世界から高く評価されている台湾の武漢肺炎への対応ですが、5月24日も新規感染者はゼロでした。
日本の外務省が5月19日に持ち回り閣議で報告した「令和2年版外交青書」では、台湾の世界保健機関(WHO)年次総会(WHA)へのオブザーバー参加を「一貫して支持してきている」と記し、また台湾を「極めて重要なパートナー」と位置づけ、2019年版の「重要なパートナー」より一歩踏み込んだ表現をしていると伝えられています。
「外交青書」の全文は9月くらいに外務省のホームページに掲載されるそうですが、要旨と目次は掲載しています。それを見ますと、中国については「透明性を欠いた軍事力の強化と一方的な現状変更の試み」という見出しの下、かなり厳しい認識が示されています。
◆外務省「令和2年版外交青書」要旨 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100055775.pdf
世界の台湾への評価が定着し、日本政府の認識が公表されたこともあってか、朝日新聞は本日の社説で「コロナと台湾 民主の成功に学びたい」との見出しの下に台湾と中国を比較しながら取り上げ、本日の中日新聞も台湾と中国を比較した社説「台湾総統2期目 中国『優位性』への挑戦」を掲載しています。
本誌でも、武漢肺炎の封じ込めに優れているのは独裁か民主かという観点から取り上げたことがありますが、奇しくも朝日新聞と中日新聞が社説でこの観点から社説を展開しています。
朝日新聞は「民主社会の典型例として、台湾の試みは注目に値する」として評価し、台湾のWHA参加問題について「中国は台湾との政治問題を感染症対策の分野に持ち込む、反人道的な行為をただちにやめなくてはならない」とし、日本も「台湾社会の強さに学び、尊重していくべき」と主張しています。
一方の中日新聞も「中国の情報隠蔽が感染拡大を招いたのとは対照的に、言論の自由が多くの台湾人の命を救った」と台湾を高く評価し、「中華圏で香港と並ぶ『民主の拠点』である台湾への期待が高まっている」と第2期目の蔡英文政権にエールを送りつつ「民主的な台湾を発展させる挑戦を続けてほしい」と結んでいます。
これまで反政府、中国寄りの主張が強かったような印象がある朝日新聞と中日新聞が、こと台湾に関しては軌を一にし、両紙とも中国を「独裁体制」や「一党支配」と表現し、民主化を進め中国と一線を画する台湾に凱歌を上げているのです。
ただ、両紙とも気になるのは、2期目の蔡英文政権が米国との関係強化に大きく舵を切ったにもかかわらず、台湾の背後にある米国について一言も触れていないことです。米国と切り離した台湾を評価するのはどうもいただけません。
また、就任演説では「インド太平洋地域の平和、安定、繁栄に向けてより積極的な役割を果たす」ことに言及し、「今後4年間は、国際機関への参加に努め、友好国との共栄、協力を強化し、米国、日本、欧州など価値観を共有する国々との連携を深めていきます」と表明しています。
朝日は「日本は台湾社会の強さに学び、尊重していくべき」と述べ、中日も蔡総統が「日米欧などとの関係を強化する」という就任演説に触れながらも「民主主義を重視する考えを明確にしたのは心強い」と触れるだけで、日本と台湾の関係強化についての言及がなかったのも食い足りない思いを残す社説でした。どこかで中国に気を遣っている印象も否めません。
中国を除く世界中のメディアがすでに台湾を評価しているのですから、追随するような「後出しじゃんけん」の主張ではなく、日本と台湾そして米国を視野に据えた主張を展開して欲しかったというのは、ないものねだりなのでしょうか。
—————————————————————————————–コロナと台湾 民主の成功に学びたい【朝日新聞「社説」:2020年5月25日】
新型コロナウイルスとの闘いにおいて優れているのは、どのような政治体制なのか。
権威主義体制による強権的な封じ込めが効果的だという主張がある一方、民主的で透明性のある対策が成功を収めたとするケースもある。
国ごとの固有の事情にもより、結論を出すのは容易ではない。ただ、民主社会の典型例として、台湾の試みは注目に値する。国際社会が共有すべき貴重な経験として考えたい。
20日に台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統が2期目の就任式に臨んだ。1月の選挙で大勝した後、コロナ対策が評価され、支持率は歴代総統トップの70%超に上っている。
