G7首脳声明「国際社会の安全と繁栄に不可欠」は日本発案の文言だった!

 本誌5月22日号で、先般の先進7カ国首脳会議(G7サミット)の「G7広島首脳コミュニケ」について、「台湾海峡の平和と安定」が明記されるか、明記されるとして「台湾海峡の平和と安定の重要性」の前に「国際社会の安全と繁栄に不可欠な」などという形容句が付されるかどうかに注目していたと述べ、下記のように明記されていたことを紹介した。

<我々は、国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認する。台湾に関するG7メンバーの基本的な立場(表明された「一つの中国政策」を含む)に変更はない。我々は、両岸問題の平和的解決を促す。>

 そして、「国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定の重要性」という表現は「インド太平洋における三か国パートナーシップに関するプノンペン声明」(2022年11月)や「国家安全保障戦略」(2022年12月)、日米首脳会談の「日米共同声明」(2023年1月)でもまったく同じ表現が使われていることから、日本が発案した文言だったのではないかとの見立ても述べた。

 すると、翌日の産経新聞が「『台湾海峡の平和と安定の重要性』に関しては、首脳声明として初めて『国際社会の安全と繁栄に不可欠』と明記した」と言及し、「首脳声明は議長国である日本が下書きを作成し、各国と調整して発出した」と明らかにする記事を掲載した。

 やはり「国際社会の安全と繁栄に不可欠」は日本が発案した文言だった。

 一方、専門家もこの表現に注目していた。

 5月23日付の中央通信社は、中国と台湾を主な研究対象とした東アジアの国際政治を専門とする東京大学東洋文化研究所の松田康博教授が同社の電話インタビューに「台湾海峡の平和と安定の重要性が格上げされた」と指摘し、「今回のG7サミットでの首脳声明で用いられた表現が日本の国家安全保障戦略で使われたものとほぼ同じだったと指摘」するとともに「今後、日米や日英、日豪、日本とNATO(北大西洋条約機構)間だけでなく、米国がその他の同盟国と2国間会談を行う際に発表する共同声明でも『台湾海峡の平和と安定の重要性は国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素』との言及があるだろう」とも述べていると報じていた。

 本誌は、今後については言及しなかったものの、はからずも松田教授とまったく同じ観点からから指摘していたようだ。

 その上で「国際会議を通じ、『自由で開かれたインド太平洋』の実現を訴え、その実現のためには『台湾海峡の平和と安定』が重要であり、その重要性は「国際社会の安全と繁栄に不可欠」という道筋を引いて台湾の重要性を世界に訴えてきたのが日本なのではないだろうか」と述べた。

 つまり、なぜ台湾が重要なのかについて、安倍晋三、菅義偉、岸田文雄の三代の総理によって練り上げてきた表現が「国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定の重要性」だったのである。国際外交をリードするルールを作ったわけではないが、台湾がどれほど深く世界の安全と繁栄に結びついているかについて、各国が受け入れやすい表現として「国際社会の安全と繁栄に不可欠」という文言を「広島首脳コミュニケ」に盛り込んで、台湾の重要性を示した岸田総理の手腕は高く評価されてよい。

—————————————————————————————–「力による一方的な現状変更」 日本発の対中表現浸透【産経新聞:2023年5月23日】https://www.sankei.com/article/20230523-GVCLSNXSMZMDFGV5UXTHABTAFM/

 先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で発出された首脳声明(コミュニケ)の対中国政策を巡り、「力による一方的な現状変更の試みに反対」と書き込むなど日本発の表現が浸透しつつある。

 「台湾海峡の平和と安定の重要性」に関しては、首脳声明として初めて「国際社会の安全と繁栄に不可欠」と明記した。中国の脅威をアジアから離れた欧州の首脳とも共有し、議長国として対中外交を主導する狙いがある。

 林芳正外相は23日の記者会見で、G7が対中政策について認識を共有したと評価した上で、「今回のコミュニケの内容を踏まえ、引き続きG7メンバーとの間で緊密に連携していきたい」と語った。

 首脳声明は議長国である日本が下書きを作成し、各国と調整して発出した。声明では中国が海洋進出を強める東・南シナ海情勢に深刻な懸念を示し、力や威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対すると表明。中国が各国の同意を得ずに海外に設置しているとされる「警察拠点」を念頭に、干渉活動を行わないよう求めた。外務省関係者は「日本の色を出しつつ、懸念点を過不足なく盛り込めた」と語る。

 一方、政府が国内外で発信してきた「建設的かつ安定的関係の構築」や「懸念を直接表明する重要性」も盛り込み、対話を呼びかける姿勢も打ち出した。核軍縮・不拡散や気候変動の課題は中国抜きでは解決できないためだ。G7と中国の対立構造が際立つことを懸念する「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国にも配慮した。

 日本発の表現を巡っては、かつて安倍晋三元首相が中国を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」構想を提唱し、国際社会で広範な支持を得た。外務省幹部は「ルールを作る者が強者といわれるが、言葉を作るのも大きな外交的成果だ」と語っている。(広池慶一)

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