今年に入ってからも、1月22日に米国連邦議会の下院が台湾の世界保健機関(WHO)へのオブザーバー復帰を支持する決議を全会一致で採択し、上院も1月29日に超党派により同様の法案を提出している。上院も全会一致で可決すれば、おそらくトランプ大統領は署名することで成立させるだろう。
さらに、上院の共和党議員5人が連名で、ナンシー・ペロシ下院議長(民主党)に宛て、台湾の蔡英文総統を上下両院合同会議における演説に招請するよう要求する書簡を送るなど、その活躍は台湾をおおいに勇気づけている。
このような米国議会の動きについて、『中国崩壊カウントダウン』や『トランプが中国の夢を終わらせる』などの著書があるノンフィクション作家の河添恵子(かわそえ・けいこ)さんは「『台湾を中国に渡さない』という強い決意」を示すものであり「習政権との対峙について、米国は挙国一致で進んでいる」と指摘している。同感だ。
河添さんには、本会が3月下旬に開催する定期総会において「米中“新冷戦時代”と台中関係の行方」と題して記念講演していただく。『台湾それいけ探偵団』や『台湾新潮流』などの台湾関係の著書もある河添さんが、日本、台湾、米国、中国の今後の行方についてどのような視点を提示いただけるのか今から楽しみだ。
————————————————————————————-河添恵子(ノンフィクション作家)【中国窮地】「台湾を中国に渡さない」米の強い決意 挙国一致で習政権と対峙へ【夕刊フジ:2019年2月16日】
「中国人は中国人を攻撃しない」
中国の習近平国家主席は先月2日、台湾に統一を呼びかけた「台湾同胞に告げる書」の発表から40周年を記念する式典で演説した際、こう語った。だが、この話を誰が信じるのか? 習氏は「八二三砲戦(金門島砲戦)」をご存じないらしい。
人民解放軍は1958年8月23日、福建省アモイからほど近い金門島(中華民国・台湾領)に、戦闘開始から2時間で4万発というすさまじい砲撃を行った。10月5日には、いったん終結したかに見えたが、その後も「隔日攻撃」という形で、79年1月1日までの約21年間にわたり砲撃が続けられた。中国人が中国人を攻撃し、台湾同胞も戦渦に巻き込まれたのだ。
砲撃戦だけではない。
中国国民党の蒋介石軍による、47年2月28日に起きた「二・二八事件」を知らない台湾人の大人は皆無に等しい。一説には2万人以上の罪なき台湾人が殺された。
習氏は冒頭の演説で45回も「統一」に言及し、祖国統一の最善の方法は「一国二制度」だと強調した。だが、香港返還で97年7月1日から実施されてきた同制度で、香港人の自由と民主は大幅に後退し、人権が圧迫されている悲惨な現実を、台湾の若者層を含め熟知している。
ならば、台湾の人々が統一を望むはずもない。民進党の蔡英文政権の支持率が低空飛行なのは、「台湾独立路線」を封印しているからなのだ。
さて、米国が国内法で「台湾関係法」を制定して、今年の元日で40周年になる。同法で、台湾の存続は保証されてきた。
ドナルド・トランプ米大統領は加えて、米海軍の艦船を台湾の港に定期的に寄港させることなどを盛り込んだ「2018年国防授権法案」に署名(17年12月)した。米国のすべてのレベルの政府関係者による台湾訪問および、対等な行政レベルにある台湾の政府関係者への訪問を解禁する「台湾旅行法」にも署名(18年3月)した。
事実上の大使館である米国在台協会(AIT)の新庁舎(台北市内湖)の落成式も昨年6月に行われたが、これは米台関係における「一里塚」と位置付けられた。
さらに、昨年の大みそかには、アジア諸国との安全保障や経済面での包括的な協力強化を盛り込んだ、「アジア再保証推進法」にも署名した。同法は、台湾への防衛装備品の売却推進なども盛り込まれている。
トランプ政権による、「台湾を中国に渡さない」という強い決意がうかがえる。領空や領海の安全保障の問題はもちろん、中国が資金調達や資金洗浄、最先端技術の奪取や転売の拠点として、「一国二制度」の香港を散々“悪用”してきたことを知り尽くしているはずだ。
何より、台湾企業が世界に誇る半導体製造技術が、中国共産党と軍の手に渡ってしまえば、中国の軍拡は一気に加速してしまう。世界規模の巨大企業が幾つもあり、人材も豊富な台湾は「中国製造2025」を掲げる習氏にとって“宝の山”なのだ。
台湾への武力行使の可能性を排除しない習政権との対峙(たいじ)について、米国は挙国一致で進んでいる。日本が傍観者で良いはずがない。 =おわり
■河添恵子(かわそえ・けいこ) ノンフィクション作家。1963年、千葉県生まれ。名古屋市立女子短期大学卒業後、86年より北京 外国語学院、遼寧師範大学へ留学。著書・共著に『「歴史戦」はオンナの闘い』(PHP研究 所)、『トランプが中国の夢を終わらせる』(ワニブックス)、『中国・中国人の品性』(ワッ ク)、『世界はこれほど日本が好き』(祥伝社黄金文庫)など。