中国で感染発生が伝えられた初期の段階で、大陸との往来を即座に遮断したのが効果的だったといわれる。新型肺炎SARSの教訓も大きかった。厳格な隔離や医療物資の生産を、当局主導で速やかに進めた。その上で際立ったのは、強制的な措置と同時に進められた積極的な情報公開だ。
衛生当局トップの連日の記者会見やITの駆使により、政策の全体像、目的を社会全体で共有するよう努めた。こうした民主的な手法が市民の自立的な行動につながったとされる。人口約2400万人で、感染者数441人、死者は7人にとどまっている。
これに対し、一党支配の中国は号令一声で大都市を封鎖し、人々の行動の自由を一気に凍結した。異論を排する言論統制は混乱を封じ込めたが、その間に当局の情報隠蔽(いんぺい)が進められ、対応の遅れや統計への不信につながったとも指摘される。
イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏は「数百万人に手洗いを徹底させたい場合、人々に信頼できる情報を与えて教育する方が、すべてのトイレに警察官とカメラを配置するより簡単」だとし、民主主義社会の強さを説く。
政府が政策を間違えた場合、民主社会では自由な報道などで政策変更が行われやすいが、独裁体制では政府が誤りを認めること自体、難しくなる。
世界保健機関(WHO)総会では今年も、未加盟である台湾のオブザーバー参加が中国の圧力で認められなかった。国際社会が台湾の経験を十分に共有できないならば、大きな損失である。中国は台湾との政治問題を感染症対策の分野に持ち込む、反人道的な行為をただちにやめなくてはならない。
蔡氏は再任の演説で「我々は民主・自由の価値観を常に堅持してきた」と訴えた。その共通の原則を掲げる主要国として、日本は台湾社会の強さに学び、尊重していくべきだろう。
—————————————————————————————–台湾総統2期目 中国「優位性」への挑戦【中日新聞「社説」:2020年5月25日】
台湾の蔡英文総統の2期目がスタートした。蔡政権は新型コロナウイルス対策で成果を上げ、国際社会で存在感を高めた。民主的価値を守りながら中国との対話をどう進めるか、手腕が問われる。
中国が将来の台湾統一を視野に香港で導入した「一国二制度」について、蔡氏は20日の就任演説で「受け入れない」と、従来通り拒否する姿勢を明確にした。
前任の馬英九政権が中国寄りすぎる政治姿勢だっただけに、蔡氏が「日米欧などの基本的価値観を共有する国々との関係を強化する」と、民主主義を重視する考えを明確にしたのは心強い。
共産党支配の中国との統一は明確に否定しながらも、蔡氏の基本政策は中台の「現状維持」であり、中国との対話促進である。
中国の圧力により、台湾と外交関係がある国は15にまで減っている。だが、東アジア情勢安定のため、「現状維持」政策を堅持するのは賢明な選択である。
中国が香港の民主化運動を力で抑え込んできただけに、中華圏で香港と並ぶ「民主の拠点」である台湾への期待が高まっている。実現しなかったが、中国が強烈に反対する台湾の世界保健機関(WHO)へのオブザーバー参加でも、日米はじめ国際社会が支援した。
2期目の蔡政権が注目されるのは、中国が一党支配の「制度的優位性」と誇るような強権的な手法を用いずに、コロナ感染拡大を封じ込めた手腕への評価も大きい。
2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行を教訓に、蔡政権は複数の公衆衛生専門家を閣内に配置しており、彼らに感染抑止の指揮をとらせた。
蔡政権は、1月23日の中国の武漢封鎖に伴い武漢直行便を停止。中国全土からの入境禁止は日本より1カ月も早く、2月初旬に始めた。政府の指示により、民間企業も1月には消毒やマスク着用を従業員に徹底していた。
こうした迅速な措置を支えたのが、複数の台湾メディアが昨年末にいち早く「武漢で原因不明の肺炎発生」を伝え、警鐘を鳴らしたことである。中国の情報隠蔽(いんぺい)が感染拡大を招いたのとは対照的に、言論の自由が多くの台湾人の命を救ったといえる。
台湾のテレビ局による世論調査では、政府の新型コロナ対策に「満足」との回答が9割を超え、蔡氏の支持率は61%だった。経済再生などの課題もあるが、強い支持を追い風に、民主的な台湾を発展させる挑戦を続けてほしい。
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