コロナ禍に動く中国の“軍事謀略” 河添 恵子(ノンフィクション作家)

【夕刊フジ:2020年5月11日】

 新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)が続くなか、世界保健機関(WHO)の年次総会が18日、開催される。ドナルド・トランプ米政権は、世界全体で28万人以上もの死者(米ジョンズ・ホプキンズ大学、10日集計)が出ている「死のウイルス」をめぐり、習近平国家主席率いる中国とWHOの責任を厳しく追及する構えだ。

 加えて、日本と米国、欧州は「世界の人々の命と健康を守るため」にも、感染拡大を封じ込めた台湾(中華民国)のオブザーバー参加を支持するが、中国は強硬に反対している。激化する「米中の対立」と「中国の軍事的挑発」「中国国内の権力闘争」とは。ノンフィクション作家の河添恵子氏が緊急寄稿第13弾で迫った。

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「WHO総会や国連関係の会議に、台湾のオブザーバー参加を支援するよう、すべての国に訴える。WHOのテドロス・アダノム事務局長に対し、台湾を年次総会に招待するよう要請した」

 マイク・ポンペオ米国務長官は6日、記者会見でこう語った。

 台湾は「中華台北」の名義で、2009〜16年にWHO総会に招かれたが、蔡英文総統が就任した翌年(17年)からは、中国の反対で参加できていない。寄付の申し出すら拒絶されている。

 香港出身のマーガレット・チャン氏が事務局長時代の11年5月には、WHOが内部文書で台湾を「中国台湾省」と表記したため、台湾はWHOに正式抗議した(=AFPなどが報道)。

 新型コロナ禍のなか、WHO総会は18日、テレビ会議方式で開催される。ポンペオ氏は、この会議に「世界一の防疫先進国」である台湾の参加を支持するよう、世界各国に呼び掛けるとともに、「中国ベッタリ」と揶揄(やゆ)されるテドロス氏を牽制(けんせい)したのだ。

 これに対し、中国で台湾政策を担う国務院(政府)台湾事務弁公室の馬暁光報道官は7日、「最近、民進党と台湾独立を企てる分離主義勢力は、新型コロナウイルスの流行に便乗して、WHOの問題への台湾の関与を誇大宣伝し、『1つの中国』の原則に挑戦している」と反発した。

 だが、米国側は一歩も引かない。

 米国の上下両院外交委員会の幹部らは8日、日本を含む55カ国の政府に書簡を送った。書簡には、「われわれは貴国政府に対し、米国とその他の国のように、台湾を排除する中国の『国際組織外での行為』を終わらせるよう要請する」という一文が含まれていた。

 台湾外交部の欧江安報道官は9日、米国への深い謝意を示したが、「国際組織外での行為」とは、一体何を示すのか?

 最近では、欧州・チェコの有力政治家の身に起きた悲劇が、世界に報じられたばかりだ。

 台湾訪問を2月に予定していたヤロスラフ・クベラ上院議長が1月20日、心臓発作で急逝した。クベラ氏の未亡人と娘は、国営テレビの番組に出演し、「夫は中国政府に脅迫されていて、そのストレスが急死の引き金になった」と衝撃的な告白をした。

 クベラ氏急死と中国の関係については、ロイター(日本語版)も2月19日、「中国がチェコ企業への報復示唆、高官の台湾訪問巡り」とのタイトルで報じている。

 在チェコ中国大使館が1月10日付で、チェコ大統領府に送った書簡には、「中国に経済的利益を持つチェコ企業はクベラ議長の台湾訪問の代償を払わなければならなくなるだろう」と記されていたという。ロイターが書簡を確認したというが、公然とした脅迫というしかない。

 世界各国が、新型コロナウイルスのパンデミックで危機的状況にあるななか、中国人民解放軍は“戦闘モード”にあるといえる。

 同軍東部戦区は、国家安全教育日の4月15日、公式アカウント「人民前線」に、「幻想を捨て、戦闘を準備せよ」とのメッセージを掲載した。東部戦区の任務は「台湾有事」「日本有事」に備えることとされる。

 この直前の4月10日から11日にかけて、中国海軍の空母「遼寧」を中心とする艦隊が東シナ海を航行した後、沖縄本島と宮古島間を通過した。3月以降、中国軍のミサイル駆逐艦や早期警戒機などが、沖縄や台湾周辺で挑発的行動を見せている。空母「遼寧」の艦隊は4月28日、沖縄本島と宮古島間を通過して東シナ海に向かった。

◆中国は“内戦外戦”状態

 習主席はこれまでも、「(台湾)統一のために、武力行使も放棄しない」と公言してきた。

 中国軍の不穏な動きを受けてか、米太平洋空軍は4月29日、台湾を含む19カ国の空軍参謀総長や指揮官とテレビ会談を行った。

 台湾の蔡総統は今年1月15日、英BBCのインタビューを受け、「中国の圧力」と「戦争リスク」について、次のように語っている。

「戦争がいつ起きるか、その可能性は排除できない。だから臨戦態勢で有事に備えなければならない」「軍事的な準備に加え、より重要なことは国際的な支援を得る必要がある」「台湾政府としては、北京を挑発して事態を悪化させたり、北京に攻撃の口実をつくらせないよう、挑発しない態度を貫いている」

 新型コロナウイルスをめぐり、世界から「台湾は防疫模範国」と称賛されたことで、中国を刺激したとすれば、皮肉だ。

 ただ、習氏は共産党内部の“戦闘”にも明け暮れている。

 4月の孫力軍公安部副部長の逮捕に続き、3日には孟建柱元公安部長と、北京・上海の公安部幹部数十人の逮捕が報じられた。孫氏と孟氏は、習氏と対立する江沢民一派の超大物だった。

 中国は、内憂外患どころか“内戦外戦”状態とも言えそうだ。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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