G7広島首脳コミュニケ「台湾海峡の平和と安定」の前に付された形容句

 実質的に5月18日夕刻からの日伊、日米、日英首脳会談からはじまった先進7カ国首脳会議(G7サミット)は最終日の21日、セッション9「平和で安定し、繁栄した世界に向けて」が開催され、G7首脳、8か国の招待国首脳、ゲストとして参加したウクライナのゼレンスキー大統領を交えて討議し3日間の日程を終えた。

 本誌が注目したのは、最終日ではなく前倒しで20日に発表された「G7広島首脳コミュニケ」に「台湾海峡の平和と安定」が明記されているかどうかだった。また、明記されるとして「台湾海峡の平和と安定の重要性」の前に「国際社会の安全と繁栄に不可欠な」などという形容句が付されるかどうかに注目していた。

 5月18日の日米首脳会談で「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促しました」(外務省)との説明があったので、強調するというなら、昨年5月23日の日米首脳会談と同じく「国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定の重要性」となる可能性は大きいと期待した。

 この「G7広島首脳コミュニケ」の英語の原文はA4判で40ページ、66項目にも及ぶ長文で、外務省の仮訳を頼りに読んでみると、51項目に見つけた。

<我々は、国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認する。台湾に関するG7メンバーの基本的な立場(表明された「一つの中国政策」を含む)に変更はない。我々は、両岸問題の平和的解決を促す。>

 これで2021年6月にイギリスで開いたコーンウォール・サミット、2022年6月にドイツ・エルマウで開催したエルマウ・サミットに続き、3年連続で「台湾海峡の平和と安定の重要性」という文言が採り入れられたことになる。

 注目したのは、「台湾海峡の平和と安定の重要性」の前の形容句だ。

 実は、昨年5月の岸田文雄首相とバイデン米大統領との首脳会談で発表した「日米首脳共同声明」では下記のように謳われていた。

<台湾に関する両国の基本的な立場に変更はないことを述べ、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて強調した。両首脳は、両岸問題の平和的解決を促した。>

 ところが、昨年6月6月26日から28日にかけてドイツ・エルマウで開催したG7エルマウ・サミットで発表された「G7エルマウ首脳声明」では、「国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素」という形容句が消え「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」とだけ記された。

 つまり、今回の「G7広島首脳コミュニケ」の台湾に関する記述は、昨年5月の日米首脳会談の表現とほとんど同じで、今回のG7で「台湾海峡の平和と安定の重要性」の前に「国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素」という形容句が差しはさまれたことを確認できる。

 ちなみに、昨年11月にカンボジアのプノンペンで開かれた東アジア首脳会議における日米韓による首脳会談で発表された「インド太平洋における三か国パートナーシップに関するプノンペン声明」でも「台湾に関する基本的立場に変更がないことを強調し、国際社会の安全及び繁栄に不可欠な要素である、台湾海峡の平和及び安定の維持の重要性を改めて表明する」と表明している。

 また、昨年12月16日に閣議決定された安保関連3文書(「国家安全保障戦略」「国家安全保障戦略」「防衛力整備計画」)の「国家安全保障戦略」でも「台湾海峡の平和安定は、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素であり、両岸問題の平和的解決を期待するとの我が国の立場の下、様々な取組を継続していく」と明記されていた。

 さらに、今年1月13日にワシントンD.C.で行われた日米首脳会談の「日米共同声明」でも「台湾に関する両国の基本的立場に変化はないことを強調し、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を改めて強調する。我々は、両岸問題の平和的解決を促す」と謳われ、昨年5月の「日米首脳共同声明」を踏襲していることが確認されている。

 このような一連の経過を見てくると、「台湾海峡の平和と安定の重要性」をより強調する「国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素」という形容句は、「国家安全保障戦略」で使用していることからも、日本が発案した文言だったのではないかと思えてくる。

 振り返ってみれば、安倍晋三・元総理が2016年8月にケニアで打ち出した「自由で開かれたインド太平洋」という構想を米国のトランプ政権が米国の戦略として採り入れ、また、この「自由で開かれたインド太平洋」という共通のビジョンを推進するため、2021年4月16日の菅義偉・前総理とバイデン大統領の首脳会談で発表した「日米首脳共同声明」で初めて「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」という文言が現れる。

 そして、昨年5月の岸田総理とバイデン大統領の「日米首脳共同声明」ではさらに発展し「国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて強調した。両首脳は、両岸問題の平和的解決を促した」と、「台湾海峡の平和と安定の重要性」の前に「国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である」という形容句が差しはさまれ、台湾海峡の平和と安定は国際社会の安全と繁栄に不可欠なのだと強調する形に変化している。

 それが、日本が議長国となって開いたこのたびの「G7広島首脳コミュニケ」にも踏襲して反映されたのだ。やはり、日本が発案した文言だったのではないかと改めて思えてくる。

 このような国際会議を通じ、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を訴え、その実現のためには「台湾海峡の平和と安定」が重要であり、その重要性は「国際社会の安全と繁栄に不可欠」という道筋を引いて台湾の重要性を世界に訴えてきたのが日本なのではないだろうか。

 日本と台湾の間に外交関係はない。しかし、このような共同文書で台湾の重要性を強調することで、日本の「重要なパートナー」と位置づける台湾に光をあてる役割を日本は自らに課してきたのではないかと思えてくる。もちろん、それが日本の国益にも合致することだからだ。

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