住民票に「台湾」 都容認 公文書で全国初

「是正の突破口に」関係者期待

 本日付の産経新聞によると、5月30日、東京都は台湾からの転入・台湾への転出の際、
住民基本台帳(住民票)に「台湾」の表記を認める通達を出したという。昭和62年以来、
21年ぶりとなるこの通達は「都で対応を協議した結果、『62年の通知が現状に即してお
らず、正確ではない』(関係者)と判断」した結果だという。

 それで思い出したことがある。3年前のことになる。

 杉並区に住んでいた知人で新聞記者の山田智美さんは平成15年(2003年)にタイヤル
族の青年(台湾人)と結婚して台湾に住み、翌年、男の子を産んだ。そこで住所を東京
都杉並区から台湾に移したところ、それまで給付されていた児童手当が消滅したとの知
らせが杉並区から届いた。だが、その住所はなんと「中華人民共和国 山田智美様」だ
った。当時、台湾人の夫の杉並区内の戸籍も「中国人」と記されていた。

 そこで山田さんは杉並区長に「台湾と中国は全く別の国なので、中華人民共和国を台
湾に、中国人を台湾人に訂正してください」と陳情書を送付した。まもなく杉並区から
返事が届き、宛名は「中国(台湾)」になっていた。

 この「中国(台湾)」とは、外務省の見解によれば「台湾は中国の一部」を意味する。
山田さんは納得できず、住民基本台帳を管轄する東京都へ確認したところ、戸籍簿への
記載は、「法務省の通達に基づき、中国本土、台湾を区別することなく国名の表示を
『中国』とする取り扱いになっている」という返答だったという。

 この一連の経過を産経新聞にも投稿しているが、当時の東京都は法務省の通達に基づ
いていたため、台湾からの転入も台湾への転出も、国名の表記は「中国」だったのであ
る。

 それがこのたびの通達によって改められ、日本最大にして世界有数の都市東京都が
「台湾」表記を認めたのである。山田さんの陳情や投稿が3年の歳月を経て実を結んだ
のだ。このニュースを知った台湾の山田智美さんもご主人もさぞ喜んでいるだろう。

 日本は台湾と中国と切り離して、すでにノービザ渡航、運転免許証の相互承認を実施
し、その他にも外務省の予算措置による天皇誕生日祝賀会の台湾開催や台湾人への叙勲
など、台湾を「統治の実態」と認める措置を平成14、5年ころから取り始めているので
ある。

 日本が台湾のWHOへのオブザーバー参加を初めて支持したのは、平成14年(2002年)
5月14日だったが、それを表明したのは現首相の福田康夫官房長官だったことも忘れて
はなるまい。

 産経新聞は「公文書が『台湾』表記を認めたことは、台湾出身の外国人にとって、外
国人登録の国籍表記への問題提起につながる可能性もある」と記している。

 中華人民共和国はこれまで一度たりとも台湾を統治したことはない。日中共同声明で
も、日本は台湾が中国の領土の一部だとは認めていない。だとすれば、世界に倣って外
国人登録証明書(外登証)や運転免許証の国籍表記を「中国」から「台湾」に改正すべ
きが現実的措置だ。

 台湾もまたそれを望んでいる。

 昨年10月25日、台湾・外交部日本事務会の蔡明耀・副執行長は「中国大陸から日本に
移り住む人たちは日本の治安悪化を招いており、『中国』籍の人たちに対する日本人の
印象は悪くなっていると説明、台湾の人たちが中国大陸から来た人たちと混同されない
よう、日本政府が台湾の人たちの国籍欄には『台湾』と記載するよう改善を求めていく」
と述べているのである。

 民進党から国民党に政権が変わったからといって、台湾人と中国人を区別して欲しい
という台湾政府の見解にまで変更があるとは考えにくい。日本政府は現実を直視して、
早急に外登証問題の是正に取り組むべきであろう。

