった週明け、台湾の友人が口にした言葉がまた重かった。
「僕たちは自由な社会を楽しみ、心の痛みを忘れようとしている」。敬愛する別の女性
も「台湾料理は見た目が悪いけど、世界一おいしいのよ」と寂しげな笑顔を浮かべた。

 生まれ育った国に誇りを持ち、祖国を世界に誇りたいというのが万国共通の思いだと
すれば、基隆で出会った笑顔の数々が憂色を帯びて思い出されてならないのだった。

                                (長谷川周人)


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