外務省が「訪台に関する内規」を撤廃か!?

駐タイ大使などをつとめた岡崎研究所理事長で本会副会長の岡崎久彦(おかざき・ひさ
ひこ)氏に、官僚の台湾訪問について下記のような状況を本会機関誌『日台共栄』に寄稿
していただいたことがあった。

≪私は1992年(平成4年)、駐タイ大使を最後に外務省を退官しているが、日華断交の72年
(昭和47年)から退官するまで一度も台湾に行くことができなかった。なぜなら、今では
外務省内規が改正され、課長クラスまで行けるようになったが、あの頃、課長以上は行っ
てはいけなかったからである。≫(平成16年12月1日発行、『日台共栄』第4号掲載「台湾
と私(4)─台湾を論じない知的怠惰」)

 外務省は昭和55(1980)年に他省庁も拘束する内規を制定し、国家公務員の課長クラス
以上の訪台は認めてこなかった。しかし、その22年後の平成14(2002)年8月、第一次小泉
内閣当時、外務政務官だった水野賢一(みずの・けんいち)衆議院議員(現・参議院議
員)が「政務官」としての台湾訪問を希望した。ところが、当時の川口順子(かわぐち・
よりこ)外務大臣は「政府の方針に照らして認められない」と受け入れず、水野議員は潔
く政務官を辞任した。政府の方針とは外務省の内規だった。

 そこで、水野議員はその年の11月22日、衆議院外務委員会でこの外務省内規について質
した。この答弁の中で外務省側が内規改定を約束したことで、ようやく課長クラスまでの
訪台が認められるようになった。課長クラス以上でも、日台双方が正式メンバーとして加
盟する国際機関に関わる場合は柔軟に対応できるようになった。岡崎氏はこのことについ
て書いたのだった。

 ところが、平成23(2011)年5月4日、衛藤征士郎(えとう・せいしろう)衆議院副議長
が訪台、また8月12日には溝畑宏(みぞはた・ひろし)観光庁長官が訪台した。衆院副議長
も観光庁長官の訪台も初めてのことだった。今年に入ってからは11月29日に日本と台湾で
「相互承認協定(MRA:Mutual Recognition Agreement)」を締結したとき、経済産業
省の上田隆之・通商政策局長が訪台して立ち会っている。

 課長クラスまでの訪台という外務省の内規があったはずなのに、衆院副議長や観光庁長
官、果ては現役の局長まで訪台するとはどういうことなのだろう。

 衛藤征士郎・衆院副議長は東日本大震災に対する台湾から多大な支援をいただいたこと
で、「その温かいご支援に感謝の意をこめ私が衆議院を代表して訪台した」とブログでつ
づっている。

 また、溝畑宏・観光庁長官の訪台に尽力して同行した大江康弘(おおえ・やすひろ)参
議院議員は、ブログでそのときのことについて「東日本大震災からの復興を祈って文字通
り、台湾の復興航空がチャーター便を運航、日本から観光庁長官も式典に出席された。今
まで中国の圧力から日本の観光庁長官が訪台することはなかったのだが、この度、私がお
願いをして長官に英断をもって台湾に行っていただいた」とつづっていた。

 これらから分かるのは、中国が反対しにくい東日本大震災への御礼という名分を立てて
訪台していることだ。通商政策局長の訪台も調印の立会いという名分だ。

 そこで、外務省に確認してもまともな返答はしないだろうと踏み、関係議員筋などに当
ってみたところ、どうも外務省はこの内規を撤廃したようだという。

 もし外務省が訪台に関する内規を撤廃したのなら大歓迎だ。大江議員がつづっていたよ
うに「中国の圧力」に屈して媚びる必要などさらさらない。日本は日台関係について「非
政府間の実務関係」と定めているのだから、実務にタッチする官僚がクラスに関係なく訪
台できることが当り前なのだ。それが主権国家としてのあり方であり、自立した国のあり
方だ。

 どうもまだ「名分」を立てながらの恐る恐るの訪台という印象だが、進めるべきを進め
るために、局長や次官クラスも堂々と訪台して「実務」をこなしてもらいたいものだ。


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