尖閣問題と日台関係 [佐藤 健二]

台湾は目先の利益に踊らされて大局を見失ってはいけない

 昨10月27日、またもや香港の反日団体「保釣行動委員会」の活動家らが尖閣諸島に上陸
しようとして日本の領海内に侵入してきた。海上保安庁の巡視船により駆逐されたが、中
国側は「釣魚島と周辺の島々は中国固有の領土であり、中国の民衆が島の主権を主張する
のは正当な行動だ」と表明し、日本政府が島を実効支配していることは中国の主権の侵害
だと非難したという。

 これは中国政府が国内法で尖閣諸島を自国領と勝手に定めたことを根拠としているにす
ぎない。尖閣諸島は歴史的にも国際法的にも、日本の領土であることは明々白々なことだ。

 台湾にも、国民党主席である馬英九・台北市長などが未だに尖閣諸島が自国領であると
主張している一派がいるが、すでに昨年の機関誌『日台共栄』4月号(第6号)で、本会
の佐藤健二理事(日台交流教育会副会長)が中国と台湾には理がないことを諄々と説いて
いるので、いささか長いがここに改めて掲載して参考に供したい。佐藤論文の後に今朝の
読売と産経掲載のニュースを掲載したい。

 佐藤理事も指摘しているが、目先の利益に踊らされて大局を見失ってはいけないことを
台湾には切に望みたい。                         (編集部)


尖閣問題と日台関係−台湾に望みたい大中華思想の残滓を除いた安保提携の道

                    本会理事・日台交流教育会副会長 佐藤 健二

■「尖閣問題」とは何か

 今ここで尖閣問題と言っているのは、正確に言えば「尖閣諸島の領有権」をめぐっての
日本と中国・台湾間の問題ということである。本論に入る前に、すこし基本的知識のおさ
らいをしておこう。

 そもそも尖閣諸島とは、どこに在るのか。小学館の世界大百科全書の記述を借りれば「
沖縄県石垣市に属し、八重山列島北方の東シナ海中にある。主島の魚釣島(中国名は釣魚
島または釣魚台)、北小島および南小島を含むグループと、それよりやや北の久場島(黄
尾嶼)と、東へ離れた大正島(赤尾嶼)とからなる」。明治二十八年(一八九五年)に日
本領に編入されたのであるが、外務省の「尖閣諸島の領有権についての基本見解」にも「
一八八五年以降政府が沖縄県当局を通ずる等の方法により再三にわたり現地調査を行い、
単にこれが無人島であるのみならず、清国の支配が及んでいる痕跡がないことを慎重確認
の上、一八九五年一月十四日に現地に標杭を建設する旨の閣議決定を行って正式にわが国
の領土に編入することとした」とある。その後、民間人に払い下げられ、魚釣島を中心に、
一時はそこに生息するアホウドリの羽毛採集や鰹節製造の作業が盛んに行われていた。

 歴史的に確認しておくべきことは、この諸島が、当初来わが国の領土である「南西諸島
の一部」を構成しており、日清戦争後に締結された下関条約の第二条に基づき、わが国に
割譲された「台湾および澎湖諸島」に含まれていないということである。このことは、敗
戦後のわが国の領土を画定したサンフランシスコ平和条約第二条(領土権の放棄)(b)項
に規定する「日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄
する」という条文の対象に該当しないことを意味している。

 つまり、日本が台湾の領土権を放棄したとき、尖閣諸島もそれに付随する形で領土権を
失ったとする中国・台湾の主張は、誤りであるということをまず確認しておきたい。

 では、尖閣諸島の帰属はどうなったかというと、沖縄などと一緒にアメリカ合衆国の施
政下に置かれたのである。このとき中華人民共和国(以下、中国と略す)も中華民国(以
下、台湾とも称す)も領有権を主張することはなかった。

 この尖閣諸島の領有権が国際問題として大きく取り上げられるようになったのは、昭和
四十五年(一九七〇年)以降のことである。昭和四十三年(一九六八年)十月十二日から
十一月二十九日にかけて、日本、中華民国(当時、日本国政府は中華民国政府と国交を結
び、まだ中共との間には国交がなかった)、韓国の海洋専門家が中心となって、東シナ海
一帯の海底の学術調査を行った。その結果、東シナ海の大陸棚には石油資源が埋蔵されて
いる可能性が判明し、にわかにこの地域が脚光を浴びることになったのである。

 それから二年後の昭和四十五年、中華民国(台湾)と中国が相次いでその領有権を公式
に主張したのである。

■尖閣問題をめぐる最近の動き

 今年(平成十七年)二月九日、日本国政府は尖閣諸島の実行支配を強化するため、昭和
五十三年(一九七八年)、都内の政治団体が建設した魚釣島の灯台を国有財産として海上
保安庁が保守・管理することにしたことを発表した。

