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写真:1999年7月、ドイツの放送局の取材を受ける李登輝総統(当時、左)=台湾・中央通信社提供
「両岸(中台)関係は、陳水扁政権時よりもさらに後退している」
馬英九(マーインチウ)・前総統の対中政策ブレーンだった淡江大学中国大陸研究所教授の趙春
山は5月27日、シンポジウムで蔡英文(ツァイインウェン)政権についてこんな見方を示した。
2000〜08年に初の民進党政権を率いた陳水扁は任期後半、「台湾」名義での国連加盟の是非を問
う住民投票を推進するなどし、中台関係が緊張した。中台関係の「現状維持」を掲げる蔡は、中国
を挑発しない姿勢を明確にしているものの、陳政権時よりも状況は厳しいというのだ。
趙はその理由を、こう語る。「一つは、民進党の独立志向。もう一つは、蔡英文が背負う『二国
論』の重しだ」
「二国論」とは、台湾生まれで初めて総統になった李登輝(在任1988〜2000年)が99年7月、ド
イツの放送局とのインタビューで打ち出した中台関係についての考え方だ。
「すでに両岸関係の位置づけは少なくとも『特殊な国と国の関係』であり、一つの合法政府と一つ
の反乱団体、あるいは一つの中央政府と一つの地方政府というような『一つの中国』の内部の関係
ではない」
後に「二国論」と呼ばれるようになる李のこの発言は、台湾を自国の一部と主張する中国から
「両岸関係を公然と国と国の関係だとねじ曲げるもので、中国の領土と主権を分裂させようという
下心を暴露した」と猛烈な批判を浴びた。
「二国論」は、李が設けた「中華民国(=台湾を統治する政権)の主権と国家地位の強化に関す
る作業グループ」の研究報告がもとになっていた。
李の側近で、作業グループの顧問を務めた張栄豊は「『特殊な国と国の関係』は報告の序章に書
かれていたに過ぎず、研究の本質ではなかった」と語るが、「二国論」は「台湾独立をあおった」
という中国の李への評価を決定づけた。
蔡が12年の総統選前に出した自伝では、「二国論」とのかかわりはすっぽり抜け落ちている。だ
が、作業グループの座長を務めたのは蔡だった。=敬称略
(台北=鵜飼啓)