日米首脳会談から見えてきた道  王 明理(台湾独立建国聯盟日本本部委員長)

【台湾の声:2021年4月26日】

 4月16日に行われた日米首脳会談後の共同声明で、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する」と明記されたことは実に画期的なことであり、台湾はもちろんのことアジアの将来に希望の光を与える力強いメッセージとなった。

 日米が中国の理不尽な覇権主義を看過せず、台湾への侵略を許さないという方針を示したことは、台湾人の立場からすれば、やっと正論が発せられたという思いである。

 思い返せば1945年以来、台湾人はずっと「台湾は台湾であって中国人のものではない」と言いたくても、その心の叫びは中国国民党に弾圧され、国際社会に届くことがなかった。その状態のまま更に、1972年に国連の中国(中華民国)の議席が蒋介石代表から中華人民共和国に継承されて以降は、中国の国力が増大するのと反比例して、台湾の国際的な地位や外交関係はどんどん失われていった。中国による台湾いじめと、それに追随する日米をも含む国際社会のなかで、台湾人2300万人の人権は無視されてきたのが事実である。

 この度、失われた50年の後、やっとアメリカは台湾の存在を尊重する姿勢を明らかにし、日本にも歩調を合わせるように促した。日本の場合、地理的にも中国に近く、経済・産業面も中国と深い関係にあることから、中国の機嫌を損ねないようにしたいという姿勢が定着してしまっている。しかし、安全保障から見れば、中国に忖度することが日本の国益に反することは明らかであり、台湾海峡の平和とはつまり日本の平和維持に直結することである。もはや日本も覚悟を決める時だとアメリカが背中を押した形になった。

 今回の日米首脳の共同声明が重要な意味を持っていたのは、その後、日を置かずして各方面から次々と重大な動きが起こっていることからも見てとれる。

 まず、皮切りは4月17日の世界医師会が、「台湾を次のWHA(WHOの年次総会)に招待すること及びもう二度とWHOを政争に利用しないこと」というテドロスWHO事務局長に宛てた決議文を採択したことである。この決議案は22対1で可決されたもので、もちろん、反対票の1は中国であった。つまり、中国以外の国は一致して台湾の国際機関への参加に賛成したということになる。

 次は、19日のフィリピンのドゥテルテ大統領の中国を批判する発言であった。「中国が石油など南シナ海の海底資源に手を出したなら、私は領有権を主張するため、すぐに灰色の船(軍艦)を派遣するだろう」と、機を見るに敏なドゥテルテ大統領が堂々と中国批判を行った背景には、日米首脳の力強い声明の影響もあったと思われる。

 同じ日にアメリカ議会では、超党派の議員が「台湾国際団結法案(Taiwan International Solidarity Act)」を提出。1971年の国連議事案2758号について言及したもので、2758号決議案(いわゆるアルバニア案)とは中国の代表権を処理するだけのもので、「台湾及び台湾人民」には一切関係が無いことを再確認し、中国政府が恣意的に同決議案を歪曲し台湾に対する主権を主張してきたことを強く非難する内容であった。これは台湾が中国の一部の地域として扱われてきた半世紀に及ぶ屈辱から脱して、国家として認められる道を開く足がかりとなるものである。

 21日には、アメリカ議会の上院外交委員会が台湾との関係強化も盛り込んだ「2021年の戦略的競争法」という法案を賛成21、反対1で可決している。この法案は、外交委員会で可決されたことから法律として成立するだろうと伝えられている。

 同じ21日には、「日本台湾交流協会(駐台日本大使館に相当)」の泉裕康代表の名刺が「大使 泉裕康」に変わったというニュースが報じられた。これも画期的な第一歩であり、一日も早く「日本台湾交流協会」は「駐台日本大使館」に、「台北駐日経済文化代表処」は「駐日台湾大使館」に正名されることを期待したい。

 更に同日、オーストラリア政府が2018年と2019年にビクトリア州が中国と結んだ「一帯一路」の契約を破棄すると発表した。「国の外交政策と一致しないか、外交関係に悪影響を及ぼす」という判断からである。

 このように、4月16日の日米首脳共同声明の発表以降、中国に対して強い姿勢で臨む各国の動きが続いている。これは偶然ではなく必然と考えるべきで、日米首脳が旗幟鮮明にしたことは、これからも、自由と民主主義の価値観を持つ国々に良い影響をもたらすことになるだろう。

 「台湾海峡の平和と安定の重要性」は他人事ではなく、日本の安全保障に直結することである。争いを好まない日本人の性質は尊く得がたい長所ではあるが、自由と平和を維持するには、それを守る覚悟が必要である。「台湾有事は日本有事」と認識すれば、日本の取るべき道はシンプルに見えてくるのではないだろうか。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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