八田墓前祭を八田精神も台湾精神も無視する馬総統の「友日ショー」と嘆く台湾人

その馬総統の談話に頷き握手をしている日本人を見て悲しく思った!

 今回で15目となった「台湾李登輝学校研修団」の模様について、本部事務局員でスタッ
フとして参加した佐藤和代(さとう・かずよ)さんが本誌でレポートしている。李登輝元
総統もこのレポートを楽しみにされているという。

 その第2弾で、5月8日に烏山頭ダムの畔で斎行された八田與一技師夫妻の墓前祭に参列し
たときの模様を伝えている。レポートに「わが研修団も団体として名前を呼ばれ、蔡焜燦
先生や許世楷先生と一緒に献花をするという光栄にも預かりました」とあったように、当
日は蔡焜燦先生ご夫妻、許世楷先生ご夫妻をはじめいろいろな方にお目にかかった。

 その中に、羽鳥直之(はとり・なおゆき)氏もいた。氏は、日本統治時代に最後の日本
人台南市長をつとめ、台南の文化遺産を守り抜いて台南の人々から今でも尊敬されている
羽鳥又男(はとり・またお)のご子息で、本会常務理事でもある三宅教雄(みやけ・のり
お)氏が会長をつとめる「台南会」のメンバーとして参列していた。

 羽鳥直之氏とは確か平成9年(1997年)ころ、氏の兄で、台湾協会の常務理事をつとめて
いた羽鳥道人(はとり・みちと)氏のご紹介でお会いしたのが初めてだったと覚えている。

 平成19年(2007年)4月25日、羽鳥又男の故郷である群馬県富士見村に許文龍氏が作成し
た羽鳥又男の胸像除幕式で手島仁氏(群馬県立歴史博物館専門員)などとお会いして以来、
氏との交流が深まっていた。

 氏は2000年(平成12年)3月から「シニアネット:資深網路論壇(シニアの談話室)」と
いうホームページを開いていて、その内容はメールでもお送りいただいている。5月20日に
届いた号で、この八田與一墓前祭に参列された様子を記していて、許世楷大使夫人で児童
文学者の盧千恵(ろ・ちえ)さんとの往復メールを紹介されている。

 羽鳥氏は盧千恵さんの名前の表記を「許知恵」とされているが、本誌では夫人が産経新
聞などへの寄稿でも「盧千恵」とされているので、それに従いたい。

 盧千恵夫人が若い高校の先生の文章を日本語に翻訳して伝えている。この先生は「今年
の記念会は『八田精神』と台湾農民の飲水思源の『台湾精神』が称えられず、代わりに馬
英九個人の『友日』ショーになってしまいました」と嘆いているという。また「参加者の
日本人が、『八田精神』と『台湾精神』をないがしろにして、大勢、馬総統の談話に頷き、
握手をしているのを見て、悲しく思ったのは私だけではないことをお伝えしたいと思いま
す」とも書いているそうだ。

 台湾には「八田精神」を仰ぎ、恩に報いる「台湾精神」を守りたいとする若い世代は少
なくないようだ。墓前祭をも政治利用するグロテスクな政治家のパフォーマンスは、大い
に批判されてしかるべきでる。


お目にかかれて幸いでした=羽鳥直之・盧千恵
【SeniorNet「資深網路論壇」(372号):2011年5月20日号】
http://homepage2.nifty.com/hatori/danwa2/net372.html

● 羽鳥直之氏 → 盧千恵さん

 5月8日(日)にお目にかかれてまことに幸いでした。当日は午前中に大平境教会に出席、
国立台湾文学館を台南の劉克全さんの案内で見学、懐かしい度小月のターミーを台南YM
CA林敬良総幹事と一緒に味わってから2時からの烏山頭での八田与一氏の慰霊祭に参列し
ました。(中略)

 国立台湾文学館では奥の資料室にパスポートを提示して入室許可をもらい、許知恵著作
集を拝見しました。ついで「ひでちゃんとよばないで」(おぼまこと)台湾の出版社の玉
山出版を探しましたが、未刊で見つかりませんでした。(後略)

● 盧千恵さん → 羽鳥直之氏

 本当にお目にかかれて嬉しかったです。大勢の方たちが見え、わたし達も忙しくしてい
ましたが、「友遠方より来る」で、楽しかったです。昨日は、久世礼子さん夫婦が見えま
した。

 それで、若い高校の先生が、添付ファイルに有るような文章を書きました。翻訳しまし
たので、ご覧ください。添付できなく、複製で送ります。

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 5月8日は、「嘉南大圳! の父」八田與一先生逝去69年の記念日でした。台湾に卓越
した貢献をされた日本の技師に対する、台湾人の感謝の念は、烏山頭ダムから田畑に流れ
込む流水のように、とどまることがありませんでした。

