方、日本政府高官との非公式会談など実務的な実績を重ねた。日本側も来年の政権交代を見据え
て“厚遇”で応じた」と報じたことを紹介した。
毎日新聞も「8日には東京で安倍晋三首相と接触したとみられ、6月の米ワシントン訪問に続き、
訪日でも成果を上げた」(10月11日)と伝え、また朝日新聞も総括記事で「安倍晋三首相と8日に
面会したとみられる。台湾要人が日本の首相と会うのは異例で、対外関係で突破力を見せつけた」
と報じた。
中国国民党が総統選候補者の中国統一発言で内紛を起こしていることもあり、日本のほとんどの
メディアは蔡英文氏の訪日を好意的に報道した。
蔡氏の安定した戦いぶりが際立つ選挙戦になったことを踏まえ、日本経済新聞が本日付の社説で
蔡氏の訪日を取り上げて高評し、台湾のTPP参加についても「台湾が加わる意味は小さくない」
として日本や米国などのバックアップを勧め、「中国の台頭でアジアの国際秩序が揺らぐなか、台
湾の針路は重要性を増している。対話と交流を深めていくべきだ」と主張している。
台湾に関する日経新聞の記事が独立系に好意的なニュアンスが読み取れることが少なくないとい
う印象を抱いていたが、それを踏まえ、社説で台湾の重要性を主張したのは珍しいのではないだろ
うか。下記にその全文を紹介したい。
ちなみに、台湾で「国慶日」や「双十国慶節」、あるいは単に「双十節」「国慶節」と称される
10月10日の中華民国の建国記念に、馬政権発足以来、蔡英文氏が初めて出席したことについて、産
経、毎日、日経は「双十節」と書いて報じた。
しかし、朝日新聞はその見出しを「国慶日」や「双十節」ではなく「辛亥革命記念式典 野党・
民進党の主席が出席」と付したことは興味深い。台湾の建国記念日ではなく、あくまでも「中華民
国」の建国記念日であることをより深く印象づけたかったのではないかと思われる。台湾の記事に
は、このような細部に記者の意識が出てくるからおもしろい。
台湾とのつながりを深めたい
【日本経済新聞:2015年10月12日付「社説・春秋」】
台湾の最大野党、民主進歩党の蔡英文主席が来日し、自民党や民主党の幹部らと会談した。
蔡主席は来年1月に投開票が予定される総統選挙の最有力候補だ。日台間に外交関係がないこと
もあり、総統に就任すれば訪日は難しくなる。そのため候補の段階で日本を訪れ、対日関係を重視
する姿勢を示したといえる。
日本にとっても台湾が大切な存在であることは、言うまでもないだろう。さまざまなレベルでつ
ながりを強めたい。
日本側との会談で蔡主席は、環太平洋経済連携協定(TPP)に台湾が加わることへの日本の支
持を訴えた。馬英九総統ひきいる現政権や与党の国民党もTPP参加に前向きだ。政権交代に左右
されない、超党派的な方針が確立されているといえよう。
台湾の経済力はアジアで有数の規模で、情報技術(IT)産業の世界的なサプライチェーンの中
で重要な存在ともなっている。高いレベルの貿易と投資の自由化を実現し世界経済の活性化をめざ
すTPPを前進させるうえで、台湾が加わる意味は小さくない。
台湾は日本や米国などとの自由貿易協定(FTA)の締結もめざしている。日本の対外経済政策
のなかで台湾をどう位置づけていくか、長期的な観点から考える必要があるのではないか。
総統選を優位に進めている蔡主席は、台湾にとって安全保障面の後ろ盾というべき米国をすでに
訪れている。中国大陸との関係については「現状維持」を原則に掲げており、オバマ政権から一定
の理解を得たとの見方が強い。
一方、国民党の候補である洪秀柱・立法院副院長(国会副議長に相当)は、大陸との統一に前向
きととられかねない発言をしたことなどから、支持が低迷している。執行部が候補の差し替えに動
くなど、同党は混乱に陥っている。
中国の台頭でアジアの国際秩序が揺らぐなか、台湾の針路は重要性を増している。対話と交流を
深めていくべきだ。