台湾はなぜWHO年次総会へ参加できないのか

 本日(5月18日)から世界保険機関(WHO)の年次総会(WHA)がジュネーブで開かれる。当初は4日間を予定していたが、今年は武漢肺炎の影響により2日に短縮され、テレビ会議で行われる。

 これまで、武漢肺炎の押さえ込みに成功している台湾のオブザーバー参加が取り沙汰されてきた。

 テドロス事務局長は「事務局長に権限はない」「加盟国が決める問題だ」と表明している。中国は台湾が「『一つの中国』原則」を認めるなら参加の道は開かれると主張していることから、国家として認められた国でなければ参加できないようになんとなく思い込まされてきたが、果たして国という条件がWHO参加には必要なのだろうか。

 ドイツは5月15日、「参加に国としての地位は必要ない」と述べ、台湾のWHAへのオブザーバー参加を改めて表明した。

 日本もこれまで「地理的空白を生じさせるべきではない」と主張し、ドイツの考え方と軌を一にしている。それは、安倍総理が「政治的な立場において、『この地域は排除する』ということを行っていては、地域全体を含めた健康維持や感染の防止は難しい」(1月30日の参議院予算委員会答弁)に明確に表われていた。

 WHOは憲章前文において「人種、宗教、政治信条や経済的・社会的条件によって差別されることなく、最高水準の健康に恵まれることは、あらゆる人々にとっての基本的人権のひとつ」と謳っている。

 「健康に恵まれることは、あらゆる人々にとっての基本的人権のひとつ」だと謳うなら、台湾も「あらゆる人々」に入るわけだから、ドイツが主張するように「国としての地位は必要ない」ことにならないか。それが論理的帰結だろう。政治が介入する余地はない。

 この崇高な理念の実現をいったい何が阻んでいるのか。東京新聞が伝えるところによれば、それは、中国とWHO事務局の間には「台湾の参加には中国の同意が必要」と定めた「秘密の備忘録」の存在があると指摘する。だから台湾は、WHO内では「中国台湾」(Taiwan, China)と呼ばれている。はしなくもそれは、5月6日の記者会見でWHOの法律顧問が台湾を「中国台湾」と呼んだことに表われていた。

 WHO内の台湾の呼称は「中国台湾」で定着している。つまり、中国の政治的立場をWHOは完全に受け入れてしまったのだ。中国は拠出金をもってWHOを丸め込んだ。これは買収行為だ。

 しかし、今回の武漢肺炎に限らず、重症急性呼吸器症候群(SARS)のときなど、中国が台湾に情報など医療的援助したことがあったのか。台湾外交部は「中国とは全く無関係」だと明らかにしている。これで果たして「台湾の参加には中国の同意が必要」なのだろうか。

 WHOは中国の政治的立場を鵜呑みにしていると、台湾という地域に医療の空白地帯ができることに気づいていないのだろうか。気づいていて空白地帯を埋める努力をしないのなら、WHOの存在価値はない。WHOの改革が求められるゆえんだ。

 本誌で何度もレポートを紹介しているノンフィクション作家の河添恵子氏も、WHOに懐疑的で、台湾が参加できないことを憂えている一人だ。京都大学教授の藤井聡氏とともに、台湾のWHA参加について総括的にまとめている。下記にご紹介したい。

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