日米韓首脳会談でも台湾海峡の平和と安定は「国際社会の安全と繁栄に不可欠」

 現地時間8月18日(日本時間8月19日)、米国のキャンプ・デービッドにおいて、日本の岸田文雄総理、米国のジョセフ・バイデン大統領、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が日米韓首脳会議を開いた。会合後に記者会見を行い、「キャンプ・デービッド原則」「日米韓首脳共同声明」「日本、米国及び韓国間の協議するとのコミットメント」を発表した。

 本誌が注目したのは「共同声明」で台湾についてどのように触れられているかだ。 「キャンプ・デービッドの精神」と名付けられた共同声明は、原文の英語版ではA4判で5ページ、外務省による日本語仮訳は6ページほどの短いものだった。

 冒頭に「我々は、日米同盟と米韓同盟の間の戦略的連携を強化し、日米韓の安全保障協力を新たな高みへと引き上げる。……我々が共有する価値が我々の指針となり、三か国の5億人の国民が安全と繁栄を享受する自由で開かれたインド太平洋が、我々の共通の目的となる」とある。

 ここでも、安倍晋三・元総理が2016年8月のケニアで開かれたアフリカ開発会議で提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想が確実に生き、それが日米はもとより日米韓の三ヵ国でも共通の目的とされていることに着目したい。

 この「自由で開かれたインド太平洋」という文言が謳われていれば、次に出てくるのは「台湾海峡の平和と安定の重要性」だ。案の定、3ページ目に出てきた。

<我々は、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認する。台湾に関する我々の基本的な立場に変更はなく、我々は、両岸問題の平和的な解決を促す。>

 この文言は、5月に広島で開かれた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の折に発表された「G7広島首脳コミュニケ」と同じだった。

 さかのぼって経緯を振り返ってみると、菅義偉総理とバイデン大統領の「日米首脳共同声明」(2021年4月16日)で、初めて「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」という文言が現れ、その後の先進7ヵ国(G7)外相会議やG7サミット首脳宣言(2021年6月のコーンウォールサミット)などの国際会議でも同じ表現が使われたものの、昨年5月の岸田総理とバイデン大統領の「日米首脳共同声明」(2022年5月23日)で初めて「台湾海峡の平和と安定の重要性」の前に「国際社会の安全と繁栄に不可欠」という表現が盛り込まれたのだった。

 その後、この文言は、昨年11月にカンボジアのプノンペンで開かれた東アジア首脳会議における日米韓による首脳会談で発表された「インド太平洋における三か国パートナーシップに関するプノンペン声明」、昨年12月16日に閣議決定された安保関連3文書の「国家安全保障戦略」、今年1月13日にワシントンD.C.で行われた日米首脳会談の「日米共同声明」、そして本年5月の「G7広島首脳コミュニケ」でも使われ、今回の「日米韓首脳共同声明」でも使われたという経緯をたどっていることがわかる。

 下記に、これら国際会議などで「台湾海峡の平和と安定の重要性」に言及した箇所を列記してみる。

・日米首脳共同声明(2022年5月23日) 台湾に関する両国の基本的な立場に変更はないことを述べ、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海 峡の平和と安定の重要性を改めて強調した。両首脳は、両岸問題の平和的解決を促した。

・日米韓首脳会談「インド太平洋における三か国パートナーシップに関するプノンペン声明」(2022年11月13日) 台湾に関する基本的立場に変更がないことを強調し、国際社会の安全及び繁栄に不可欠な要素である、台湾海峡 の平和及び安定の維持の重要性を改めて表明する。

・国家安全保障戦略(2022年12月16日) 台湾海峡の平和安定は、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素であり、両岸問題の平和的解決を期待するとの我 が国の立場の下、様々な取組を継続していく。

・日米首脳共同声明(2023年1月13日) 我々は、台湾に関する両国の基本的立場に変化はないことを強調し、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素であ る台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を改めて強調する。我々は、両岸問題の平和的解決を促す。

・G7広島首脳コミュニケ(2023年5月20日) 我々は、国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認する。台湾に関するG7メン バーの基本的な立場(表明された「一つの中国政策」を含む)に変更はない。我々は、両岸問題の平和的解決を 促す。

・日米韓首脳共同声明(2023年8月18日) 我々は、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認する。台湾に関す る我々の基本的な立場に変更はなく、我々は、両岸問題の平和的な解決を促す。

 ここで強調しておきたいのは、「台湾海峡の平和と安定の重要性」という表現も、それを「国際社会の安全と繁栄に不可欠」と強調して表現したことも、日本が発案した文言だったということだ。

 では、「国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定の重要性」は、どのようにしてもたらされるのか。

 それは、すでに菅義偉総理とバイデン大統領の「日米首脳共同声明」で言及しているように、「台湾海峡の平和と安定」は「自由で開かれたインド太平洋の実現」によってもたらされるとしている。今回の日米韓首脳会議でも「三か国の5億人の国民が安全と繁栄を享受する自由で開かれたインド太平洋が、我々の共通の目的」と謳っている。

 つまり、安倍元総理が唱道した「自由で開かれたインド太平洋」を実現することが「台湾海峡の平和と安定」をもたらし、「台湾海峡の平和と安定」は「国際社会の安全と繁栄に不可欠」というロジックとなるようだ。

 この日本の生み出した世界大の戦略構想「自由で開かれたインド太平洋」は、G7などの国際会議で取り上げられ、いまや世界的な共通認識となりつつある。日本人はもっと日本に自信をもってよい。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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