 しかし、今年の記念会は「八田精神」と台湾農民の飲水思源の「台湾精神」が称えられ
ず、代わりに馬英九個人の「友日」ショーになってしまいました。

 八田精神とは、艱難をはねのけ、その土地を深く愛し、人々に幸福をもたらすことを言
います。八田技師は嘉南大圳と烏山頭ダムの建設に、人生のもっとも壮健な20歳、30歳代
を全力投入し、干ばつ地帯の貧困な15万ヘクタールの土地を「緑野」へと変え、60万農民
の生活を潤した日本人です。嘉南平原に住む農民たちは「嘉南大圳の父」「烏山頭ダ
ムの父」と尊敬をもって呼んでいます。

 当時、大工事が竣工した後、農民は技師の貢献をたたえ、「八田友の会」を立ち上げ、
日本の彫刻家、都賀田勇に八田技師の銅像を作成してもらい、ダムが一望できる丘の上に
台座なしで置きました。工作服を着て、脚絆を巻いた足の片方を投げ出し、手で頭を支え、
沈思黙考、仕事の進捗状態を眺めている坐像はまさに、八田技師そのままの姿を髣髴とさ
せるものでした。

 第2次世界大戦後期、日本政府から銅、鉄など金属供出の呼びかけがありましたが、農民
は彼らの尊敬する八田先生の銅像が毀損されるのを恐れ、倉庫へ運び入れ隠しました。

 戦後、人々は八田技師の銅像を元のところへ戻し、5月8日の命日に祭礼を行おうとしま
したが、当時の中国国民党政権は、蒋介石以外の銅像を建てることを許しませんでした。
日本人の銅像などはもってのほかでした。蒋介石の銅像は八田技師の坐像と違い、軍服姿
の立像または馬上人で、高いところから人々を睥睨しているものでした。

 八田技師の恩恵をしのぶ記念会などできない状況が続きました。1980年代に民主化が進み、
特に李登輝前総統の時代になってから、農民は亡くなられた八田技師に台座をつけ(神様
に昇格)、毎年公開記念会を持つようになりました。

 2007年7月12日、八田技師の遺徳をしのんで許世楷駐日代表は、金沢まで出向き、ご遺族
に感謝の勲章を当時の陳水扁総統に代わって渡しました。農民から総統にいたるまで、秘
密裏の記念会から感謝の勲章までのこの歴史は、台湾人民の「果物を頂くときは、果樹を
思う」、または、「飲水思源」の台湾精神を表しています。

 このような歴史背景があるにもかかわらず、中国国民党の党主席馬英九は、1億2千万元
を使って当時の日本人の宿舎を再建させたと記念式場で話し、自分は反日だといわれてい
るが、実際は「友日」なんだと話していました。このような馬総統のやりかたは、台湾人
の間で、反感を買い、「30数年、八田精神も台湾精神も無視してきた人が何だ」と、台湾
人の間で不評です。

 参加者の日本人が、「八田精神」と「台湾精神」をないがしろにして、大勢、馬総統の
談話に頷き、握手をしているのを見て、悲しく思ったのは私だけではないことをお伝えし
たいと思います。
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● 羽鳥直之氏 → 盧千恵さん2

 私の周りの台湾人は、馬総統が陳水扁前総統馬のした仕事を横取りしたと言っていまし
た。翌日の台湾各紙の報道ぶりが地味になったのは、大々的に馬総統の業績と言いたくな
かったからだと言っていました。

PS.

 メールの最後の言葉「参加者の日本人が、「八田精神」と「台湾精神」をないがしろに
して、大勢、馬総統の談話に頷き、握手をしているのを見て、悲しく思ったのは私だけで
はないことをお伝えしたいと思います」の記述に心が痛みました。

 私は前半の式典には出席していなかったので出席の日本人の事は分らないのですが、私
が会った前半出席の日本人は馬総統の言葉には批判的でした。それは馬総統のこれまでの
言動を知っているからです。

 私どもの台南会は台南育ちで八田さんの下で働いていた人の子供たちが入っている湾生
グループです。自らを「日系台湾人」と言っているぐらいです。台湾の事情には日頃から
関心をもって持ってニュースに接しています。

 会場にいた日本人は普段「台湾精神」と「日本精神」について考えたこともない、又恥
ずかしながら、現代史の台湾の事情を勉強していない代議士などがいたのではないかと想
像しています。森元首相の言葉に内容のないことを嘆いている日本人もおりました。

 台湾からの義援金の額が突出していることで、ようやく台湾人の心情について気が付き、
台湾についての日本人の学びが始まったと思います。
(後略)



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