台湾の統一地方選挙結果を評価した中国の世論操作に朝日も産経も注意喚起

 台湾の統一地方選挙で中国国民党が13の市県を占めたことから、投開票日の11月26日、中国の国務院台湾事務弁公室の朱鳳蓮・報道官は「この結果は、平和や安定を求め、良い暮らしをしたいという主流の民意を反映した」(新華社通信)と評価する談話を発表した。

 やはり、そう来たか。この結果を受けて、中国が「台湾の民意は民進党の中国政策に『ノー』を突き付けた」と世論操作してくることは予想されたことだ。

 朝日新聞もそのことを予想していたかのように、昨日の社説「台湾の地方選 民主主義 対岸に示した」で習近平・国家主席に釘を刺すように下記のように指摘していた。

<中国の習近平(シーチンピン)・国家主席は先の共産党大会で中台統一を「中国人が決めること」「武力の使用を放棄しない」と述べた。 しかし、台湾の人びとが問うているのは、統一の是非以前に、市民が発言する自由、等しく政治に参加する権利があるかどうか、にほかならない。地方選は、民主主義の実践を通じて中国の共産党支配にノーを突きつけたものと、習氏は認識すべきだ。>

 その言やよし、である。ただし、「統一の是非」は不要だ。台湾の主流の民意は中国との統一に反対だからだ。

 選挙前、台湾独立建国連盟などが、中国から軍事侵攻を受けたり、受けそうになった場合、台湾の安全を守り、「絶対に降伏しない」との決意を示す「降伏不承諾書」への署名を統一地方選挙に出馬する候補者などに求めた際、台北市長に当選した中国国民党の蒋萬安氏でさえ「降伏する台湾人などいない」と言い切っている。

 香港で民主化デモが起こったときも、蒋萬安氏は「台湾で一国二制度は存在しない」と述べ、中国が統一の平和的解決策として掲げる「一国二制度」へも反対を表明している。

 今後も中国は勢いをつけている中国国民党勢力を背景に、現実とは異なる「台湾の民意」をテコに世論戦やプロパガンダを仕掛けてくるだろう。

 今朝の産経新聞「主張」も、台湾の統一地方選挙結果を受け「中国が近年、情報活動で自国に有利な状況を作る『影響力工作』を活発化させている」ことを取り上げ、「習政権が台湾併?(へいどん)へさまざまに策を弄してくるであろうことは、容易に想像できる」として、日本の台湾支援を訴えている。

—————————————————————————————–台湾与党の敗北 自由と民主を守り続けよ【産経新聞「主張」:2022年11月29日】

 台湾の統一地方選は、蔡英文政権の与党・民主進歩党が最重要の台北市長選で敗れるなど大敗を喫し、蔡氏は党主席辞任を表明した。

 中国政府の台湾事務弁公室は「平和や安定を求める民意の反映」とする談話を発表し、民進党の敗北を歓迎した。だが、蔡政権の大敗を対中国政策への批判とみるのは誤りだ。

 民進党は外交・安全保障政策を重視し、中国の専制主義に対し、「自由と民主主義を守る」と訴えた。だが市長選で有権者の関心は、候補者の人柄や物価や景気といった内政問題に向かい、争点にはならなかった。

 習近平主席は10月の中国共産党大会で、台湾問題について「祖国の完全統一は必ず実現しなければならず、必ず実現できる」と強い意欲を示し、「武力行使の放棄を決して約束しない」と述べた。

 習政権が台湾併?(へいどん)へさまざまに策を弄してくるであろうことは、容易に想像できる。

 中国が近年、情報活動で自国に有利な状況を作る「影響力工作」を活発化させていることは、日本の防衛研究所の年次報告書「中国安全保障レポート2023」でも指摘されている。

 中国が統一地方選の結果で勢いづき、武力を背景に、さまざまな工作を展開して台湾の人々の士気をくじこうとする恐れがある。選挙への介入を目的とするサイバー攻撃は特に警戒が必要だ。

 2024年1月の総統選に向け、中国寄りとされる野党・国民党も民進党への圧力を強めてこよう。蔡政権が求心力を低下させる中で、台湾側が習政権にスキを見せることがあってはならない。

 中国が台湾周辺で威嚇行為を活発化させる中、蔡政権は、中国を直接刺激する言動をたくみに避けながら、挑発には屈しない毅然(きぜん)たる態度を貫いてきた。

 中国と対抗する上で、米欧、日本など民主主義国家との連携を強め、各国要人の往来、交流を活発化させた。

 蔡政権には今後、選挙で批判を受けた内政を安定させるとともに、引き続き、自由と民主主義を守る大切さを台湾の人々に説き続けてもらいたい。

 台湾危機に日本は無縁ではいられない。各国の先頭に立って、台湾との交流を深め、自由と民主主義を守るための支援を継続していかねばならない。

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