中国国民党の総統選候補者は侯友宜氏に決定か! 郭台銘氏の危険な発言

 台湾で2024年1月13日に投開票が行われる総統選挙の候補者は、すでに与党の民進党は副総統で主席の頼清徳氏を選出し、台湾民衆党も総統候補を決める党内予備選挙への立候補を届け出たのは党首の柯文哲氏だけで、5月17日に公認候補として発表される。

 最大野党の中国国民党も5月17日に正式に候補者を発表する予定だという。侯友宜・新北市長と郭台銘・鴻海精密工業創業者が予備選で接戦を展開していたが、昨日の「ブルームバーグは「郭台銘(テリー・ゴウ)氏も国民党からの出馬を探っていたが、関係者によれば、世論調査の動向に加え、立法委員や自治体トップから幅広い支持を踏まえ、侯氏(65)が選ばれた」と伝えている。郭台銘氏は今回も総統選の候補者になれなかったようだ。

 侯友宜氏は、1957年に嘉義県朴子鎮に生まれた外省籍ではない台湾人。中央警察大学博士課程を経て内政部警政署署長を2006年から2008年までつとめた後、中央警察大学校長や新北市副市長に就き、2018年末に新北市長に当選している。先の統一地方選挙では台湾語で演説して支持を集めるなど、民進党の頼清徳候補にとっては手強い相手だ。

 産経新聞の矢板明夫・台北支局長が、中国との平和交渉を進めたいとの郭氏の発言について、民進党幹部が「郭氏の主張は非常に危険だ」と指摘していることを紹介している。

 台湾が大好きな日本人の中には、台湾と中国の平和交渉は望ましいと考えている人もいるのではないかと思う。しかし、それに騙されてはならないと指摘する民進党幹部の発言に意を払いたいものだ。

—————————————————————————————–台湾総統狙う鴻海創業者の危険な宣言【産経新聞「中国点描」:2023年5月17日】https://www.sankei.com/article/20230516-LXSM6ZV7XVPNNNQFBQLFKE45BM/?682755

 台湾で「金門平和宣言」という言葉が注目されている。来年1月の台湾の総統選に最大野党・中国国民党から出馬したいと表明した大手企業、鴻海(ホンハイ)精密工業創業者、郭台銘(テリー・ゴウ)氏が13日、中国の福建省沖の金門島を訪れたときに発表した声明文のことだ。金門を舞台に両岸(中台)の「平和交渉」を進めたいといった内容が含まれている。

 台湾当局や与党・民主進歩党関係者は「中国への降伏宣言だ」と同宣言を批判した。しかし、国民党の支持者や、無党派層には、同宣言を支持する人が少なくない。

 中国の山西省出身の警察官を父親に持つ郭氏は、専門学校を卒業後、1974年に小さな下請け工場を立ち上げ、それを40年余りで世界的な大企業に育て上げたカリスマ経営者だ。鴻海は2016年、日本の電機大手シャープを買収したことでも知られる。

 鴻海は1980年代に中国に進出。現在は河南省など中国各地に関連企業を展開し、海外大手から受託した製品を中国で製造する事業で大成功を収めた。

 郭氏自身、歴代の中国指導者と深い関係を築いた。習近平国家主席が福建省に勤務していたときから交流し、江沢民派の重鎮、曽慶紅元国家副主席とも良好な関係があったとされる。

 鴻海が中国で大きな成長を遂げたのは、中国当局からさまざまな政策面の優遇を受けたからだといわれ、中台の密接な経済関係を象徴する人物と言える。

 郭氏は2020年の前回総統選でも、国民党からの立候補を目指し党内予備選に参加したが、当時の高雄市長の韓国瑜氏に敗れた。今回は2度目の挑戦だ。

 世論調査などでは新北市長の侯友宜氏と接戦を展開している。台湾中南部の嘉義出身の侯氏は、市長としての実績ばかりを強調し、得意分野ではない対中政策は発言を控える傾向がある。侯氏と差別化を図るため、郭氏が最近になって親中的な発言を繰り返すようになったとされる。

 郭氏は大学で講演した際に、「自分が総統になれば中国は台湾を攻撃してこないし、中国の空軍機が台湾の周辺を飛行することもないだろう」と主張したことがあった。金門で発表した平和宣言では、「民進党政権による挑発行為が台湾海峡の軍事的緊張を高めた」との認識を示した。

 郭氏の「宣言」を受け、台湾で対中政策を主管する大陸委員会は直ちに「台湾海峡の平和を破壊しているのは中国であり、われわれは挑発した事実はない」との声明を発表した。

 中国共産党序列4位で台湾問題を担当する王滬寧(おう・こねい)全国政治協商会議主席は7日、北京での台湾に関する会議で「『両岸は一つの家族』という理念を堅持し、台湾との融合的な発展を深める」と発言し、台湾側との交渉に前向きな姿勢を示した。郭氏の「平和宣言」は王氏の発言に呼応したものだと指摘する声もある。

 ある民進党幹部は「郭氏の主張は非常に危険だ」と主張。「平和交渉」という言葉にだまされやすいが、「台湾は中国の一部」という中国側の主張を受け入れることが中国側の条件だとの点に注意を促す。その上で、この幹部は「受け入れれば台湾は軍備増強する理由がなくなり、国際社会からの支援も弱まる。中国による台湾侵攻が実施しやすくなる」と指摘した。

(台北支局長)

──────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。