台湾とアジア太平洋地域の平和にかかる新局面  羅 福全(台湾安保協会理事長)

総統府国策顧問をつとめた元第一銀行頭取の黄天麟先生が会長をつとめる「台日文化経済協会」
は日本との民間交流団体で、設立は1952年(昭和27年)7月。台湾と日本の協力関係を推進するに
は文化と経済方面から着手すべきだとの観点から、半官半民の「中日文化経済協会」として設立さ
れた。今年で63年目を迎える、台湾でもっとも長い歴史を有する団体だ。

 その会報「台日文化経済協会通信」の最新号に、台北駐日経済文化代表処代表(駐日台湾大使に
相当)をつとめ、現在は故黄昭堂氏の後任として台湾安保協会理事長をつとめる羅福全氏が「台湾
とアジア太平洋地域の平和にかかる新局面」と題して寄稿されている。漢文と日文を併載している
ので、日文の全文をご紹介したい。

 ちなみに、台日文化経済協会は1989年(平成元年)に日華親善協会全国連合会(平沼赳夫会長)
と姉妹提携し、2005年6月には「中日文化経済協会」から現在の「台日文化経済協会」に改称して
いる。

 本会とは河津桜の寄贈を通じて交流しはじめ、その後、桜ツアーや「役員・支部長訪台団」で交
流を深めている。


台湾とアジア太平洋地域の平和にかかる新局面  羅 福全(台湾安保協会理事長)
【台日文化経済協会通信(通巻30号)期秋季号:2015年9月】

 周知の通り、南シナ海における昨今の中国の軍事的拡張はアジア太平洋地域の深刻な課題、さら
には米中衝突発生の危機となっており、冷戦終結以降、初めての超大国による直接対峙の形相を呈
している。

 中国は南シナ海において積極的に人工島を建設しており、ここ1年半において建設された人工島
の総面積は2000エーカーにも達し、ハリー・ハリス米太平洋艦隊司令官は、人工島の建設は軍事目
的で、深水港は戦艦停泊のため、3048メートルの滑走路は中国B52爆撃機の離発着のためであり、
中国は次に対空ミサイル及び対艦ミサイルを配備するだろうとの見方を公に示している。

 中国のこうしたやり方は、すでに周辺諸国の脅威となっており、これはまた南シナ海地域におけ
る自由な航行を保護すべきと一貫して主張している米国に真っ向から挑むものでもある。

 今年8月20日、米国防総省は「アジア太平洋地域の海洋保全戦略」(Asia-Pacific Maritime
Security Strategy)を発表し、4つの側面、即ち(1)衝突や脅威を阻止するため、米国の軍事能
力を強化する、(2)北東アジアからインド洋に位置する同盟国やパートナーと協力し、その能力
を強化する、(3)軍事外交を利用してより透明なゲームルールを構築する、(4)地域安全保障機
構を強化し、より開かれた効果的な地域安全保障機構となるようその発展を奨励する。

 同報告によると、米国の軍事配置は南シナ海にとどまらず、北東アジア・東シナ海も含まれ、こ
れには台湾海峡・東南アジアからインド洋にかかるアジア太平洋地域の安全保障も含まれる。同時
に、米国海軍は今後5年以内に米国領土外の太平洋艦隊につき艦船を30%増やし、2020年までには
60%の艦艇や戦闘機をアジア太平洋地域に配備するとしている。

 アジアにおける中国の軍事的台頭に対し、米国は軍事力と同盟関係を向上させており、これは明
らかに現状変更を企む中国を抑え込もうとする全面的な抑止力である。

 去年7月、日本の安全を防衛し、日本が米国と共に作戦に加われるよう、安倍首相はまず「集団
的自衛権の行使」を閣議決定した。さらに今年7月には、国会で「安全保障関連法案」が可決さ
れ、これにより戦後70年を経て初めて、日本の安全保障を防衛するための派兵を認める「集団的自
衛権」の行使が立法された。同「安全保障関連法案」は直ちに国際社会の広い支持を集め、米国、
オーストラリア、EU28力国・アセアン10力国、モンゴルがそろって支持を表明した。日本の「集
団的自衛権」行使への期待は明らかであり、今後、アジア太平洋地域の安全と平和に寄与するだろ
う。

 日本と台湾の関係についてみると、安倍首相は2011年9月に出席した台湾安全保障協会主催の国
際シンポジウムにおいて、「首相在任中・自由・民主主義・基本的人権・法治の4つの価値を外交
目標として掲げ……日本と台湾はいずれも共通の価値を有する重要なパートナーである」と述べ、
特に、日本は台湾を同じ民主主義国家の重要なパートナーとして関心を抱いているとした。

 今年7月29日にも安倍首相は参議院で「我が国と台湾は基本的価値を共有しており、台湾は我が
国の重要なパートナーである」と述べた上で、「安全保障関連法案は中国の拡張主義を阻止するう
えで欠かせないものである」と強調した。

 ここからも、台湾海峡の平和と安全は日米同盟の一つの重点であることが分かる。

 基本的に、現状を変更しようとする如何なる一方的な企みも「勢力均衡」(balance of power)
を壊すもので、アジア太平洋地域の平和にとって脅威となることから、アジア太平洋地域の平和は
「現状維持」に足場を得たものである。

 台湾海峡の現状維持において、中国は一方的に軍事力により台湾に脅威を与えてはならない。台
湾は中国との平和的な交流を主張しており、これこそが国際社会が期待する「現状維持」である。
現状維持の下では、中国は中国、台湾は台湾であり、台湾を中華民国と呼ぼうとも台湾は独立主権
の民主主義国家であり、これが国際社会で普遍的に認められている現状である。台湾は、アジア太
平洋地域において両岸の現状維持を安定させる基本的役割を担っている。

 台湾海峡の平和はアジア太平洋洋地域の安全保障における重要な一環であり、中国の最近の言動
はすでに冷戦終結後のアジア太平洋地域の平和に対する脅威となっているが、如何に台湾海峡の平
和を維持するかは台湾と中国の「一対一の関係」のみによるものではない。

 米国は長年にわたって「台湾関係法」に基づき、中国が台湾問題を武力で解決しないよう主張し
てきた。今年8月13日に米国務省のジョン・カービー報道官が、米国は台湾関係法の下の責任を実
践することを引き続き強くコミットすると述べているほか、最近、米国が打ち出した「北東アジア
からインド洋に位置する同盟国及びパートナー」でも台湾はその一つとなっており、台湾はまもな
く新たな時代を迎えるだろう。


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