日台友好へ不断の努力を 池田維前交流協会台北代表

昨日は7月10日に離任して帰国した許世楷前代表のロングインタビュー(MSN産経
ニュース)をご紹介したが、本日付の産経新聞がやはり10日に離任して帰国した池田維
(いけだ ただし)交流協会台北事務所代表(駐台湾大使に相当)へのインタビューを
掲載しているのでご紹介したい。

 池田前代表については、後を襲った斎藤正樹・前ニュージーランド大使について紹介
した際に、「台湾で天皇誕生日祝賀会の開催や台湾人叙勲への道を切り開いて日台関係
の深化に大きく貢献した内田勝久代表(昨年7月29日、前立腺ガンのため逝去)の後任で
あり、は引き続き天皇誕生日祝賀会や叙勲を続け、さらに台湾人観光客のノービザや運
転免許証の相互承認の実現などで尽力した。特に離任間近に起こった尖閣諸島・魚釣島
付近における台湾の遊漁船と海保巡視船の衝突沈没事故では、尖閣諸島が日本領土であ
ることを明言しつつ、欧鴻錬外交部長と直接交渉して事態収拾に立ち働いたことは大い
に評価されてしかるべきだろう」と書いた。

 産経のこのインタビューの中で池田前代表は馬英九政権への不安を隠さない。特に中
国関係について「当面は中国と一種の蜜月関係になるだろうが、長く続くかはわからな
い」と指摘している。外交官として見た馬総統がリードする外交政策についても「日本、
米国、そして中国とそれぞれ仲良くするというが、優先順位が見えてこない」と明言す
る。

 また、李登輝元総統時代に台湾史を重視した歴史教科書の登場を「バランスがとれた
歴史観が根付き、日本に親近感を持つ若者が増えた」と高く評価し、馬英九政権の進む
べき方向性も示唆した。含蓄に富む発言だ。

 昨日の許世楷前代表のように、いずれ「グローバルインタビュー」で詳しい内容が掲
載されるかもしれない。そのときはまたご紹介したい。         (編集部)


日台友好へ不断の努力を 池田維前交流協会台北代表
【7月18日 産経新聞】

 日本の尖閣諸島(台湾名・釣魚島)沖で6月に起きた日本の巡視船と台湾の遊漁船が
衝突した事故で、領有権問題をめぐり先鋭化した日台関係の修復に奔走した交流協会台
北事務所の池田維前代表=写真。その池田氏が任期満了にともなう今月10日の帰国を前
に産経新聞の取材に応じ、「良好な日台関係も双方が不断の努力をしなければ、崩れや
すいもろい側面もある」と事故を振り返った。(台北 長谷川周人)

 5月に発足した台湾の馬英九政権は、尖閣諸島は「中華民国の領土」という主張に立
ち、衝突事故で日本への謝罪要求を繰り返すなど強硬姿勢を崩さず、「開戦の可能性も
排除しない」(劉兆玄行政院長=首相)との常軌を逸した発言まで飛び出した。

 噴き出す反日世論を受けて池田氏は、在留邦人に注意を喚起する一方、欧鴻錬外交部
長(外相)や王金平立法院長(国会議長)ら台湾要人と水面下で接触。事態打開に向け
た折衝に入ったところ、馬政権は「対日関係は重要であり、対立は望まない」との認識
で一致し、事態の早期解決を求めているとの感触を得た。

 日本側は領土主権について従来の立場を堅持しつつも、政治的歩み寄りを見せること
で、事態は一応収拾した。しかし、その間、馬政権が見せた態度の急変は日本側に驚き
を与え、今後に不安を残すことにもなった。

 これについて池田氏は「総統自身が反日的とは思わないが、メディアの扇動で世論が
反日に傾く可能性がある。総統の意向がどうであれ、中国との関係改善が進む中、日本
との関係が今後、希薄化する危険性もある」と指摘。馬政権には日本を理解する人材が
乏しいといわれるだけに、これまでの親日ムードを保つには、日台双方による努力が必
要だと強調した。

 また新政権の今後に関しては、「馬総統は日本、米国、そして中国とそれぞれ仲良く
するというが、優先順位が見えてこない。当面は中国と一種の蜜月関係になるだろうが、
長く続くかはわからない」と分析。政権が目指す日米中との等距離外交は理想と現実の
はざまで何らかの軌道修正を迫られる可能性があり、馬総統に対し、政権の考え方や方
向性を日本に説明していく努力と配慮を求めた。

 池田氏は四十数年にわたる外交官生活を振り返り、「台湾は外交官としての出発点で
あり、実質的な最後の勤務地。特別な因縁を感じる」と述懐。この間の台湾の変化につ
いて、経済規模の拡大と民主主義の定着を挙げた。特に李登輝政権下では「歴史教科書
が変わってバランスがとれた歴史観が根付き、日本に親近感を持つ若者が増えた」と感
慨深げで、地域の安定のためにもさらに関係を発展させる必要性を日台双方に呼びかけ
た。

池田維(いけだ・ただし)氏
1939年生まれ。東京大学法学部卒。62年外務省入省。同年から2年間、外交官補として
台北で語学研修。中国課長、アジア局長、官房長、オランダ大使、ブラジル大使などを
経て2004年に退官。翌年5月、交流協会台北事務所代表就任。在任中、台湾人への観光
ビザ(査証)免除や運転免許証の相互承認、李登輝元総統訪日などの実現に尽力、今年
5月、総統から大綬景星勲章を授与された。

交流協会
台湾における日本の民間代表窓口機関。1972年の日台断交後、実務レベルで日台交流を
維持する目的で設立された。東京本部の下に台北と高雄に事務所を置き、経済、文化、
学術、人的往来などの分野で日台交流の円滑化を図る。台北事務所は在台湾大使館に相
当する。これに対応する台湾側の窓口機関は台北駐日経済文化代表処。台北事務所の代
表は大使に当たり、通例、退官した外務官僚を充てる。池田維氏の後任には、駐中国公
使などを歴任した斉藤正樹前ニュージーランド大使が今月11日付で就任した。