岸信夫・衆議院議員が明かす李登輝元総統や台湾への思い

 自民党の「日本・台湾 経済文化交流を促進する議員の会」会長で、外務副大臣をつとめた日華議員懇談会幹事長の岸信夫・衆議院議員の台湾へ思いは、実兄の安倍晋三首相に勝るとも劣らないほど深いようだ。フジテレビ政治部の門脇功樹記者は「台湾政界と最も太いパイプを持つ国会議員」と評している。

 門脇記者はこのほど岸議員にインタビューし、「岸家・安倍家にとっての台湾」「台湾訪問の舞台裏や兄・安倍首相の台湾への思い」などを聞いている。下記にご紹介したい。

 ちなみに、岸議員は、李登輝元総統を追悼する記帳所が東京・白金台の台北駐日経済文化代表処に設けられた初日の8月3日、記帳開始5分前に智香子夫人とご子息を伴って訪れている。この日は森喜朗・元首相や古屋圭司・衆議院議員なども訪れているが、国会議員の中で一番最初だった。

 また、この日、オフィシャルブログ「岸信夫のぶろぐ」に「日本にとって最高の理解者である李登輝総統によって台湾の対日史観は正され、日台関係はその後の飛躍的な関係強化につながりました。台湾の民主化により国際社会の理解と支持を得て地域に平和と安定をもたらしたことも先生の偉業です」とその功績を讃えるとともに、本会と協力して開いた2015年の李元総統講演会に言及しつつ「まさに台湾のために人生を全うされた李登輝先生。東アジアに根付いた民主主義が脅かされつつある今、李登輝先生を失うことは痛恨の極みです。我々はこの難局を乗り越え、民主主義を不動のものとし、平和と安定のもとに繁栄する地域をつくり上げていくことを先生にお誓いします」とつづっている。

◆オフィシャルブログ「岸信夫のぶろぐ」:8月3日 追悼 李登輝台湾元総統 https://ameblo.jp/nob-1/entry-12615423969.html

—————————————————————————————–李登輝氏遺族に安倍首相からの手紙 弟・岸信夫氏が明かした“台湾への思い”【FNNプライムオンライン:2020年8月20日】https://www.fnn.jp/articles/-/75149写真:李登輝氏から祖父・岸信介元首相の米寿に届いた「六連の額」など11枚

◆台湾民主化の父・李登輝元総統死去 小泉環境相はじめ要人が相次ぎ弔問

 7月30日に亡くなった台湾の李登輝元総統。血を流すことなく民主化を成し遂げ「台湾民主化の父」とも称された李元総統は、日本統治下の台湾で生まれ、流ちょうな日本語を話す親日家として知られた。その李元総統の死去に際し設置された東京・白金台にある台北駐日経済文化代表処(駐日大使館に相当)の記帳台には、多くの日本人が足を運んだ。その中には、首相経験者の森喜朗氏や麻生副総理らの姿があった。

 また、自民党青年局長として2013年に訪台し李元総統と面会した小泉進次郎環境相も弔問に訪れた。記帳後、小泉環境相は「李登輝さんとは私が自民党の青年局の時にお会いさせていただいた。そのときのことは忘れない。これからも自民党の青年局は誰が青年局長になっても台湾とのつながりを大切にする」と力強く語った。

 弔問最終日の8月7日には、菅官房長官も弔問に訪れ、その弔問者数の多さは李元総統が多くの日本人から慕われ、愛されていたことを物語っていた。

 そしてこの弔問者の中に、安倍首相の弟である岸信夫元外務副大臣の姿があった。

 岸氏は、兄・安倍首相に代わり、何度も訪台するなど正式な国交のない台湾との交流を続けてきた。今年1月にも台湾を訪問し、前日に総統選に勝利したばかりの蔡英文総統といち早く面会したほか、19年に来日した次期総統候補とも言われる頼清徳氏(現・副総統)と会食するなど、台湾政界と最も太いパイプを持つ国会議員だ。

