台湾高速鉄路(台湾版新幹線)関連は報道も迷走?
日本李登輝友の会理事・日台鉄路愛好会幹事 片木 裕一
■開通式は未だ「暫定的」
台湾高速鉄路(台湾版新幹線)の開業について、10月19日には「来月中旬」、21日には
「数ヶ月」遅れと報じられ、26日にはさらに開通式を12月7日に行うと報じられた。「数
ヶ月」は立法院の質疑応答で蔡交通部長が述べたもの、「12月7日開通式」は台湾高速鉄
路会社が交流協会の台北事務所を通じて発表したものであるが……。
前者の根拠は開業の条件であるIV&V(国際的な第三者機関)の認証がまだ取得でき
たおらず、データ収集だけでも今後一週間以上かかるからである。当然、現時点では認証
はとれておらず、従って営業開始の目処は立てられないのだから開通式を決定することは
できない(関係者しか乗車しないのであれば可能であるが)。
不思議に思っていたところ、「12月7日開通式」には「暫定的に」とのひとことが付記
されているのだそうである。そのひとことが交流協会に伝えられなかったのか、発表の際
に欠落したのか、報道機関が報じなかったのかは不明であるが、いずれにしても報道を鵜
呑みにしてはいけないのである。
■非常識な地震発生後「3秒以内完全停止」という報道
これを象徴するようなことがあった。
先般、台湾高速鉄路の運営母体である台湾高鉄のホームページに次のような記載があっ
た(http://www.thsrc.com.tw/)。
針對媒體有關台灣高鐵公司昨日進行履勘地震演練之相關報導,台灣高鐵公司謹說明如下:
1.根據台灣高鐵公司對於列車煞車的規範,在一般狀態下,當列車以時速300公里行進時,
完成煞車所需距離為6190公尺,所需時間為136秒;如果在緊急狀態下,則完成煞車所需距
離為3928公尺,所需時間為90秒。相關數據係根據列車停車所產生的摩擦力及動能精準計算
,以確保煞車時列車乘客之安全。
(項番2.は省略)
3.某媒體所謂日本新幹線於地震一發生後三秒鐘內,即讓車子完全停下來,實違反物理科學
原理,亦非事實,台灣高鐵公司至表遺憾。
10月31日に実施した地震訓練の報道内容についての説明である。要約すると以下のよう
な内容である。
1、台湾高鉄のブレーキ基準では、通常時速300kmの場合は136秒・6190mで停止、非常の
場合は90秒・3928mで停止する。これらは摩擦力や運動エネルギーを精緻に計算した結
果であり、これにより列車の安全は確保されている。
3、ある報道では、日本の新幹線は地震発生後3秒内で列車が完全に停止する、というよう
なことをいっているが、これは物理科学原理に全く反しており事実ではない。
台湾高鉄の言い分は全くそのとおりであり、本当に時速300kmの列車が3秒で停止したら
、車内では人が飛んでいる。勿論、死傷者は多数出るであろう。
「非常時で90秒・3928m」というのは妥当であるが、「地震発生後3秒内で列車が完全
に停止」などという非常識な報道をしたのはいったいどこか調べてみると……それは10月
23日の「YAHOO奇摩ニュース」だった(元は23日の聯合報)。以下、その内容。
高鐵履勘委員22日在嘉義—台南間模擬地震發生,當時車速300公里、震度6級,列車持續開行
近5公里才完全停住,而根據日本新幹線標準,地震發生行車電腦會自動下達煞車指令,在3
秒鐘內讓車子完全停下來。此外,疏散車上旅客時,列車執勤員竟然放不下梯子,最後還得靠
其他工作人員解圍,整個疏散過程花了20多分鐘
翻訳は不要であろう。「高鉄は停止まで5kmも走ってしまうが、日本の新幹線は3秒内で
停止する」とある。記者は何も考えなかったのだろうか?
3秒、と言うのは地震の第一波(P波)を感知してからコンピュータが車両に停止信号
を出すのが3秒以内、ということである(新幹線の一部や東京メトロはこれを1秒程度ま
で短縮している)。後半は、この訓練時列車乗務員は非常梯子を出せず、他の係員の手を
借りて出すまでに20分あまりかかったというもの。これは事実である。
■「コミュニケーション不足」と不安を煽る報道
さらに10月31日には左営駅でバックで本線に出ようとした列車が閉じているポイントに
突っ込み脱線する、という事故があったが、原因は最後尾車(バック運転の場合、最後尾
車が先頭になるので)の車掌の確認不足による指示ミスである。最後尾にいた台湾人車掌
が制御センターの日本人管制官の許可を得ず、フランス人運転手に本線入りを許可したこ
とによる初歩的な指示ミスなのである。
それにもかかわらず、報道では「多国籍会社にありがちなコミュニケーション不足」と
しているものがある。確かに多国籍会社ではコミュニケーション不足によるミスは発生し
やすく、本件もその要素が全くないとはいえないが、何でも原因をそこに求めるのは不安
を煽るだけである。
報道機関には公平で常識的な報道を求めるものであるが、読む方も鵜呑みすることなく
、ときには「本当かな?」と疑っていただきたい。
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