 この背景には、近年、日本政府の警告を無視して繰り返されている中国の調査船による
海洋調査や、昨年三月に中国人活動家が魚釣島に不法上陸し灯台や史跡の一部を破壊する
といった違法行為、また昨年十一月に発生した中国海軍の原子力潜水艦による領海侵犯事
件など、中国の度重なる違法な振る舞いに対する警戒感がある。

 この日本政府の動きに対して、中国政府はただちに反発した。また反日運動をしている
団体は、北京の日本大使館前や香港で抗議行動を始めたという(二月十五日付産経新聞)。

 この記事によると、参加者には台湾の活動家も含まれ、台北市内でも抗議行動が行われ
る予定、とある。確かに尖閣諸島は、台湾人にとっても漁業権の問題が絡み決して座視で
きる問題ではないということは理解できるが、中国と歩調を合わせるかのごとく領有権の
問題として日本政府に抗議することが、はたして台湾を利することになるのであろうか。

 国民党政権時代の中華民国・台湾は、かつては尖閣諸島どころか同諸島が属する沖縄そ
のものを中華民国領土と匂わす大中華思想を表明していた。そのことを端的に示している
のは、平成七年(一九九五年)に発生した台湾の警備艇が与那国で領海侵犯した事件であ
る。このとき台湾外交部(日本における外務省)が出したコメントは「沖縄を日本の領土
と認めていないため、事実であっても領海侵犯には当たらない」という驚くべきものであ
った。

 このときの総統が李登輝氏であったことは、時代の変化を知る上で注目されてよい。な
ぜならば、その後、李登輝前総統は平成十四年九月十六日に「沖縄タイムス」のインタビ
ューに応じ、尖閣諸島の所属について次のように発言しているからである。

「尖閣諸島の領土は、沖縄に属しており、結局日本の領土である。中国が、いくら領土権
を主張しても証拠がない。国際法的にみて、何に依拠するのか明確ではない。国際法的な
根拠『中国の領土権』があって、第二に『兵隊が駐屯した事実』がないと、領土権うんぬ
んする資格はない。
 過去、いわゆる『国共合作』の事実も知っている。香港の工作員が蘇澳(スオウ)の漁
民を扇動していた。漁民が騒ぎ立てたとき、私は軍艦を出動させ阻止した。
 それよりも、台湾の漁民にとって、もっと重要な問題に漁業権がある。戦前の日本の国
会は、尖閣諸島と与那国、基隆(キールン)の漁業権を台湾に譲っている。戦後になって
、日本政府は何も言ってこない。真剣に考えてほしい」

 この李登輝氏の発言こそが現下の国際社会の常識である。台湾内部では、この李登輝氏
の発言に対し、その直後に旧体制勢力から強い反発があったと聞いている。しかし、それ
では台湾は中国と同じになってしまうではないか。

 中国は、尖閣諸島が古文献や古地図などに記載されていることや、それが中国の大陸棚
上の島嶼であることをもって自国領土であることを主張している。しかし、古文献や古地
図に記載されているからといって、それが直ちに自国領土であることの証拠にならないこ
とは、小学生でもわかる理屈である。また、逆に中国がフィリッピンやベトナム、マレー
シア、ブルネイ、台湾を相手に自国領土であることを主張しているスプラトリー(南沙)
諸島は、そもそも中国の大陸棚上の島嶼ではない。つまり、大陸棚上の島であるかどうか
ということは領土権主張の根拠にならないということを、中国自らが明らかにしているの
である。実に見え透いたダブルスタンダードで、そのご都合主義と鉄面皮には、いつもの
ことではあるが、あきれかえるばかりである。

■警戒すべき中国の動き

 二月十九日、日米の外務・防衛担当閣僚により開催された安全保障協議委員会(2プラ
ス2)が、共同声明を発表した。この中でとりわけ注目されたのは、「台湾海峡を巡る問
題の平和的解決」ということが明記されたことである。

 このことに関して二月二十一日付の朝日新聞は、東大教授の田中明彦氏と米国防大学の
シニア・リサーチ・フェローのジェームズ・プリスタップ氏の論評を載せている。両氏に
共通するのは、今回の日米安保協議で台湾海峡問題が共通戦略目標に掲げられたことは従
来の主張を明確にしただけのことでとりわけ目新しいことでもないし、「逆に書かなけれ
ば不自然な話だろう」(田中氏)と語り、中国側の過剰な反応を牽制している点である。