 岸氏は李元総統の死去について、「台湾の民主化により国際社会の理解と支持を得て地域に平和と安定をもたらした。東アジアの民主主義を脅かされる今、李登輝先生を失うことは痛恨の極みだ」とコメントした。FNNは岸氏にインタビューし、台湾訪問の舞台裏や兄・安倍首相の台湾への思いを聞いた。

◆安倍首相の李登輝氏への思いと、祖父・岸信介元首相の米寿に届いた「六連の額」

 岸氏は、台湾との縁の源は自身と安倍首相の祖父である岸信介元首相だと語る。

「祖父(岸信介元首相)は蒋介石(当時の中華民国総統)との縁があって、中華民国(台湾)が国際連合を脱退する直前に台湾に渡り、蒋介石に対して『国連を辞めなくていいのではないか。中国とは別の国として、台湾は台湾として残ればいいのではないか』として国連への残留を促した。ただ、蒋介石は『私は中華民国の総統だ。国連が(中華民国と中華人民共和国の)どちらかを選ぶ立場だ』と拒否された」

 岸氏はこんなエピソードを披露してくれた。祖父・岸信介元首相が88歳の米寿を迎えた際に、台湾からお祝いの品物を受け取った。品物は「六連の額」で、張群、何應欽、谷正綱といった当時の国民党の名だたる政治家とともに寄贈者の一人として“李登輝”の名前も記されていたという。

 また岸氏は「私の初めて海外にいった家族旅行も台湾でした。とにかく当時から台湾の人は温かったことを覚えています」と述べた。岸家・安倍家にとって台湾はそれだけ身近な存在であったのだ。

 そして岸氏は、兄・安倍首相の李元総統への思いについては「かなり個人的に強い思い入れがあった」と述べた。さらに安倍首相の台湾への思い入れの背景には「日本の安全保障を考えてもこの地域にとって台湾は重要で欠かすことができないと思っている」こともあると解説する。

◆台湾を弔問した岸信夫氏 安倍首相の手紙を李元総統の遺族に手渡す

 岸氏は2015年に李元総統を講演のため日本に招待した時に、「長く見積もっても台湾のために働けるのはあと5年くらいだろうとも感じている。残りの人生は、台湾に、より一層成熟した民主社会を打ち立てるために捧げたいと思っている」と語ったのが印象的だったとした。

 そして先月もたらされた李登輝氏の訃報。これを受け岸氏は、新型コロナウイルスの猛威を受け、国と国との人的交流は最小限に抑えられていた中ではあったが、世界で最も早く李元総統の弔問を行うため日本からの弔問団の台湾訪問に向け奔走した。その結果、森元首相と超党派の議員による弔問が実現した背景について岸氏は次のように語った。

「弔問に行くのか葬儀にいくのかというのがまずあった。また、できる限り台湾に敬意を表するには首相経験者でないと、という思いがあった。安倍首相からは森元首相に人選はお任せしたい、という言い方だったと思うが、総理の本音としては『ぜひ森さんに行ってほしい』という思いがあったのだろう」

 8月9日に日帰りでの台湾訪問が決まり、弔問団は、72時間前にPCR検査を受け陰性を確認し、現地での人との接触を最小限にするなど万全の準備を整えた。弔問団は、蔡英文総統と面会し、李元総統の遺影の前で献花を行った。

 この弔問の中で、安倍首相の思いを台湾側に直接伝える機会はあったのか聞くと岸氏は次のように明かした。

「台北賓館で李元総統への献花をした後、別室で李元総統のご遺族の次女夫妻と面会しました。そこで総理から預かっていた手紙を『総理からのメッセージです』と手渡しました」

 安倍首相の李元総統への思い、台湾への思いは、弟である岸氏を通じて、李登輝氏の遺族に直接伝えられていた。

 最後に亡くなった李元総統から言われたことで印象に残っている言葉を聞くと岸氏は「日本はもっと自信を持っていいんじゃないかといわれました。日本への批判をされることもあったがその批判はとても温かい批判だった」と語った。

 李元首相の言葉を改めて噛みしめていた岸氏。97年の生涯を通じて数々の偉業を残した李元総統の思いは、日台関係に尽力する多くの人の手によって次の時代へと引き継がれていくことになるだろう。

(フジテレビ政治部 門脇功樹)

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