日台関係の法的基礎を明示せよ  渡辺 利夫(拓殖大学学事顧問)

【産経新聞:2018年1月11日】

 国家主権、安全保障、領土保全など、他国には譲れない重要な国家利益のことを中国では「核心的利益」という。これには、台湾、チベット、新疆ウイグル自治区、南シナ海、尖閣諸島などが含まれるが、核心の中の核心は台湾である。中国が国共内戦で唯一、取り逃がした地域が台湾だからである。中国にとって台湾統一は「祖国統一」問題である。それが実現される日まで中国が祖国統一の旗を降ろすことはない。

◆米国の意思を込めた台湾関係法

 国力と軍事力において圧倒的に優勢な中国が、なぜ台湾統一の挙に出ないのか。米国の「台湾関係法」の存在ゆえである。米国は1979年1月1日の米中国交樹立の直後、同年4月に米国の国内法として台湾関係法を議会で成立させ、同法を同年1月1日に遡及(そきゅう)して施行することにした。第4条A項はこうである。「外交関係と承認がなくても合衆国の法律の台湾への適用には影響力を及ぼさず、また合衆国の法律は1979年1月1日以前と同様に台湾に適用されなければならない」

 これにより54年以来の「米華相互防衛条約」の精神は台湾関係法としてなお継承されている。米軍の台湾駐留はないものの、米台は事実上の軍事同盟下にある。米国の台湾に対する武器売却も台湾関係法によって正当化されている。米国が台湾と断交したからといって、これにより台湾が中国の一部になったわけではなく、台湾の米国にとっての重要性が変わったのでもない。ならば断交という現実を前にして、米国は台湾といかに向き合うべきかを、他の誰の利益でもなく米国自身の国益の観点に立って同法を成立させたのである。米国の厳たる国家意思をここに読み取ることができる。

 対照的に、日本はどうか。日本には台湾との関係を律する法律の一切がない。72年の日中共同声明では台湾が中国の「不可分の一部である」という中国の立場を日本が「十分理解し、尊重」したのであって、国際法的にはそれ以上でもそれ以下でもない。しかし、いつの間にやら台湾が中国の一部であるかのごとく受け取られるようになってしまった。実際、岩波書店の広辞苑の最新版でも、日中共同声明の項目についてはこう記される。「中華人民共和国を唯一の正統政府と承認し、台湾がこれに帰属することを実質的に認め、中国は賠償請求を放棄した」

◆海峡の現状維持は可能なのか

 日中共同声明の発出時点、中国は主敵ソ連との軍事的対立において瀬戸際に立たされ、反ソ包囲網形成に国運を賭していた。米中・日中国交樹立は包囲網形成の重要な手段であった。日中国交樹立を強く望んでいたのは、日本ではなく中国の方であった。どうしてあの時期、日本は米国の台湾関係法に類する国内法を制定できなかったのか。実際には、そんな気配はまるでなかった。逆に日本は一色の「中国ブーム」だった。プロレタリア文化大革命を「人間的な革命」といい「魂にふれる革命」だという、いま振り返ればおぞましいほどのセンチメントが日本のジャーナリズムを覆っていた。米国のような理性的な判断ができる状況には全くなかったのである。

 しかし、あれから半世紀、中国の国力と軍事力は格段に強化された。台湾海峡の「現状維持」がいつまで可能か。これまで現状維持が可能だったのは米国の台湾関係法の存在ゆえである。日本が台湾有事に巻き込まれずにいられたのもこの法律のゆえである。しかし、強大化する中国の軍勢を前に、日本は今後も米国の国内法に甘んじるだけでいいのか。

◆日本は安保政策の議論を尽くせ

 日台交流は、双方の民間窓口機関を通じてなされており、これが人的往来、在留、船舶・航空機の運航、経済、文化交流などの事務に当たっているが、法律的な裏付けはない。日台漁業協定をはじめ、民間租税、民間投資に関するものを含めてこれまで多くの取り決めが積み上げられてきた。

 しかし、これらはすべて民間機関相互の取り決めであり、国際法ではもとよりない。法的裏付けのない不安定性の中で辛うじて「実務関係」を維持しているのが日台関係である。実務関係を担保する法的根拠が明示されねばならない。

 加えて、安全保障の問題がある。安全保障といっても、現在では伝統的な軍事的領域にとどまらず、国際テロ、海賊、捜索、救難、自然災害などの非伝統的領域にまで広がっている。これらに関する日本との情報共有や共同行動から台湾を排除しておいていいのか。それで日本の国益が損なわれることはないのか。日本版の台湾関係法を成立させねばならない。

 「日本李登輝友の会」は、浅野和生教授の主導により2013年3月に「我が国の外交・安全保障政策推進のため『日台関係基本法』を早急に制定せよ」を政策提言として発表している。議論の盛り上がりを切に希望する。(わたなべ としお)

             ◇     ◇     ◇

渡辺利夫[わたなべ・としお]

昭和14年(1939年)6月、山梨県甲府市生まれ。同45年、慶應義塾大学経済学部を経て同大学院博士課程満期取得。経済学博士(同55年)。その後、筑波大学教授、東京工業大学教授、拓殖大学教授を歴任して同大学長、総長に就任。同27年12月、同大総長を退任し学事顧問に就任。同28年3月、日本李登輝友の会会長に就任。同30年4月、一般社団法人日米台関係研究所理事長に就任。公益財団法人山梨総合研究所理事長、国家基本問題研究所理事、公益財団法人オイスカ会長。第27回正論大賞受賞。月刊「正論」の平成31年1月号から「小説台湾─明治日本人の群像」を連載。

主な著書に『成長のアジア停滞のアジア』(吉野作造賞)『開発経済学』(大平正芳記念賞)『西太平洋の時代』(アジア・太平洋賞大賞)『神経症の時代─わが内なる森田正馬』(開高健賞正賞)『新脱亜論』『アジアを救った近代日本史講義』『国家覚醒―身捨つるほどの祖国はありや』『放哉と山頭火─死を生きる』『士魂 福澤諭吉の真実』『決定版・脱亜論─今こそ明治維新のリアリズムに学べ』『死生観の時代─超高齢化社会をどう生きるか』など多数。


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