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写真:対談した女子高生らと写真に納まる蔡英文氏(中央)=4月16日、台北、鵜飼啓撮影
台湾初の女性総統となる蔡英文(ツァイインウェン)は4月16日、台湾師範大学の講堂で女子高
生たちと向き合っていた。
「好奇心を持て、冒険的であれ、想像力を持て」。こんなメッセージの後にもう一つ、付け加え
た。
「反逆心を持て」
蔡は裕福な家庭に育ち、台湾一の名門、台湾大学を卒業。米英に留学して法学博士となり、台湾
に戻って若くして大学教授を務めた。選挙で2度の落選を経験しているが、順風満帆な人生を歩ん
できた。
「反逆心」は蔡と無縁の言葉のように聞こえる。
古くからの知人たちが蔡を語るとき、必ず出てくるのが「内向的」という評価だ。高校時代の同
級生、蕭麗玉は蔡について「とてもおとなしかった。成績も中の上くらい。台湾大学に合格したと
いうのを聞いて驚いた」と振り返る。
蔡も自らの内向性を認めている。子どもの頃は1人で猫と遊ぶのが大好きだった。人と話すのが
苦手で、大学進学時には歴史か考古学を学ぼうと考えたという。人と関わらずに済む、というのが
理由だった。
学業でも適応に苦労した。台湾大学で当時最もレベルが低かったという法学部に滑り込むが、蔡
は「人生の悲惨な階段にまた踏み出してしまった」と、当時を語っている。
当時の大学教員は、戦後に国民党と共に中国から渡った人や1945年以前の日本統治時代に教育を
受けた人らが混在。中国語が不得意な教授もおり、3年時に級長だった蔡は台湾語で通訳すること
もあったという。文化的背景の多様さに混乱し、受け入れるのが難しかったと蔡は振り返る。
成績が上向いたのは、大学後期に判例を重視する英米法に出会ってから。ケーススタディー中心
で生活と法のつながりを実感し、自分の中で消化できるようになった。留学して勉学を続けること
を決めたのも、この出会いがあったからだ。
末娘の留学に反対する父は引き留めを図ったが、蔡はここで「反逆」した。空港では、母が涙を
流して見送ったという。一度決めると揺るがない強さが、垣間見えていた。=敬称略
(台北=鵜飼啓)