「週刊朝日」はめったに読まない雑誌だが、読者からの指摘で、11月4日発売の「週
刊朝日」(11月14日増大号)で李登輝元総統が登場していることを知った。「中国大陸
と対抗できる指導者が日本に欲しい」と題し、「昭和からの遺言」という再開された連
載の第1回目だった。
内容は、「昭和」をテーマに、自分の来し方を振り返りつつ、日本統治時代の台湾や
戦後の台湾史について話したことを、解説を織り交ぜつつ展開させているのだが、台湾
の法的地位や帰属問題など重要なポイントにもついても話している。
李元総統は台湾の帰属問題について「サンフランシスコ条約の第2条第2項は『台湾の
放棄』です。日本に対し、台湾を放棄しろという命令だけが書いてあって、何人の国な
のか、どこに帰属するのかを書いておらず、いまだに不明確なままでしょ。……本当は
台湾の帰属については日本が責任を持たなくてはいけない」と喝破している。
帰属問題でここまで明確に日本の責任に言及するのは、これまでほとんど見られなか
った重大発言だ。
さらに続けて、「日本の法務省は、台湾人は中国籍だと勝手に規定してしまっている。
官僚の上に立つ政治指導者も判断を停止している。判断すると、中国とゴタゴタが起き
て、摩擦が起きるからね。いまの中国大陸と対抗できる人材が日本にはいないんだ」と
述べている。
しかし、これをまとめた記者は「日本の法務省は、台湾人は中国籍だと勝手に規定し
てしまっている」という発言が何を意味しているのか分からなかったのか、解説なしで
来日の話に移っている。
これは、外国人登録証で在日台湾人の国籍欄が「中国」にされていることを批判した
発言だ。本会が進めている台湾正名運動の発端がこの外登証問題であり、その問題を指
しているのである。この問題の解決には政治指導者の判断が必要なのだが、その人材が
いないと述べる重要な発言だ。だから「週刊朝日」側も、この発言をとって「中国大陸
と対抗できる指導者が日本に欲しい」という見出しにしたのだろう。
しかし、記者もデスクも、この発言が外登証問題に触れたものだとは気づかなかった
ようだ。ましてや、台湾の帰属問題について「日本の責任」と明言したことに対しても、
一切解説していない。テーマが「昭和」だから解説しなかったのか、解説すると「中国
とゴタゴタが起きて、摩擦が起きるから」という「週刊朝日」側の判断があったのかは
不明だが、「神は細部に宿る」と言う。ここに「週刊朝日」の台湾・中国への意識がは
しなくも出ていると読んだ。
「週刊朝日」の判断はともかく、李元総統は、台湾の帰属問題において日本の責任に
言及し、外登証問題で政治指導者の判断を剔抉することで、日本に刃を突きつけたのだ。
政治指導者ばかりでなく、これは我々民間も誠実に応えなければならない重要な問いか
けであろう。
(メルマガ「日台共栄」編集長 柚原 正敬)
■週刊朝日
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