岸信夫防衛相が拡大ASEAN国防相会議とEU議会で立て続けに中国を批判

 岸信夫・防衛大臣が、6月16日は中国も参加した「第8回拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)」、翌17日には欧州連合(EU)議会の安全保障・防衛小委員会にオンラインで参加してスピーチし、「台湾海峡の平和と安定が重要」と述べるとともに、中国の「海警法」について「国際法との整合性の観点から問題がある」と発言、2日続けて中国を名指しで批判しました。

 防衛省によれば、拡大ASEAN国防相会議には、ASEAN(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)10ヵ国と、オーストラリア、中国、インド、日本、ニュージーランド、韓国、ロシア、米国の8カ国、計18ヵ国が参加したそうで、中国が参加する会議で中国を批判したことに驚きました。

 防衛省は16日、拡大ASEAN国防相会議における岸防衛相のスピーチ概要を公表、台湾海峡の平和と安定の重要性に言及した発言を下記のように伝えています。

<我が国は、私たちの繁栄に不可欠な海においても「法の支配」を徹底することを一貫して訴えており、東シナ海及び南シナ海において、力を背景とした現状変更の試みが継続している旨指摘し、南シナ海においても、全ての当事者が、国連海洋法条約を始めとする国際法に基づく紛争の平和的解決に向け努力する重要性を訴えました。加えて、本年2月に施行された中国海警法について、この法律により関係国の正当な権益を損なうことがあってはならないと訴えました。さらに、台湾海峡の平和と安定は、地域のみならず、国際社会にとっても重要であり、台湾をめぐる問題が、当事者間・直接の対話により、平和的に解決することを期待する旨述べました。>

 会議に参加した中国の魏鳳和国務委員兼国防相が「『南シナ海や台湾をめぐる問題で、中国は断固とした決意で国家の核心的な利益を守る。これは必ず尊重されるべきだ』と猛反発した」(夕刊フジ)と報じられていますが、岸防衛相にとっては想定内のことと言えるかと思います。

 夕刊フジは、福井県立大学の島田洋一教授のコメントとして「岸氏の発言は、中国に遠慮がちだった日本をノーマルな方向に戻し、中国に引き寄せられそうなASEAN諸国を自由主義陣営に引き戻した。高く評価すべきだ」と伝えています。同感です。

 17日のEU議会安全保障・防衛小委員会でも「岸氏は『中国は東シナ海、南シナ海で力を背景とした一方的な現状変更の試みを執拗に継続している』と中国を名指しで批判し、インド太平洋地域での連携を呼びかけた」と朝日新聞が報じています。

 下記に、防衛省ホームページから拡大ASEAN国防相会議における岸防衛相のスピーチ概要と朝日新聞記事をご紹介します。

 ちなみに、岸防衛相は、防衛大臣政務官として政府に入りますが、その後は外務副大臣を2度つとめ、衆議院外交委員会委員長や衆議院安全保障委員長などをつとめ、外交畑出身と言われています。また、防衛省の中山泰秀副大臣も外務副大臣経験者であり、松川るい・防衛大臣政務官も外務省出身です。

 また、陸上自衛官出身で「ヒゲの隊長」という愛称で知られる佐藤正久・参議院議員は現在、自民党外交部会長で、「台湾政策検討プロジェクトチーム」座長を兼任していますが、防衛大臣政務官として政府入りし、その後は参議院外交防衛委員長を経て外務副大臣に就き、昨年10月、外交部会長に就任しています。

 外交と防衛は、切り離せない不即不離の関係にあることがこのような人事の面からも証されるようです。

◆防衛省:岸防衛大臣による第8回拡大ASEAN国防相会議への出席について (概要) https://www.mod.go.jp/j/approach/exchange/dialogue/j-asean/admm/08/admmplus_8.html

—————————————————————————————–岸防衛相、EU議会で中国批判 「現状変更の試み執拗」【朝日新聞:2021年6月17日】https://www.asahi.com/articles/ASP6K6DZDP6KUTFK01P.html

 岸信夫防衛相は17日、欧州連合(EU)議会の安全保障・防衛小委員会にオンライン形式で出席した。

 日本の防衛相が参加するのは初めて。岸氏は「中国は東シナ海、南シナ海で力を背景とした一方的な現状変更の試みを執拗(しつよう)に継続している」と中国を名指しで批判し、インド太平洋地域での連携を呼びかけた。

 EUは4月には「インド太平洋戦略」を策定。EU加盟のドイツのほか、英国など欧州の国々が同地域に艦船を派遣する動きもある。今回、同委員会はインド太平洋戦略を具体化していくにあたり、岸氏に出席を求めた。

 中国の海洋進出を警戒する日本にとって、日米や日米豪印の「Quad(クアッド)」に加え、EUを巻き込んだ枠組みをつくることは、安全保障上の重要な戦略の一つ。岸氏は欧州の対外貿易の4割が南シナ海を経由する点に触れ、「この海域の安全は欧州に直接影響する問題」として、連携を訴えた。また、中国が軍事的圧力を高める台湾についても、「台湾をめぐる情勢の安定は国際社会の安定にとっても重要」などと指摘した。

 茂木敏充外相も1月、EU外務理事会にオンライン形式で出席し、日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)構想」を説明。5月の日本とEUの定期首脳協議では、共同声明にFOIPや台湾情勢に関する文言も盛り込まれた。外務省関係者は「日本の問題意識が、EUと着実に共有できつつある」と話した。(松山尚幹、菅原普)

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