本誌では、15日、台湾独立建国聯盟日本本部が14日付で出した声明の日本語訳を紹介し
た(1)。その背景を説明している日本語のニュースを2篇転載する。それぞれ産経新聞
社(2)および台湾の中央通訊社(3)の報道である。
なお、被害者の遺族が、悲憤と台湾当局への不満から「青天白日紅旗ではなく五星紅旗
を出したほうが安全に保障がある」と語ったと、中国のメディアが誇らしげに伝えている。
中国による、台湾の孤立化と、台湾当局による一中政策によって、台湾人民が自国への
不信感をもち、一部には、中国しか頼れないと思い込まされるに至っている可能性がある。
(1)声明
フィリピン政府が広大興28号は一つの中国政策によって処理するとしたことについて、
我々は馬英九の外交休兵、一中政策、および憲法一中の謬論を譴責するとともに、台湾当
局馬英九に対し、フィリピン政府をして直接台湾とその善後措置を協議せしめるよう要求
する。
2013年5月14日
台湾独立建国聯盟日本本部
委員長 王 明理
原文:
http://groups.yahoo.com/group/nihonnokoe/message/1924
(2)台湾がフィリピンに渡航自粛など発動 漁船銃撃で
MSN産経ニュース2013.5.15 23:43
【台北=吉村剛史】フィリピン沿岸警備隊の銃撃により台湾漁船の船員1人が死亡した
事件で、台湾の総統府は15日夕、フィリピンへの渡航自粛勧告や経済・高官交流の停止な
ど、8項目の制裁措置を発動したと発表した。
駐フィリピン代表(大使に相当)の召還やフィリピン人の台湾での新規の就労申請を認
めないなどの制裁を同日未明に公表しており、これに次ぐ追加措置。
台湾側は正式謝罪と賠償、関係者の処罰、台比間の漁業協議着手を求め、同日夕までに
回答がなければ、追加制裁を講じると警告していた。
フィリピン側は対台湾外交窓口機関「マニラ経済文化事務所」のバシリオ代表が15
日、外交部(外務省)を訪れ、謝罪など申し入れたが、これを拒否。アキノ大統領自ら
「深い哀悼と謝罪」を表明したが受け入れなかった。
台湾の強硬姿勢の背景には、フィリピン側が「一つの中国」の原則のもと、外交関係の
ない台湾と、排他的経済水域(EEZ)が重なる海域の問題を扱うことを避けようとした
ことへの不満があるようだ。
銃撃事件を受け、台湾の国防部(国防省)と海岸巡防署(海上保安庁)は16日、漁民保
護を想定し、艦船や戦闘機が参加する合同軍事演習を行うなど、牽制(けんせい)を強め
ている。
台湾の外国人労働者のうち、フィリピン人は約2割の9万人に上り、制裁が長期化すれば
両国経済に与える影響が懸念されている。
(3)台湾、強硬姿勢崩さず フィリピンに追加制裁
フォーカス台湾 2013年5月15日 20時46分 (2013年5月16日 09時54分 更新)
〔転載にあたり、一部表現を変更〕
(台北 15日 中央社)江宜樺・行政院長(=首相)は午後6時に記者会見を開き、フィリ
ピンから誠意ある回答がなかったとして直ちに追加の制裁措置を採ることを発表した。フ
ィリピン公船による台湾漁船銃撃事件は、台比間のほぼ全ての交流がストップする事態に
発展した。
フィリピン大統領府報道官は15日午後記者会見を開き、対台湾窓口機関のトップをアキ
ノ大統領の特使として、銃撃で亡くなった台湾漁民の遺族に謝罪することなどを発表し
た。台湾側は謝罪については評価したものの、「予想しなかった不幸な事故」など受け入
れ難い表現があることを問題視、政府ハイレベル交流のほか、観光、経済、農業、技術協
力などの交流の即刻停止に踏み切った。
台比間に正式な外交関係はなく、フィリピンは過去にも台湾の詐欺グループを中国に送
還するなどしてきた。アキノ大統領は今回、「“1つの中国”原則に従いこの問題を処理す
る」などと発言、北京は台湾援護をアピールし“1つの中国”の実績作りをねらう。
武器を持たない漁民が突然射殺された衝撃は大きく、台湾は強硬姿勢を強めているが制
裁の効果には疑問も指摘されている。幕引きの見通しが立たない中、馬英九政権は厳しい
舵取りを迫られる。(高野華恵)