台湾へ接近する欧州 歴史的転機となった「蔡・パヴェル」対談  岡崎研究所

【Wedge ONLINE:2023年3月8日】https://wedge.ismedia.jp/articles/-/29608

 2023年2月2日付の台湾英字紙Taipei Timesの社説が、蔡英文総統とチェコのパヴェル次期大統領との電話会談は、中国が唱える「一つの中国」の原則と他の国々の「一つの中国」政策の違いが明確化していく文脈において重要である、と指摘している。

 蔡英文総統は1月30日、チェコの大統領に選出されたペトロ・パヴェルと電話会談を実施した。これは台湾の「外交クーデター」とみなされている。台湾とチェコとの間に正式な外交関係はない。それゆえ、総統と次期大統領との会話は重要である。

 これは2016年12月2日のトランプ次期大統領(当時)と蔡英文との電話会談と比較される。当時、多くの者は、トランプが祝福の電話を受け取ったのは、彼の無知または性格ゆえだとした。しかし、高碩泰・前駐米代表は、トランプとの電話は偶然ではなく、駐米台北経済文化代表処(大使館に相当)の1 年にわたる準備の結果だと言っている。1979年以来初めてとなる米次期大統領と台湾総統との接触は「外交クーデター」であり、当然、中国は快く思わなかった。

 パヴェル次期大統領は、昨年2月のウクライナ侵攻まで中露との友好関係を促進していたゼマン現大統領より西側民主主義諸国と積極的連携をすると約束している。欧州連合(EU)は最近、親台湾をより明確にするようになっている。パヴェルが蔡と直接対話したのは欧州国家元首としては初めてである点は注目に値する。

 パヴェルは、チェコは主権国家であり自ら正しいと信じることをなし得ると述べた。電話の中でパヴェルは、あらゆる分野における台湾との協力強化への関心を表明した。同氏が、チェコの「一つの中国」政策は、中台に同時に接するに際して矛盾なく大きな柔軟性を認めるという「二制度」の原則により補完されねばならないと述べたことも重要である。

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 1月30日、蔡英文総統はチェコのピーター・パヴェル次期大統領と電話会談を行った。Taipei Time 社説はこれを「外交上のクーデター」に等しいと述べている。「外交上のクーデター」という表現はやや大げさだが、欧州の国家元首と台湾総統との初の直接対話の実現は、台湾にとって一大快挙であることは間違いないであろう。

 EU諸国は最近、親台湾をより明確にしつつある。特にウクライナ侵略が始まってから、自由・民主・人権尊重の価値観を共有する台湾への親近感が強まりつつあるように見受けられる。

 振り返ってみれば、2016年12月、大統領に就任することとなったトランプと蔡英文総統は電話会談を行い、蔡が祝意を述べたことが思い起こされる。この時、トランプが電話会談に応じたのは、「偶然の事故」のようなものとも言われたが、実際には、在米台湾代表処が約1年間にわたって米国側に働きかけた結果実現したものであったことは、周知の事実である。

 パヴェルは、前任のチェコ大統領ゼマンに比べ、はるかに強く西側民主主義国家間の連携を進めようとしているようだ。パヴェルによれば、台湾は中国の言う「一つの中国の原則」ではなく、「二つのシステムの原則」に基づき中台関係を処理すればよい、ということになる。予想通り、蔡・パヴェルの電話会談に対し中国は「一つの中国の原則」に違反するとして強硬に抗議した。

◆来年に迫る台湾総統選の行方

 このようなEUの動きに対し、台湾の人々はどのように反応し、それが来年初めの台湾総統選挙にどう反映されるのだろうか。中国で新しく台湾事務弁公室(中国政府で台湾政策を担当)の主任に就任した宋涛は、台湾最大野党・国民党の夏立言・副主席を招き、近く中国国内で会談すると伝えられている。

 中国としては、蔡英文・民進党政権とは、事実上、対話が途絶えているので、代わりに、中国共産党に対しやや宥和的立場をとる国民党の副主席を招致し、「一つの中国の原則」に基づき、台湾問題を話し合おうということなのであろう。

 民進党側では、統一地方選挙に敗北したことを受け、蘇貞昌・行政院長(事実上の首相)が辞任し、後任に陳建仁・元副総統を選出した。新たな総統候補には、頼清徳・副総統が選ばれ、来年の総統選挙に向けた民進党の新しい布陣が決定した。やがて国民党側からも総統候補が選ばれるであろう。今から1年間、民進党、国民党ともにいかに支持者を集めることができるか、台湾の今後の行方を大きく左右する総統選挙が展開されることとなる。

 なお、最近のチェコと台湾との関係において、見落とせない一つの事実を付言しておきたい。2020年8月末から9月にかけて、チェコのビストルチル上院議長率いる政治家、財界人ら約90名かが台湾を訪問した際、立法院での演説においてビストルチルは「私は台湾人である」と発言した(これは、1963年のケネディ大統領のベルリンでの演説に倣った表現である)。

 台湾と外交関係のない国の議長が立法院で演説したのは初めてのことであったし、その中で「私は台湾人である」との発言を行ったことは、特筆すべきことであったと言わざるを得ない。

【編集部註】 記事中「台湾事務弁公室(中国政府で台湾政策を担当)の主任に就任した宋涛は、台湾最大野党・国民党の夏立言・副主席を招き、近く中国国内で会談すると伝えられている」とありますが、中国国民党の夏立言副主席はすでに2月8日に訪中し、9日に台湾事務弁公室の宋濤主任と会談しています。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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