 産経新聞の記事を紹介するとともに、山田智美さんの産経新聞への投稿も併せてご紹
介したい。
                   (メルマガ「日台共栄」編集長 柚原 正敬)


住民票に「台湾」 都容認 公文書で全国初
「是正の突破口に」関係者期待
【6月7日 産経新聞 1面】

 東京都が住民基本台帳(住民票)の転出入地記載について、「台湾」表記を認める通
知を都内の全区市町村に出したことが6日、分かった。国が管轄している公文書で「台
湾」表記は認められておらず、都も国の方針に従ってこれまで「中国」表記するよう区
市町村に通知していた。都道府県が公文書で「台湾」表記を認めるのは初めてで、全国
の自治体に影響を与えるのは必至だ。

 都は昭和62年に都内の自治体に対し、台湾から転入届が出された場合の旧住所の国名
表記について「外国人登録事務に準じて『中国』と記載する」と通知。住民が異動届に
「台湾」と記載しても「中国」と記すよう指導していた。

 しかし、平成12年の地方分権一括法の施行以降、住民基本台帳業務が完全に区市町村
に移行したため、国名表記について区市町村が独自で判断できるようになっていた。

 ただ、自治体の中には都の62年通知に従って「中国」とするところもある一方、「中
国(台湾)」「中国台湾省」と表記するなど、対応がバラバラだった。都にも「台湾」
表記について、問い合わせが度々寄せられていた。

 このため、都で対応を協議した結果、「62年の通知が現状に即しておらず、正確では
ない」(関係者)と判断。5月30日付で台湾からの転入者の場合、本人の届け出に従っ
て「台湾」と表記することを「差し支えない」とする通知を新たに出した。

 日本国内の公文書では、政府の「一つの中国」方針に従い、「台湾」表記は認められ
ていない。都の判断は、全国の区市町村が管轄する住民基本台帳業務に影響を与えると
みられる。

 公文書が「台湾」表記を認めたことは、台湾出身の外国人にとって、外国人登録の国
籍表記への問題提起につながる可能性もある。

 東京都が公文書への「台湾」表記を認めたことは、日本国内で長らく“国名”を名乗
れないでいる人々にとっての朗報といえる。日本政府の公文書などは「中国」の表記の
ままだが、「是正の突破口に」と、関係者は期待を寄せている。

 国際社会では、2つの政体が半世紀以上並立してきた。国連代表権と常任理事国の座
は中国にあるが、中国は台湾を実効支配したことはなく、帰属問題は決着を見ていな
い。

 日本政府は外交上は、中国の立場を「理解し、尊重する」(日中共同声明)とするだ
けで、国としての立場は明らかにしていない。しかし、窓口の各種手続きなど実務面で
は、台湾を中国に含めてきた。

 運転免許証も戸籍・外国人登録証も、台湾人や台湾出身者の国名表示は「中国」とさ
れる。日台間のノービザ渡航、運転免許証の相互承認など、現実の交流は盛んで、関係
者は実態に即した見直しを求めてきた。

 台北駐日経済文化代表処の許世楷代表はかつて、雑誌への寄稿で、「どのような小国
といえども、その主権を尊重することが世界平和を維持する上に欠くべからざる要件で
はなかろうか」(「朝日新聞」への質問状─台湾人を犠牲にするのか)と述べたことが
ある。

 同代表処の朱文清広報部長は「うれしい。長いこと表記を認めてほしいという運動を
してきた。突破口になってほしい」と語った。

 今回の通知は第一歩ともいえるが、問題もはらむ。「中国」か「台湾」かという政治
判断を、区市町村長に委ねることにもなりかねないからだ。さらなる議論を期待したい。

                                  (牛田久美)
                   ◇

■住民基本台帳(住民票) 市町村が行う行政サービスや事務処理の基礎となる台帳。
 各市町村が住民票を世帯ごとに編成して作成する。選挙人名簿や国民健康保険、国民
 年金の被保険者としての資格管理、学齢簿の作成などに使用される。住民は手数料を
 支払い住民票の「写し」を入手することができる。