 特に、先にも触れた昨年十一月に生じた中国原子力潜水艦の領海侵犯事件は、中国の極
東アジア戦略が太平洋をにらんでアメリカと直接対峙する危険性を秘めていることを明ら
かにした点で、極めて重要な意味をもつ。この事件を背景にして田中氏が「中国に透明性
を求めるのは当たり前だ」と言い、プリスタップ氏も「『軍事予算の透明性』を中国に促
すのも今に始まったことではない」と言い、ともに中国の軍事面での透明性を指摘してい
ることは単なる偶然ではない。今回の日米安保協議委員会の開催そのものが、近年急速に
近代化を進めている中国の軍事力の脅威を前提にしていることは疑いのないことである。
今年二月九日の魚釣島の灯台の国有化もこのような中国の動きに対する将来を見据えた戦
略上の布石と考えれば、小さな島を巡っての単なる領有権争いといったものではないとい
うことがわかろうというものである。

 この日米協議と三月十四日に閉幕した中国の第十期全国人民代表会議(全人代)をリン
クさせてみると、台湾海峡の危険性がより一層現実味を帯びた問題として浮き上がってく
る。それは会議最終日にほぼ全会一致で採択された台湾「独立」の阻止を目的にした「反
国家分裂法」の成立である。その第八条には「いかなる名目、方式であれ、『台独』分裂
勢力による台湾を中国から分裂させる事実、分裂させようとする重大事変、あるいは平和
的統一の可能性が完全に喪失する事態に対し、国家は非平和的方式及びその他の必要な措
置を取り、主権と領土の保全を守る」とある。中国は明確に「非平和的方式」つまり台湾
が「独立」の動きを示したら軍事力を行使するということを世界に向けて宣言したのであ
る。

■結びに代えて

 尖閣問題は、確かに漁業権の問題も絡み台湾にとっても座視し得ぬ問題かも知れない。
しかし、台湾海峡を挟んで現実に極めて危険な状況が生まれつつある今、もっとも友好的
であるべき日本と台湾との間にこのようなことで亀裂が入ったら、喜ぶのは中国である。

 今、台湾に望むことは、目先の利益に踊らされて大局を見失ってはいけないということ
である。このようなときこそ、日台がしっかりと手を結んで有事に備えなければならない
。これこそ両国民の最大の使命であろう。


香港抗議船が尖閣領海に一時侵入、海保が退去警告
【10月28日 読売新聞】

 27日午前9時21分、沖縄県の尖閣諸島・魚釣島の西南西約22キロの日本の領海内に、同
諸島の中国の領有を主張している香港の反日団体「保釣行動委員会」の活動家らが乗った
抗議船1隻が入った。海上保安庁の巡視船が放水したり、接舷したりして、領海から退去
するよう警告。船は午前10時30分に反転し、午前11時35分、領海を出た。香港に向かった
とみられる。

 第11管区海上保安本部(那覇)などによると、抗議船は漁船型の「保釣2号」で、中国
国旗を掲げていた。午前5時15分、同島の西南西約85キロの東シナ海で同島方面に向かっ
ているのを海上保安庁が確認した。尖閣諸島への上陸を目指し、22日に香港を出港してい
た。同委員会は「安倍首相が靖国神社を参拝しないことを約束していない」などと非難し
ている。

 船は反転する前に、約30分停船。同委員会のホームページによると、1996年、同諸島に
向かっていた抗議船から海に飛び込んで死亡した香港の活動家を追悼して、海に花束を投
げ入れたという。

 尖閣諸島は日本固有の領土だが、中国と台湾も領有を主張。2004年には、中国の活動家
7人が魚釣島に上陸し、沖縄県警が入管難民法違反(不法入国)の現行犯で逮捕。今年8
月には台湾の活動家らの抗議船が同島の西南西約33キロまで接近し、巡視船に投石するな
どの抗議行動をした。

 尖閣諸島の領有権を主張する香港の団体の活動家らが乗った船の同諸島接近を受け、政
府は27日、首相官邸に官邸連絡室を設置した。


尖閣諸島への上陸阻止に抗議 中国外務省、日本側に
【10月28日 産経新聞】

 中国外務省は27日、尖閣諸島(中国名・釣魚島)への上陸を目指していた香港の団体の
漁船が、同島周辺海域で海上保安庁の巡視船に実力で阻止されたとして、日本側に抗議し
たと発表した。抗議は同省アジア局担当者が北京の日本大使館を通じて行った。

 中国側は「釣魚島と周辺の島々は中国固有の領土であり、中国の民衆が島の主権を主張
するのは正当な行動だ」と表明。中国政府が危害を加えないよう要請していたにもかかわ
らず、日本側が多数の船を動員し、香港の船に体当たりするなどした結果、負傷者が出た
と指摘した。

 その上で、日本政府が島を実効支配していることは中国の主権の侵害であり、受け入れ
られないとあらためて強調。日本側が「両国関係改善と発展の大局に立って、適切に問題
を処理するよう望む」と要求した。(共同)


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