5月13日発売の「SAPIO」誌(小学館)で、台湾関係者には『トオサンの桜−散り
ゆく台湾の中の日本』でも知られるノンフィクション作家の平野久美子氏が鳥居信平(と
りい・のぶへい)について、『あの国のどこかで』─「この国のどこかで・特別版」とし
て「86年前、台湾南部の荒野で─日本統治時代、日本と台湾を『水の絆』で結んだある日
本人技師がいた」と題して執筆している。
本誌では、平野さんが「諸君!」や「正論」に執筆した鳥居信平の事績について詳しく
紹介しているので改めて紹介する必要はないと思うが、鳥居が86年前につくった日本初と
なる屏東県の地下ダム「二峰[土川](にほうしゅう)」は八田與一が手がけた烏山頭ダ
ムに先行し、今でも20万人の地元住民の生活水や農業用水として使われ続けている。だか
ら、今も地元の人々は鳥居信平に感謝し尊敬し、「二峰[土川]は私たちの宝」とその恩
を忘れない。その功績は中学校の副読本でも教えているほどだ。
平野さんは、この二峰[土川]のある屏東県来義郷において、去る4月21日に屏東県政
府の主催により、許文龍氏(奇美実業創業者)が自ら製作した鳥居の胸像の除幕式が行わ
れたことを伝え、鳥居信平の事績を地元の人々の声とともに伝えている。
4月5日の「NHKスペシャル シリーズ JAPANデビュー・第1回 『アジアの“一等
国”』」は、「植民地時代の差別、戦争の深い傷が残されているという事実を伝えること
が、日本と台湾のさらに強くて深い関係を築いていくことに資する」(4月14日付、NH
Kから日本李登輝友の会への回答)と考えて制作したというが、鳥居信平という日本でほ
とんど知られていない台湾での事績を紹介した方がよほど「日本と台湾のさらに強くて深
い関係を築いていくことに資する」ことになると考えるのは編集子ばかりではあるまい。
台湾には「負の遺産」もある。だが、まだまだ日本で知られていない、日本人が誇りと
すべき遺産も数多く残されているのだ。
平野さんは、胸像の除幕式でお年寄りたちが「そうよ、みんな日本人に感謝してるんだ
よ」「台湾と日本は特別な関係なんだよ、あんた、わかりますか?」と、朴訥な日本語で
話しかけてきたことを紹介している。
これを読んで、NHKの「JAPANデビュー」の最後にも、日本語世代が同じような
ことを述べる場面が出てくることを思い出した。
「帰ったらね、日本の若い連中には分からないけど、年寄りの80歳以上の人に、まあ、
あの宣伝して下さい。台湾の、台湾の当時の若い青年は、如何にして、日本の民と協力し
て、尽くしたか、心を察して貰いたい。ハハハ、分かりますか。そうでしょ、命を掛けて
国のために尽くしたんだよ、命のため、それなのに……」
屏東の日本語世代のお年寄りと、台北の日本語世代のお年寄りが言っていたのは、まっ
たく同じ意味だったことが、この一事からも分かる。
この5月末には、平野さんによる鳥居信平の評伝『水の奇跡を呼んだ男─日本初の環境
型ダムを台湾につくった鳥居信平』(産経新聞出版、定価:1,600円)が出版される。7月
には鳥居信平の生誕地、静岡県袋井市で胸像の除幕式が行われる予定だ。
■SAPIO 6月3日号(5月13日発売、定価:500円)
http://skygarden.shogakukan.co.jp/skygarden/owa/sol_magcode?sha=1&zname=2300&keitai=0
■平野久美子『水の奇跡を呼んだ男─日本初の環境型ダムを台湾につくった鳥居信平』
http://www.sankei-books.co.jp/books/title/9784819110587.html