周知のように、頼清徳・新政権の発足直後の5月23日と24日、中国軍は台湾をほぼ取り囲むように軍事演習を行いました。
中国軍は「『台湾独立』の分裂勢力が独立を企てる行為に対する強力な戒めだ」としているそうですが、これは明らかな台湾への軍事的な威圧行動であり、恫喝に他なりません。
2年前の2022年8月、米国のナンシー・ペロシ下院議長(当時)の訪台直後、中国軍が台湾を取り囲むように軍事演習を行い、弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾したことを昨日のことのように思い出させます。
林芳正・内閣官房長官は5月23日の記者会見で、地域の緊張を高めかねないとして「台湾海峡の平和と安定は、国際社会全体の安定にとっても重要で、両岸関係の推移を注視し、外交努力を続けていく」と述べ、外交ルートを通じて中国政府に懸念を伝えたことを明らかにしました。
米国国務省も「中国の行動はリスクを拡大させ、長年の地域の平和と安定の規範を損なうものだ」と批判しています。
昨日、台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表も、蔡明耀、周学佑両副代表を同席させて緊急記者会見を開き、「 これは一方的な現状変更の行動であり、台湾海峡の緊張情勢をエスカレートさせるのみならず、アジア太平洋地域の繁栄と安定を破壊する活動」であり「中国の横暴な行動にはまったく正当性がない」と批判し、中国に「ただちに軍事行動を中止し、冷静かつ抑制された態度」を求めました。
そこで、記者会見の前に謝代表の見解を知らされた本会の渡辺利夫会長は、謝代表の見解に賛同し、中国軍の威圧行動を非難する「声明文」を謝代表にお送りしました。
日本は、安倍晋三総理のときから「自由で開かれたインド太平洋」構想の下、菅義偉総理、岸田文雄総理の三代にわたって「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」ことを、日米首脳会談をはじめG7サミットなどの国際会議で繰り返して提案し、すべて採択されてきました。
今やそれが米欧をはじめとした世界の共通認識となりつつあります。
今年4月の岸田総理とバイデン大統領の日米首脳共同声明でも「我々は、台湾に関する両国の基本的立場に変更はないことを強調し、世界の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を改めて表明する。
我々は、両岸問題の平和的解決を促す」と謳っていたことは、未だ記憶に新しいことかと思います。
下記に渡辺会長の「声明文」をご紹介します。
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声明文
台湾の頼清徳総統は就任後、両岸政策について「現状維持」の継続を明確に表明するとともに、「対立ではなく対話を」、「封じ込めではなく交流を」、並びに「共に平和と共栄を追求する」ことを呼びかけ、善意を示した。
しかし中国は「台湾独立への懲罰」を口実に、今月23日、24日に台湾を取り囲むように軍事演習を実施し、台湾の人々を恫喝した。
これはすでに一方的な現状変更の行動であり、台湾海峡の緊張情勢をエスカレートさせるのみならず、アジア太平洋地域の繁栄と安定を破壊し、さらには日本の安全保障上の重大な挑戦であり、平和を愛する日本国民としては中国による恣意的な軍事行動は到底容認できるものではない。
日本政府と日本国民は「力による一方的な現状変更の行動」に一貫して反対しており、われわれはこれについて厳正なる非難を表明する。
台湾は日本と同じく民主主義国家であり、自由、民主主義、法の支配といった基本的価値観を共有し、日本にとり欠かせない大切なパートナーである。
ここに、中国がただちに軍事行動を中止し、冷静かつ抑制された態度で、台湾の人々により選出された合法政府と平和的な対話により紛争を解決し、台湾海峡と地域の安定を共に守っていくよう呼びかける。
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